虹貧のレイン⑦
次で戦闘終了…思ったより長くなった…ホントは4話か5話で中ボス戦を終わらせるつもりだったのに…まだヒロインの入学すら済んでないんだぜ…コレ。
「――何…アレ…?」
マナリアの言葉が、そのまま僕の言葉を代弁する…あぁいや、正確には僕にはその〝本質〟は見えていた。
言ってしまえばコレは〝死霊術の暴走〟だ。
「〝他死霊の統合〟――〝融合〟…上位死霊の〝融合死霊〟と呼ばれる系統の死霊は2種の死霊が自己生存と両者の瘴気反応の親和性が極めて高い場合にのみ発生するが…コレは正しくソレだ―――フフフッ!」
今目の前で変化を繰り広げる〝炎と死肉の固まり〟に…僕は状況の深刻さにも関わらず頬が吊り上がるのを感じる…あぁ〝面白い〟…。
「――〝オーガ・キング〟、〝赤竜〟!――強力も強力な魔物と〝人間〟の〝融合死霊〟!――あぁ、人道的には唾棄すべき所業、倫理としては戒め禁じるべき〝罪〟だが、しかしそれでも〝興味深い〟!――〝アルベルト・バルバイン〟…僕は今、初めて君に〝興味〟が湧いたよ!」
炎が隆起し…肉と骨が混ざり合う音と、血と肉と脂が爆ぜる音が共鳴し、戦場を満たす…やがて僕達は其処に姿を表した〝ソレ〟と相対する事になる。
――ズンッ!――
ソレは…3m程の体躯をした痩せた人型だった。
『オォッ、ガガッ――ア…ツ……!』
しかし…その痩せた身に反して赤熱した鱗は堅牢な鎧として死霊の皮膚を守り…飛膜を焼き尽くし、肉を削ぎ落とし…骨だけとなったスカスカな両翼は変形し鋭い〝棘〟として僕達に狙いを定める…その姿は正しく――。
「〝炎の竜人の成れの果て〟…或いは〝地獄の支配者〟の様な風貌だね…カッコいいじゃないかアルベルト・バルバイン♪」
通じるかも分からないセリフを紡ぎ、彼の威容を金色の左目に納めながら僕は銃に魔力を注ぎその動きを待つ。
――バチッ、バチバチバチッ――
炎が肉体から漏れ出し…黒炎を口から吐いてソレは〝我々〟を認識する…その瞬間。
――ボンッ!――
ソレの立つ大地が爆ぜ…僕の目の前に〝アルベルト〟が迫る。
「ッ―〝アリエル〟!」
ソレに僕はそう指示し…振り被られた腕を前に…銃を構える…その瞬間。
――ザッ!――
「――フッ!」
僕とアルベルトの間に割って入ったアリエルが…そのままアルベルトの拳に拳で迎撃する。
――ドゴッ!!!――
『ッ――!!!』
「ッ――!」
「〝アリエル〟!」
その拳は衝突し…攻撃は〝防がれた〟…その一瞬僕はアリエルに合図を送り、引き金を引く。
――ズドンッ!――
放たれたのは…莫大な魔力を圧縮した〝蒼水の魔弾〟…ソレがアルベルトの頭部を撃ち抜くと…アリエルはその脚でアルベルトの身体を思いっ切り蹴り抜く。
――ガチャンッ――
「――ふむ…攻撃が有効…とは言えないね」
吹き飛ぶアルベルトの頭部、その頭蓋が完全に砕かれ炎が噴き出し…それから、ものの数秒で再生する様を見て僕は魔石を装填する。
「――しかしダメージの蓄積は見える…今の一瞬で彼の魔力が大きく歪んだ…属性を持つことで既存の死霊よりも維持魔力は高くなり、再生の機能を行使するのに莫大な魔力を消費するのだろう」
「えぇ…ですが…」
「あぁ…〝凄まじい破壊力〟だ」
僕とアリエルはそう言い…今さっきアルベルトの拳に触れたアリエルの腕を見る…その〝惨状〟に、マナリア君が一足先に悲鳴を上げる…。
「――アリエルさんッ、腕…!」
――ボロッ――
たった一撃で…アリエルの右腕が焼け解けて崩れ落ちる…赤熱した腕の惨状にマナリア君が愕然と叫び…僕を見る。
「〝一撃〟か…あの莫大な魔力は〝アルベルト本人の物〟では無い…恐らく、マナリア君が発見したあの〝黒い指輪〟が原因と見て良い」
