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罰と反省

眠い、頗る眠いが出来ました!

「ハァ…ハァ…ハァ…!」


地面に両手を突き…荒い呼吸を落ち着かせようと、目一杯に息を吸う…。


「ハァッ…何で…何でですの…!?」


〝何故?〟…何故、何故、何故と、止め処なく溢れる疑問を吐き捨て続ける…その全ては己の身体にある…いや、〝ある筈の物〟へ向けられていた。


「何で私の魔力が…〝消えている〟んですの!?」


私の魔力、私の〝才能〟…私が磨き上げた〝至高の力〟…その一切が消失し…普段扱っていた力が行使できない事に、私はただ愕然と叫んでいた……そんな、私の言葉に――。


『ソレが、君への罰だからさ』

「ッ!?」


不意に、その言葉が響き…空間が切り替わる…〝アレ〟が…来る。


――カチッ…カチッ…カチッ…カチッ!――


迫る秒針の音に、私が必死に逃げようと立ち上がる…しかし、そんな私の抵抗も虚しく…私は背後から迫りくる〝図書館〟の床に飲み込まれ…その瞬間…私の眼の前に〝ソレ〟は現れる。


――カッ…カッ……カッ………――


「何ですの…貴方はッ…」


ソレは…眩い〝虹の皮〟を纏った…真っ黒な虚数の人型…声も形も、不明瞭で不安定…男か女かも分からない…そんな〝不気味な人型〟は…私の言葉を聞くと、顎に手を当て、クツクツと笑って私へ言う。


『僕/私が何か?…おかしな事を言う、君が僕/私を創り出したんだろうに』

「?……どういうことですの?」

『ん?…あぁ、気付いてないのかい?…いや、〝気付きたくない〟とも見える』


ソレはそう言い、私を嘲笑しながら肩を震わせる…その姿が不愉快で、腹立たしくて…私は拳を握りしめる。


「ッ――侮るなッ!」


振り抜いた拳は、ソレの顔面に打ち据えられ…硬い感触に、私は手応えを感じる…しかし。


――ズブッ――


『――〝侮る〟?…侮っているのは君のほうだろう、〝ライラ・ハル・カルテッド〟』


その腕は、虚数の頭部に飲み込まれ…ソレは私の腕を掴むと…その状態で私の眼前にまで顔を近づける。


「ッ!?」


――ゾクッ!――


その瞬間、私の身体を悪寒がするほど冷たい魔力が奔り…同時に目の前のソレが私へ語り掛ける。


「そろそろ〝夢〟から覚めるべきだ…〝現実から目を逸らす〟のは、もう十分だろう?」


――ドクンッ!――


その瞬間、私の心臓が跳ねる…同時に脳裏に莫大な量の記憶が無理矢理に注ぎ込まれ…ソレを処理し切れない頭が痛み、視界が歪む。



あぁ、そうだ――。


「お前は…〝あの男〟の…!」

『そうだ、僕/私は〝呪い〟だ…君が恐怖から生み出した〝仮初の姿〟を模った〝あの男の魔術〟だ…余程恐ろしかったのだねぇ…〝覚醒のトリガー役〟を無意識に避けるなんて♪』


私とソレが答え合わせにそう言い…一つ一つ、私の記憶を紐解いていく…あの時、あの講義室で〝視た〟…あの男の〝恐ろしい魔力〟…。


『……だが、もういいさ…君は十分苦しみ、君は十分に思い知っただろう…〝己の驕り、その末路〟を…僕/私は優しいからねぇ…〝正当な罰を受けた者〟には挽回のチャンスを与えよう…さぁ、目覚め給え、〝ライラ・ハル・カルテッド〟――』


男の身体にしがみつき…此方を凝視する…〝虹色の異形の幻影〟…その姿を最後に見て、私は意識を手放したのだ。


『――〝次は容赦しない〟からね?』


覚醒と共に、私の意識が曖昧になる…しかし、それでもこびり付いた…低く怖気を無理矢理に植え付けるその声に…私は跳ね起きる。


――ガタンッ!――


「ハァッ…ハァッ…!」


其処は、無数のベッドが並ぶ〝治療室〟…その一つに己が居り、私は自身の身体から漲る〝魔力〟にホッと安堵を漏らす…。


「お、やっと起きたか入学生…一番〝精神汚染〟が強かったのに一番乗りとは…流石〝才女〟様だことで…」


そんな私を、医療者と呼ぶには怪しくズボラな長身痩躯の男が見て…ケラケラと笑い声を上げるのだった。


●○●○●○


――カリカリカリカリッ――


「――はぁぁ…何で僕がこんな仕事を…!」

「貴方と〝貴方のお仲間達〟の始末書でしょうが!」


時刻は昼過ぎ…あの騒動から暫くして…僕は青筋を立てて眼の前に書類の山を積み重ねていく彼女に監視されながら、書類にペンを奔らせていた。


「そもそも元はと言えば喧嘩を始めた〝生徒間〟の問題だろう、僕はソレを仲裁した…謂わば〝被害者〟だろう!?」


僕の言葉に学園長は手元の資料を白けた様子で見詰め、その記述をポツポツと紡いで行く。


「〝ライラ・ハル・カルテッドを含めた13名が極めて質の悪い〝呪い〟を掛けられて昏睡状態〟…弁明は?」

「〝軽い呪い〟だ…三日三晩眠りこけ、その間延々と悪夢に魘されるだけの呪いに、そんなに大事になるもんじゃない…それに、〝優秀〟を自負するならこの程度の〝抵抗〟は容易いだ……いや、〝魔術に抵抗する訓練〟…と言う事にしておこう…うん、そうしよう!」


