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異世界ライフ

迷いの森を抜けて参道まで出てきた俺は、周りに人が居ないのを確認してから地上に降り立つ。

地球でのラノベ知識がまさかこんな風に役に立つ日が来るとはなぁ。

異世界基準によっては、飛行や浮遊の魔術や魔法自体がレアな場合がある。

それを目撃されようものなら、次から次へとわけの解らん連中が押し寄せてきて収拾がつかなくなるかもしれない。

そんなのは御免被る!

俺は改めてステータス画面とにらめっこをする。


「この偽装ってスキル、便利かもしれないな」


俺の今の装備は自称神から提供された、言わばチート装備のオンパレードだ。

この世界の武器や防具やアイテムには、それぞれランクと呼ばれる水準がついている。

ゲームではお馴染みのレアリティってやつだ。

俺の持ってる物は、どれも伝説級と呼ばれているらしく、特に武器と防具に関しては熟練度によっては最上級認定されている神話級にまでランクが上がるんだそうだ。

神話級とは、最早おとぎ話やそれその物が逸話となって語り継がれるレベルの代物になるらしい。

元居た世界で言うならエクスカリバーとかグングニールとか、そう言った英雄や神様が使ってた武器がそれに相当するんだそうだ。

自分で頼んでおきながらなんだけど、やらかしてんなぁ、俺も……。

しかし、そこで活躍するのがこの偽装ってスキルだ。

これを自身や武器防具に施しておくことで、等級や見た目さえも誤魔化すことが出来るのだそうだ。

だもんで、今の俺は何処からどう見てもただのしがない新米冒険者ってわけ。

皮の鎧に鉄の剣と、何ともシンプルな出で立ちだ。

ただまぁ、剣の方は少し特殊で片刃で刃が少し反っている。

そう、所謂日本刀ってやつだ。

そして忘れちゃならない、町や都に入る際は必ず守衛に身分証の提示が求められる。

小さな農村とかだと無いことも多いみたいだが、門が備えられているようなところは十中八九守衛がいるため、必ず見かけない奴だったら呼び止められてしまう。

それも見越して、この世界での身分証である冒険者を明示する専用プレートの生成も済ませてある。

ふっふっふ、現世の世界での知識をフル活用……ってまぁ、当たり障り無い程度だけどな。


「止まれ」


そんなこんなでいると、案の定呼び止められた。


「あ、はい」

「んん、お前さん、見ない顔だな」


はいきたー、お約束ー。

予習はバッチリでございます。

ここから一番近い町は確かスフェンって名前の町だ。


「スフェンの方から流れて旅をしてます」

「ほほぅ、その若さでかい?冒険者プレートはあるかい?」


言われた通りに、俺はギルドで発行されているアイアン等級を示すプレートを首からネックレス状に下げているのを取り出して見せる。


「アイアンか、まだ成り立てだな、坊主」


守衛のオッサンはニヤリとしながら俺の肩をパンッと叩く。

取り敢えず愛想笑いで誤魔化しておく。

このプレートも勿論等級が備わっている。

今俺が首から下げてるのは最低等級のアイアン。

そこから順に、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと上がっていき、最後がブラックらしい。


「ま、ゆっくり旅の疲れでも癒していきな」


守衛のオッサンとはそこで片手を上げて軽く挨拶を交わしてすれ違い、そのまま王都へと入国する。

因みにこの冒険者プレート、便利なもんでどう言った原理かは知らないが、これまでに討伐したモンスターの討伐数やら、受けたクエストの達成数なんかも記録してくれる優れものらしい。

これは新人の冒険者などを罠に嵌めて食いものにするような、卑劣な冒険者対策なんだとか。

ようは虚偽が通用しないのだ。

仮に偽装などのスキルで偽っていた場合、きっちりと憲兵案件となり逮捕勾留、冒険者資格の剥奪もありうるらしい。

俺は一人苦笑いを浮かべながら町の散策に入る。


「おー、これが異世界の町並み。すげー」


俺は辺りをキョロキョロと眺めながら、ゲームの中でしか見たことの無い町並みを、改めて現実の物として受け止めて感慨深げに見て回る。

リアルに限りなく近付けたフルダイブ型のVRMMORPGはもう少し先の話ってことだったけど、こんな感じになったんかなぁ。

そんなことを考えながら通りを歩いていると、不意に身体に衝撃が走る。


ドンッ


「うおっ」

「きゃっ」


きゃっ?

俺は少したじろいだ程度だったが、どうやら真っ正面から誰かがぶつかってきたようだった。

相手は地面に倒れて尻餅を付く形となってしまった。


「あぁ、すみません」


俺は当たり障り無い感じで謝罪をしつつ、助け起こそうと手を差し出す。


「くっ、こんなときに……!」


地面に倒れ込んだのはどうやら女の子のようだった。

少し躊躇いはしたが、自分にぶつかって倒れたのだから、無視するわけにもいかない。

が、相手は何故か俺をキッと睨むと、徐に俺の手を取って立ち上がると、そのまま駆け出した。


「は!?」

「良いから、きてっ!」


有無を言わさずに俺は見ず知らずの少女に手を引かれ、路地の方へと連れていかれる。

どう考えても強制イベントの類いじゃないか。

要らないんだよ、そう言うのは!

