悪悦の大遺跡①
本日の投稿。
「うわぁ…此処が遺跡の中…」
「此処からは一層気を引き締めておくんだよ」
マナリア君と引率の生徒等を挟む様に、僕とイヴァンズ准教授が遺跡の中を進む。
「君達、〝魔力探知〟は怠らない様に…無論視認での警戒も並行しておきなさい」
「ポイントは〝微量の魔力〟を常に周囲に展開させるんだ…例え気の所為だと思っても気掛かりなら皆へ伝達、臆病な位が丁度良い」
「「「は、はい…!」」」
僕がそう言い後方から他のグループの様子を確認していると…不意にマナリア君が僕の横に並び、小声で問う。
「あの…レインさん、アリエルさんは何処に行ったんですか?」
「ん?…あぁ、彼女にはほんの少し〝此方の仕事〟を任せているんだ…数時間もすれば帰ってくる安心して遺跡での動きを学ぶんだ…」
そんな彼女へそう返しつつ、僕は軽く〝魔力通信〟でイヴァンズ准教授に合図を送る…。
「……〝―〟」
するとイヴァンズ准教授は僕へ小さく返答し…僕達は徐々に遺跡の深部へと進んで行く……その時。
――カリッ……!――
「ッ――待って下さい、今何か魔力探知に!」
一人の生徒がそう言ったその瞬間、我々の背後から真っ黒で痩せ衰えた〝獣〟が飛び出し、僕達に牙を剥く。
「ッ――〝防郭〟」
しかし、その牙が僕の身体へ食い込む直前に魔力の障壁が行く手を阻む。
――カチャンッ、ダダダンッ!――
そして、間髪入れずに放たれた弾丸は真っ暗な影に同化した魔物の頭を撃ち抜き、ソレを物言わぬ骸へ変えると、辺りに静寂が満ちる。
「〝及第点〟だ…しかしその年にしては十分な魔力探知だった…減点ポイントは咄嗟の報告がまだ甘い…最優先は〝何処から、幾つ接近しているのか〟…覚えておくといい」
「は、はい…!」
僕がそう、警告を発した彼女へ告げると…他の生徒達も今の一連の出来事が〝試験〟だったのだと気付き、顔が緊張で強張る…。
『このまま〝中継地〟まで移動しましょう』
『あぁ、そうだな…生徒達の守りは任せたよレイン君』
『了解』
そんな彼等を先へ先へと促し…僕達はこの〝遺跡〟の深部を目指し、暗闇を進んで行った。
○●○●○●
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「やはり…何かが可笑しい」
レイン等〝遠征隊〟が遺跡を探索している傍らで…森の中を一人、メイドの装いをした金髪の美女はそう言い、己の主から預かった〝助言者〟を見て眉を顰める。
「ロザリア学園長と連絡が取れない…助言者の故障?…有り得ません、マスターが毎日点検しています」
(何らかの妨害…他の魔道具は問題無く稼働しています…〝助言者〟の機能を掌握?)
そんな風に、彼女が言葉を紡いで居た…その時。
「う〜ん〝50点〟♪――正確には〝外部への通信機能の遮断〟が本効果なんだな〜〝お姉さん♪〟」
不意に、そんなあどけない声が響いたかと思うと…気が付けばアリエルの真後ろから腕を回し、耳元で囁く真っ白な髪の少女が、ヴァイオレットの瞳を楽しげに揺らす。
「ッ――!」
その瞬間、アリエルは直ぐに臨戦態勢に入り…背後にいる少女へ変形した鋭い指を突き立てようとする…しかし。
――パンッ♪――
そんな、小気味良い音が響いたかと思うと…アリエルが背に感じていた負荷が消え…その目の前に、童女然とした姿の〝何か〟がふらついた様に姿勢を戻す様が有った。
「ッ…今のは…〝魔術〟…?」
「おっとと…ソレは言えないかな〜〝しゅひぎむ〟って奴?…社会人って辛いよね〜…色々と制約が多くてさ〜♪」
そう笑う少女の顔は、無邪気で朗らか…しかし、鉄面皮のメイドは、その少女の身体の〝異常〟を見て…警戒を更に強める。
――ボトボトッ!――
「ありゃりゃ?…いっけない、身体が〝ズレ〟てる!?――う〜…やっぱり〝化身〟如きじゃ〝本体〟程上手くは扱えないか〜…よいしょっと!」
――パンッ!――
少女が再び手を叩く…すると、瞬きすらしない内に、少女の身体に生じた〝違和感〟は完璧に払拭され…地面に零れ落ちた臓腑すら、その痕跡の一切を〝抹消〟されていた。
