虹貧のレイン④
本日も投稿。
――ブンッ!――
「一日にそう何度も使いたく無いんだがなぁ…色んな意味で」
――カチャッ――
眼の前にまで迫った〝死霊の群れ〟を前に…私はゼクス・クリミナルを構える。
「〝我等は智慧の求道者〟――〝しかして人の道踏み外す事なかれ〟」
言葉と共に、我が愛銃は色付き…僕の声に応答する。
『――〝本機能〟解放――術式指定を』
さて此処で少し、〝死霊〟の性質を教えておこう。
死霊とは本来既に生命活動を停止した存在が、〝死の因子〟に瘴気が引き寄せられ、凝縮し…〝瘴気結晶〟と呼ばれる特異な魔石を内在する事で発生する物だ。
コレが厄介で、瘴気結晶を持つ死霊は基本的な魔術に対する抵抗力が高い…勿論、物理攻撃は行動を阻害する以上の…所謂ダメージにはなり得ない…死体だからね、マトモな生命体じゃない。
だが、死霊にも弱点はある…ソレは唯一にして絶対的で、致命的…克服のしようがない〝弱点〟…死霊は強力な〝浄化〟…〝光属性〟と呼ばれる神聖術に弱い。
コレは病を癒す、呪いを打ち消す等…生命に癒しを与え、活性化させ…瘴気を相殺する力を持つ。
ソレが死霊には効果が覿面な訳だ…何せ自身の生命の源泉であり、力の大元である〝瘴気〟を削り取られるのだから。
もっとも光属性にだってデメリットはある、光属性の適正者が極めて少ないだとか、属性自体の魔力消費が他の追随を許さないだとか諸々…が、兎も角ソレは置いておくとして。
〝死霊〟には〝光属性〟こそ有効!…と言うのが結論だ……〝本来ならば〟
「〝求むるは水霊の恵み、干天を潤す蒼き弾倉である〟」
『〝術式確定〟――〝属性魔弾:蒼水〟』
〈六番目の罪銃〉へ流れた虹の魔力が刹那に解け…青く清涼な魔力が吹き荒れる…。
『射撃準備完了――〝贖罪と共に引き金を〟』
「――〝憐れな骸に安らぎの夢を〟」
そして、引き金と共に…青い魔力を帯びた弾丸が死霊達へと振り注ぐ。
――バババババッ!――
其れ等は、赤々と燃え盛る焔を帯びた死霊達の身体を容易く打ち砕き塵芥へと変えていく…本来ならば、この程度の出力の属性弾では、ダメージこそあれど撃破には至らない…しかし。
――ボロッ!――
青い弾丸が撃ち抜いた死霊達は…皆その肉体をボロボロと砕き塵へ姿を変える…ソレからは、何度でも蘇る死霊の〝不死性〟がまるで感じられなかった。
「――〝属性死霊〟のデメリット…〝光属性〟に加えて〝不利属性〟への脆弱性も増す…発表会でも散々突かれた弱点だよ」
同属性、或いは〝有効属性〟には滅法強いが…弱点の増加に伴い…本来の不死性はまるで活かす事が出来なくなる。
「〝素晴らしい発想だ〟――なんて息巻いた割に、講評は散々…〝死霊術科〟の名だたる面々にさえ渋い評価をされてしまった…なのにまぁ、良く改良の努力無く、こんな不出来な魔術を使うんだね〝アルベルト・バルバイン〟殿…まぁ、君も君の周囲の連中も…魔術師とは名ばかりの権力争いしか能のない俗物だというのは知ってるが」
僕はそう言い、半壊した死霊の群れの奥に居る〝元凶〟に視線を送る…すると。
――ゴウッ!――
返戻として彼が僕へ炎を放射する。
「人にも劣る魔力しか持ち得ない〝出来損ない〟が私を嘲るな、不愉快だ」
苛立ちに、僕を見上げるアルベルト・バルバインのその言葉に僕は鼻で笑い――。
「ハッ、内在する魔力も生来持ち合わせた才能も所詮は〝ただの道具〟でしかない…魔術師の真価は〝知識と発想〟だよ」
そう返す…するとその言葉にアルベルトもまた嘲笑を浮かべ、僕へ返す。
「フッ、戯れ言だな…そんな思想は所詮履いて捨てるほど居る〝下等な魔術師共の妄言〟だ」
「――見解の相違だね、まぁ元より僕は君に何かを理解して欲しいとは思っちゃいないが」
僕はそう言い、彼へ銃口を向ける…しかしその瞬間。
――ズオォッ――
〝空が陰った〟…それと同時に生暖かい風とじっとりとした嫌な感覚が身体へ張り付き…僕は自身の頭上に防護魔術を展開する…すると。
――メキッ!――
そんな音を立てて、魔力の盾は軋み…莫大な質量を有したソレに大地へ叩き付けられる。
――ドゴォッ!――
