変わり者な教師
――コッ…コッ…コッ…コッ…――
「……」
「……」
(一体この状況はなんなの?)
浮かんで来ては分からないに帰結する疑問を繰り返す。
明らかに可笑しい試験結果、学園都市と言うには明らかに異質で無表情なメイドに目を付けられたと思えば、麦俵のように担がれて何処かへ運ばれる…その光景を周囲の生徒や先生方からは奇異の視線で見られて…散々も散々過ぎる。
「あの――」
「拒否権は有りません、しつこいですね…絞め落としますよ?」
せめて何かこの状況になった経緯が分かる情報をと考え、メイドへ問い掛ければ、帰ってくるのは抑揚の無い言葉と、そんな脅迫だった…しかも既に締め始めてるしッ、警告から行動までが早すぎるッ!
「いや、別に拒否してるとかじゃないからッ!――せめて貴女達が何の用で私を運んでるのか教えてくれても良いでしょ!?」
ギチギチと締められる腕に抵抗しながら私が彼女へそう言うと、彼女は私の言葉に一拍の沈黙を置き…それから私へ見向きもせず答える。
「〝マスター〟の命令です」
「ッじゃあ、その〝マスター〟って誰なの!?」
「(チッ)――現状説明の権限を持ち合わせていません、詳しくはマスターにお聞き下さい」
「今舌打ちしたよね!?しかも面倒臭いから適当に流した!?」
そんなメイドの対応に私が異議申し立てていると…不意にメイドの足が止まり…気が付けば私は、周囲に人気の無い、何処かの通路に立っていた。
「〝解錠〟」
『〈魔力波形〉―〝一致〟、〈声帯波形〉―〝一致〟、〈顔認証〉―〝一致〟―〈入室を許可します〉』
そして、彼女がそう言葉を紡ぐと…目の前の扉に〝魔術を起動するための文字式〟――〝魔術陣〟が浮かび上がり、中性的で無感情な声が響いたかと思うと、魔術陣が溶けて消え…扉が開かれる。
――コッ…コッ…コッ…――
その中へ入れば…其処は大量の書物が壁を埋め尽くさんばかりに揃えられた…〝小さな図書館〟とも言うべき部屋であり…その部屋に設けられた小さな〝生活スペース〟には人影が腰掛け…書物にペンを走らせていた。
「――〝マスター〟…〝命令〟を完遂致しました」
そう言うと、彼女は私を下ろし…もう片手に収めていた2本の薬瓶と1つの奇妙なキューブを持って何かが収められている棚の方へと進む、ソレを目で追っていると。
「ん…御苦労様アリエル、それじゃあ〝通常業務〟に戻ってくれ…それと紅茶を1つ」
「畏まりました」
視界外から、そんな男の声が聞こえ…私は改めてその〝人影〟に向き直る…其処には。
「やぁ…君が〝マナリア・ノーホープ〟だね」
年齢は私と同じ位…ボサボサな黒い髪に黒い左目と金の右目を持った、全体的に無気力そうな男の子が私をジッと見ていた。
「は、はい」
その視線と、何処か神秘的な気配に思わず背筋を伸ばしてそう返すと、彼は1つ頷き、私へ言葉を紡ぐ。
「僕は〝レイン・マナルガ〟…この魔術学園ロザリアの〝3年生〟…それと同時に〝教師〟の教位を有する魔術師だ、宜しく」
「〝教師〟!」
〝教位〟とは、この魔術学園ロザリアにおける身分階級の一つ…階級は8に分けられ、〝見習い〟、〝生徒〟、〝学者〟、〝教師〟、〝准教授〟、〝教授〟、〝賢者〟、〝大賢者〟と分けられ、階級が上がるほど魔術学園内での権限も上がると言う…その中でも〝教師〟って、〝学園側〟の人間じゃない!
「アレ?――でも〝生徒〟でも有るんですよね?」
「まぁ、形式上僕は〝在学生〟だよ…〝教師〟の教位を取ったのは、不要な講義に出ないで済むようにする為だからね」
私の疑問に、彼はそう平然と答える…教位の取得理由はどうあれ、彼は確かに〝教師〟の地位にある…と言うのなら!