「〝死霊術の暴走〟を止めるには、その〝触媒〟…或いは〝術者との接続〟を破壊してしまえば良いと言う訳ですね」
「その通りだ」
しかし僕とアリエルは目の前の死霊を前にそう結論を付け…次に備える…そんな僕達にマナリア君は言う。
「――悠長に話してる場合じゃないでしょう!?…直ぐに治療して下さいッ!」
そう言い彼女の腕に触れるマナリア君に…僕は言う。
「――大丈夫だマナリア君、アリエルはこの程度問題無い」
「ッ――でも!」
それでも食い下がる彼女に、僕は彼女を落ち着かせる様に目を見て言葉を送ろうとする…。
「大丈夫だ………って、あぁ…そうか、そうだった…マナリア君、君に教えておくべきだったな」
しかし、そんな彼女の今にも泣きそうな顔を見て…僕はふと…彼女に伝え忘れていた〝ある事〟を思い出し…マナリア君へ言う。
「?……何の事ですか?」
「いや済まない…優先度が低い情報だったから、つい忘れていたよ…マナリア君」
その言葉に首を傾げる彼女を見ながら…僕は〝ある事〟を、マナリア君に明かす…その瞬間、マナリア君の瞳が一瞬固まり…その一瞬に彼女は数度、言葉の反芻を繰り返し…言葉の意味を理解して瞳孔を思い切り良く開く…その〝ある事〟とは。
「――〝アリエル〟は…〝魔動機〟だよ」
僕のメイド…アリエルの…その〝正体〟についてだった。
○●○●○●
「………え?」
「――まぁ、そうだね…確かに彼女は君の知る既存概念にある〝魔動機〟とはかなり乖離しているだろうね」
今、私は眼の前に居るこの人の言葉を聞きながら…呆然と、その言葉を必死に理解しようと噛み砕く。
〝魔動機〟…岩や砂、木等に魔石を埋め込んだり…鋼鉄のギア何かを組み上げて作られる〝魔術生命〟の事だ。
そして…魔動機は単純な命令を実行は出来ても、複雑な工程を踏んだ行動は出来ず…何より、人の様な会話を可能にした魔動機はこの世界の何処にも発見されていない…筈だ。
「――それは当然だとも、彼女は僕と、僕の〝友人〟が何年も掛けて研究し、試行錯誤を繰り返し創り上げた…この世界で〝たった二機〟の〝完全自律思考型魔動機〟…その片割れなのだから」
私の困惑に彼は頷きながらアリエルさんの方を見る…その視線に釣られて私も視線を移した…その先には――。
――ググググググッ――
「〝左腕機能〟――〝修復完了〟」
焼け爛れた腕を、グネグネと蠢く鉄の塊で埋め直すアリエルさんの姿が有った。
「――アリエル…君の今の魔力残量から見て〝アレ〟の攻撃には何処まで耐えられる?」
「――〝10分〟が限界でしょう…ですが、マスターの命令とあらばこの命の全てを使い倍の時間は足止めが可能です」
「オーケイ〝10分〟だね…君の食事が無いと僕は干からびて死ぬんだ…〝健康維持〟を任せてるんだから、君に死なれるのは非常に困る…だから」
状況を把握するので精一杯な私を差し置いて二人はそう言葉を交わし…此方へ強い敵意を向ける〝炎の化物〟へ相対する…。
――カロッ――
「〝戦闘機能完全解放〟――〝僕の力〟を分けて上げよう…〝10分〟だ…〝10分間アレを足止めしろ〟…〝任せたよ〟」
「ッ――承知致しました、〝我が主〟」
そして、レインさんが腰のホルダーから虹色に輝く魔石をアリエルさんの口に押し込むと…アリエルさんは無表情のままそう言い…大地を蹴り砕いてあの化物に肉薄する…瞬間。
――ズガァァンッ!!!――
私達の少し先から、そんな轟音と共に2つの拳のぶつかり合いが響き出す。
「さて、マナリア君…呆けている場合じゃないよ」
ソレを見送っていた私へ、レインさんはそう言い…私へ手を差し出す。
「〝此方も仕事〟だ…今から〝アレの解析〟と〝術式構築〟を始める…力を貸し給え」
そう言うと…レインさんは銃を終い…懐から黒い魔導書を取り出して…そう笑った。