『〈耐衝撃術式機動:損傷軽微です〉』
「――コレは驚いたな…君、一体何と手を組んだ?」
舞う土煙を払いながら…僕は今にも此方へ炎を吐き出さんとする〝ソレ〟を見て、感嘆の声を上げる…其処に居たのは、或いはこの世界に存在する〝魔物のヒエラルキー〟…その最上位層に位置している魔物。
――ゴォォォッ!――
〝赤い竜〟…〝飛竜〟種に比べてより巨躯で強力な物理、魔術耐性を持つ…〝炎竜〟だった。
「フッハッハッハッ!――今更怖じけたかレイン・マナルガッ!…我が〝炎屍術〟さえ有れば、炎竜ですら容易く支配下に置けるッ…この理論は素晴らしい力を秘めているのだッ!」
そんな彼の言葉など右から左に聞き流し…僕は今炎を吐き出すソレ身ながら…其処から飛び退き…炎の無駄打ちを尻目に土を払う。
「……いや、有り得ないな、幾ら君の突飛な魔術式が穴だらけで、多少の意外性を有しているとしても…〝コレは無い〟…死霊に限らない…〝隷属術式の原理〟――〝強力な魔物には相応の魔力が求められる〟…君はソレに〝反している〟…」
「……なに?」
僕の言葉に、彼はその嘲笑の表情を強張らせ…赤く濁った瞳で僕を見る。
――ジッ――
僕の右目、金色の〝眼〟が捉える彼の〝力〟は…到底その〝原理〟をあの〝赤竜〟へ適応させられる程強大では無い。
「〝オーガ・キング〟までなら、まだ多少納得は行く…それなりの死霊術師なら、隷属させられる範囲だ……だが〝赤竜〟は、君の様な練度の死霊術師が扱うには、あまりに強大で…維持する魔力も不足する…術式に何か仕掛けがある訳でもない」
そうなると、考えられる選択肢は〝一つ〟だ…〝外部要因による補助〟…僕の様な〝触媒持ち〟だろう。
「――〝その指輪〟だね、君を実力以上に強化している物は」
「ッ!」
その言葉は、正しく図星だったのだろう…目に見えて彼の表情は固まり…即座に手駒たる焼死体達を僕へ差し向ける。
「ッ――お喋りは終わりだッ…アンデッドッ、〝あの男を殺せッ!〟」
彼がそう告げた瞬間、黒い指輪から怪しい紫の光が奔り、アンデッド達が動き出す。
「ッ!」
間髪入れずに、僕は引き金を引き…アルベルト・バルバインの指輪を破壊しようとする…しかし、その動きから繰り出された弾丸は、アルベルトの指を吹き飛ばすより早く…阻むように拡がるオーガキングの巨腕で防がれる。
「ッ〜〜〜〜!!!!」
「―――チッ!」
(状態の良い死体から作ったからか、動きが良いな…!)
ソレに舌打ちし、上空から振り注ぐ灼熱を後方に下がって避ける…すると、間髪入れずにオーガキングが動く。
――グシャッ!――
「「「ッ〜〜〜!!!」」」
放った弾丸は出力の所為か、オーガキングの腕を破壊するには至らず…奴は未だ健在な両手を使い取り巻きの死体達を乱雑に掴むと…視線を僕へ向ける。
「――成る程」
「ッGAAAAAA―――!!!」
その意図に気付き…僕は反撃の容易をする…ソレが完了すると同時にオーガキングは力任せな投擲で此方に死霊達を投げ飛ばす。
「――〝属性魔弾・蒼水〟」
僕は、空中に放り投げられ振り注ぐ死霊達へ銃口を向け…銃に込められた魔力を全て使い…水属性の魔弾を上空一帯に放射する。
――ガチャンッ――
――シュウゥゥゥッ――
「ハァクソッ…〝コイツ1つ〟を作るのに一月掛かるんだぞ?」
上空の微小な魔力反応が消失し、僕は目の前のオーガキングと赤竜、そしてその主を見ながらそう言い、銃に新たな魔石を挿入する。
――ジャコンッ――
「あまり無駄遣いさせないでくれよ」
そして、そう言うと…僕は再び愛銃に魔力を込め…前方一帯を破壊する様に蒼い魔力の光条を解き放った。
【焼屍術】
死霊術の派生、死霊に〝属性〟を付与し使役する魔術、アルベルト・バルバイン考案。
しかし、その魔術理論は未完成であり…考案者の技量の限界を多くの魔術師に知らしめた。
『〝死霊に属性を付与するだけの術式〟に、これ程大規模な魔術式が必要なのか?』
『〝発想は面白いが、属性を持たせる利点が薄い〟』
特に死霊の研究者達からの意見が彼のプライドを深く傷付けたのは、言うまでもない。