「――すみません、貴方が教師だって言うのなら、私の試験結果を「あぁ、良いよソレ」――へ?」
私が、自身の試験結果を公表して欲しいと言う旨を伝えようと彼へ口を開くと…私が全てを言い終わらない内に彼はそう言い…横の紙束に目を通す。
「〝アルベルト・バルバイン〟…〝教師〟、〝基礎魔術、炎属性担当〟、〝リンドル派〟と呼ばれる〝魔術師至上主義派閥〟の1人だ…全く、ロザリア校長殿ももう少しマトモな試験官を選出すれば、二度手間にはならなくて済んだろうに…いや、寧ろマトモな試験官を選出する方が難しいか」
そう言うと彼は私へその紙を飛ばして言う。
「それはさておき――問題なく君は合格だ、無論他の〝失格者〟も…〝助言者〟を通して再評価が伝えられるだろう、試験官には既に不正の証明諸々含めて学園長殿に全ての書類を送付している…君の学園生活は保証しよう」
「ッ――ホントですか!?」
その紙には、私の試験結果を改めて再評価した物が記載されており、其処には――。
――――――
魔術基礎・・・80点
魔術実技・・・90点
魔術薬学・・・62点
魔術工学・・・60点
魔術史学・・・75点
結果:合格
――――――
と、各テストの点数と合格の文字がしっかりと私の試験結果に残され…私はホッと一息安堵を漏らす。
「良かったぁ…!」
「まぁ、ソレはさておいてだ――早速だが僕の本題に入ろうか」
そんな私を見て彼がそう言うと、私はハッと我に返り彼へ自身が誘拐紛いな連れ去られ方をした理由を問う。
「ハッ!―そう言えば何で私攫われたんですか!?」
「攫われた?……あぁ、アリエルめ、また説明をサボったな…」
私の言葉に彼はそう言って、素知らぬ顔で自身と彼へ紅茶を入れるメイドを一瞥すると…一つ溜め息を吐き、それから気を切り替え私へ告げる。
「――まぁ良い…それで、君を此処に呼んだ訳だが……ずばり単刀直入に言うと君を、〝助手〟にしようと思ってね」
「じょ、助手?」
「あぁ、君には私の〝魔術研究〟の補佐をしてもらいたい」
○●○●○●
「――どう言う事ですか〝学園長〟ッ!?何故私の〝教位〟が剥奪なのです!?」
そう叫喚をあげて、扉を明け放ったのは先刻の試験を担当する試験官の1人…〝アルベルト・バルバイン〟だった。
「納得の行く説明をお願いします!」
怒り心頭と言った様子で、前へ前へと歩を進めるアルベルトがそう言い〝彼女〟へ詰め寄ると…彼女は、ソレへの返答の代わりに…一際強く、書類に判を押す。
――ダンッ!――
「〝何故〟…ですって?」
「ッ!?」
真紅の瞳が、眼前で喚くアルベルトを睥睨する…その視線に込められた強い怒りに、アルベルトは恐怖に後退り、冷や汗を流す。
「〝私情を挟んだ不正な試験〟、それによる〝有望な生徒達の流入〟、〝試験問題を改竄し、同門の不正入学の試み〟、挙句〝不正をした生徒からの買収行為に応じる〟……以上の事柄を踏まえた、貴方への罰則に不満?…〝魔術回路を焼かない〟だけ有り難く思いなさい」
そう言い、彼女は黙々と書類に判を押し…アルベルトに退出する様動きで示すが…しかし、それでも彼女の決定を覆せると考えたのだろう…アルベルトが彼女へ反論する。
「ッそんなの、何処にも証拠が――」
しかし、その反論を言い終わらない内に彼女がアルベルトへ告げる。
「〝有る〟のよ…貴方は試験官を身内で固めて対策していた様だけど、〝保険〟を用意するのが〝魔術師〟でしょう?…念の為〝監視〟を付けていたの…その〝監視〟に貴方の行動が全部納められていたわ」
「ッ〜〜!?――そんなのは横暴だッ、職権乱用だろう――ッ!?」
彼女の言葉にアルベルトが半ばやけになってそう叫ぶ…しかしその瞬間、彼女の身体から溢れ出した魔力が、この空間を〝熱〟で満たす。
「……〝二度〟は言わない、この学園から去れ、〝アルベルト・バルバイン〟」
「ッ……クソ!」
その魔力に臆したアルベルトが、そう吐き捨て慌てたように学長室から出ていくと…彼女はハァッと、大きな溜め息を吐き…怨めしげに書類の束に視線を送る…そこには。
――――――
【〝教師〟権限:教師補佐の任命】
〝教師〟:レイン・マナルガの教師補佐官に〝試験生〟:マナリア・ノーホープを指名、彼女に教位〝教師〟相当の権限を制限的付与。
有効権限:教位〝教師〟が無条件入場可能な施設への入場。
――――――
「…〝教師補佐の申請〟…〝試験生を補佐〟に?…今度は一体何を企んでるのかしら、彼奴…」
その書類を片手に、彼女…〝学園長〟はそう疑問を呟くのだった。
《魔道具紹介コーナー》
〈助言者〉・・・学園支給の腕輪型魔道具、ナビゲート機能、連絡機能、所有者の身分表示機能、緊急時の追跡機能も有しており、学園内では着用が義務付けられている。