僕がそう言うと共に、ベシンと紙束が僕の額を打ち据え…彼女の赤い瞳が怒りの炎を燃やして僕を見据える。


「――兎に角、今回の件は結果がどうあれ貴方の監督責任になるの…ちゃんと始末書を書いて提出して…ついでに貴方達の〝やらかし〟の後始末もやっておきなさい」

「チッ…バレない様に実験しろとあれ程言ったのに……っておぉ!…〝大地撹拌魔術(アース・シェイク)〟の簡略化に成功したのか!…うむ〝特許申請〟と〝非戦魔術制限〟の術式化及び使用規定もちゃんと敷いているね…流石〝農耕者〟…抜かり無い手腕だ…これは今後の農耕界に凄まじい発展と効率化を齎すぞ!」

「その結果、南の〝地鳴り〟で村が半壊したんでしょ!?」


僕の言葉に学園長がそう言い、バンッと地面を叩く…ふむ、確かにソレは一大事だ。


「良し、ならばクラフトの〝建築魔術〟を――」

「使った結果、村が要塞化してエウレシア軍が派遣された騒動が有ったわ」

「…ほ、他には…〝試作走行魔道具〟の開発!」

「暴走して運送中の馬車と衝突事故が3件」

「〝新型の解呪薬〟の生成!」

「市販の解呪薬に紛れ込ませて販売した嫌疑あり、軽度の副作用の報告が2件ね」

「――対大型魔物用兵装〝巨大弩砲(タロス・バリスタ)〟の試験運用「環境被害の深刻性から使用中止処分が下したわ」」


僕の言葉に彼女の報告が封殺され、僕にとっては恐ろしい沈黙が場を満たしていく。


「……」

「……何か、言う事は?」

「――僕の友人が迷惑を掛けました、謹んで始末書を作成させて頂きます」

「宜しい」


そんな中で…僕が彼女に言えるのは…その〝降伏の宣言〟だけであった…。







〜〜〜〜〜〜






――ザッ…ザッ…ザッ…――


「――おいおいおいお〜い…冗談キツイぜ此奴ぁよぉ…」

「えぇ…〝報告〟を聞いた時は耳を疑いましたが…まさか…」

「うわぁ…ホントーに死んでるじゃん!?」


三人組の男女がそう言い、山奥にある〝屋敷の残骸〟の中心…膨大な魔力の残滓がこびり付くその場所に視線を向ける。


「元〝嵐の魔女〟――〝フィアン・ロックハート〟…貴方の師匠でしたね…〝ドレイク・サンリッタ〟」


其々の視線の先には…年老いた一人の老婆がその胸に大きな穴を開かれ…瞳の光を失くした状態で、腐臭を放っていた。


「あぁ、間違いなく本人だ…このクソババア…あと200年は生きると思ってたぜ」


遺体の顔に触れながらそう言う、黄金色の神をした黄色い瞳の娘はその顔を不快げに歪ませて、遺体を魔力で包み込む。


「……コレで〝3件〟…既に〝土〟と〝風〟と〝水〟の〝元魔女〟が何者かに襲撃、殺害されています」


そんな彼女へそう言うと、遺体を魔力で結晶化させ…圧縮した女性は、青髪の女性の言葉に返答する。


「明らかに〝何か得体の知れない奴ら〟が動いてんな…〝魔女〟を狙う連中か」


その言葉に二人は頷き合い…そして、緑髪の少年は二人を見てポツリと提案する。


「……一度〝魔女集会〟を開くべきじゃない?…情報共有はしないと――」

「ウゲッ…そうなると〝あの気狂い〟も来るのか?」

「えぇ…そうなるでしょうね」


その言葉に二人は嫌な顔をしつつも、事が事だけに渋々と言った様子で…少年へ視線を落とす。


「――チッ、仕方ねぇか…おいクライン、テメェは周辺の調査だ」

「全員に招集を掛けましょう…ドレイク、〝フィアン様の遺体〟に関しての調査は貴方に一任します」

「アイリーンは皆に〝招待状〟を送っといて!」




そして、2人がその提案を承諾すると…3人は其々に指示を出してこの場の調査を…或いは此処最近頻発する〝緊急事態〟を調べる為に動き出す…。




――バサッ…バサッ…バサッ…――


「カァァッ…!」


その行動を…1羽の鴉が紫の瞳で見下ろし…眺めていた。

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鴉…使い魔か、はたまた本人か。
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