「うん、コレで良し♪」
「……貴方は…一体…」
目の前で平然と〝異様〟を成した、その少女にアリエルは問う…その問い掛けに、少女はニコリと笑みを浮かべて自身のヒラヒラとした衣服を摘み、淑女の様にお辞儀する。
「あぁ、これはごめんあそばせ♪――私は〝無垢の種〟…〝本体〟が戯れに作り出した〝玩具〟の1つ…〝混沌の種子〟のその1つ♪…人間としての私はリーシア・モーゼンタッド…ロザリアに程近いハルシャ村の村娘!――よろしくね!」
少女はそう言うと、ニコリと笑い…アリエルに手を招き…背を向けて先へ進む。
「……貴方達は、何者ですか?」
「私達…と言うなら、答えは〝被造物〟かな?――突き詰めれば誰も彼もが〝誰かの被造物〟と言えるけれど、取り分け私達は〝その自意識〟が強い…だって、人は人のお腹から生まれた子を〝被造物〟とは言わないでしょう?…でも、私や貴方みたいに〝誰かの手で全てを無から作り出された〟存在は、分類的には〝被造物〟んじゃないかな?」
「……」
「あっははッ♪――ごめんごめん、お姉ちゃんの問い掛けの趣旨とは外れるね?…でも、ごめんね?…〝その情報〟は私達からは言えないの♪――末端の部下に極秘のプロジェクトを伝えない様に、私達は〝緩い制約の代価に相応の自由〟を与えられている…だから、詳しくは言えないんだ♪」
少女は楽しげに身体を揺らしながら、アリエルへ告げる…そして、その言葉に多分な嘲笑を混じらせて、虚空に投影した〝何者か〟へと嘲りを口にする。
「――ねぇ、お姉ちゃん♪…〝この演目〟の〝黒幕〟は、本当にツメが甘いんだよ?――自分では賢いつもり何だろうけどね?……でも、〝積み重ねた予防策〟は、何時だって人の目を曇らせる…〝有効な策1つ〟よりも、〝無能な策100つ〟を人は信じ、安堵する♪――強固に見せかけて、小突けば崩れ去る様な壁を…悪魔が見逃す筈がないのにね♪」
少女はそう言い…クスクスと笑いながらアリエルを見ると…両手を開き…アリエルへ告げる。
「〝本体の口〟は塞いでも、〝化身の口〟は塞げない…〝ズル〟だよね〜、〝化身〟を起こした…何百人と居る〝種〟から、ほんの数十人が興味本位で〝本体の記憶を覗き込んだ〟…その更に更に数人が、〝勝手に舞台に参加した〟…なんて、〝都合の良い筋書き〟♪…でも、現実私は此処に居て、君達〝主人公チーム〟のファンになっちゃった♪…だから、ほんのちょびっと、〝このゲーム〟が壊れない程度にだけ…貴方達に〝手を貸してあげる〟」
そう言うと、少女は自身の手をパンと叩く…すると、アリエルは自身の目に本来感じる筈のない〝熱〟を感じ…思わず目に触れる。
「ッ――コレは…!」
「〝一時的に、貴方の目〟に細工してあげる……〝視える〟でしょ?」
その熱に閉ざされた瞼を、アリエルが開いた時…アリエルは、地面を見て目を見開く…其処には。
――ゾゾゾゾゾ…――
真っ黒で、醜悪で…悍ましい、見る者全てを不快にする為に存在する様な、悍ましい〝黒い魔力〟が地面へと伸びていた。
「〝領域〟は拡張されつつある…でも、その〝侵攻速度〟は緩やか♪…この領域内では〝汎ゆる通信機能〟がその機能を留められる…言いたい事、分かるよね?」
ソレを見たアリエルに、少女はそう笑う…アリエルの目には、その少女の身体に纏わり付く、一層邪悪な〝異形〟が映っていたが、もう一度瞬きすると、少女の姿は元通りになる。
「〝依怙贔屓〟は此処まで♪――これで状況は〝イーブン〟ね♪…此処からは〝観客〟として、舞台から引き下がるけど…忠告しておくなら急いだほうが良いよお姉ちゃん…〝お友達〟が死んで欲しくないならね?」
そんなアリエルに、少女はそう言うと…再び手を叩く。
「『〝期待している〟ね…私の〝ヒーロー〟♪』」
その拍手と共に少女は目の前から完全に消え去り…ヤケに響く声だけが、アリエルの耳を付く…そして。
「ッ……!」
そんな童女の、ヤケに耳に残る笑い声を押し退けるように…アリエルは〝動き出した〟…。