胸中でそんなことをボヤいていると、走っていた足が急に止まる。


「へっへっへ……」


うわぁ、見るからにガラの悪いお兄様たち。

俺は周囲を見渡してから、完全に包囲されていることを悟る。

数は四人、路地って狭い状況からそれでも道を塞ぐには十分な数だ。

仮に後ろの二人を何とかして引き返したところで、どうせまた増援みたいなのが来るんだろう。


「小娘ェ……テメェ、良くも舐めた真似してくれたじゃねぇか、あぁッ!?」

「な、何よ!あなたたちが何も知らない新人の冒険者さんに、間違ったことを吹き込んでるのが悪いんじゃない!」


あー、正義感から悪いことは悪いと言っちゃうタイプなんだ、この子。

世の中、特に大人ってのはそんな綺麗事で済む話じゃあないんだよなぁ。

ポリポリと俺は後頭部を掻きながらどうしたものかと思案する。


「オイコラ、小僧!」

「へ?」


俺は中々にすっとぼけた返事で顔を上げる。


「テメェ、この辺りじゃ見ねぇツラだな。ヒーロー気取ってしゃしゃり出てくる気か?」


どちらかと言うと完全にただ巻き込まれただけなのだが、それを説いたところできっと彼らは笑顔でバイバイはしてくれないのだろう。


「って言うか、貴方たち俺が居ようが居まいが、結局ボコボコにするでしょ?」


俺の言葉に男たちはニヤニヤと嫌味な笑みを見せながら「へっへっへ」と笑う。

この笑い方をリアルにする奴を俺は初めて見た。

居るものなんだな、世界は広い。


「ここでのことを黙ってるってなら、見逃してやったって良いんだぜ?」

「彼女はどうするのさ?」


俺の当然の質問に、男たちは声を上げて笑いながら当たり前のように言い放つ。


「痛い目見せて楽しませて貰った後は、奴隷商人にでも売っ払うに決まってんだろうが!」


はい、屑確定。

ガラじゃないのは解っちゃいるけど、今の俺は来海(くるみ)康平(こうへい)じゃない。

ヘルフラット・アルテだ。

この異世界ライフを満喫するためにも、最初の世直しと行こうじゃないか!


「それじゃ、俺は彼女の護衛ってことで」


俺は腰から剣、もとい刀を抜き放ち、構えを取る。

自称神と初期設定を行った際に、一通りの剣術、格闘術はスキルとして獲得した。

そこから更に流派に別れるそうだが、俺にはなんか特別なのを付けるとか言っていた。


「なんだぁ、その変な剣は」

「この古風さが解らないようじゃ、あんたとは話も合わなさそうだ」


俺はニヤリと笑い刀を返す。

カチャッと音を立てながら、俺は刃と峰をひっくり返す。

流石にここで斬り殺すわけにはいかないからな。


「クソガキがぁ、痛い目みなきゃ解らねぇらしいな!おい、そこのガキ諸共、ボコボコにして女の方は拐え」

「へい!」


ここでは壁が狭いから大立ち回りは出来ない。

振り上げるか振り下ろすしかないか。

男たちは正面に二人、後方に二人。

正面二人はドスのような長さの短刀、後方二人はナイフをそれぞれに持っている。

仕方ない、危険は回避したいし手っ取り早くいこう。


「アクセル」


俺は魔術を唱えて敏捷性を高める。

常時発動のバフがあるから不要とも思ったけど、念には念をってやつだ。


「はっ、そんなちんけなバフ一つで切り抜けられると……」

 

相手の言葉を待たず、俺は強く一歩を踏み込み、助走を掛ける。

俺個人の感想は、まるで背中に羽根が生えたような感覚で軽い足取りに感じた。

まさに一足飛び。

目にも留まらぬ速さとはこのことだろう。

俺自身が一番驚いたが、それを顔に出しているようでは営業は勤まらない。

何より、目の前の二人が呆気に取られているのだ、その現象を引き起こした張本人が驚いてたら本末転倒甚だしいってものだろう。

営業の心得その一、如何なる時も平常心たれ。


「休んでて下さい」


俺は刀の峰で瞬時に二人の顎先を跳ね上げる。

ドドッと鈍い音が響いたかと思うと、二人は同時に軽く宙を舞って地面に叩き付けられる。

当然、最初の一撃で相手の意識は刈り取っている。


「後ろの二人に提案なんですけど」


俺はクルリと振り返って、ことの成り行きを見守っていた手下であろう後ろの二人に声を掛ける。


「俺の実力は解って貰えたと思います。それで、まだ俺たちをボコボコにして、彼女に乱暴働こうって気になりますか?」


なるべく笑顔を見せながら、俺は二人を見やる。

二人はアワアワとしながら首を勢い良く横に何度も振るう。


「なら、早くこの二人を担いで逃げた方がいいですよ。俺、気が短いんで」


笑顔のまま俺は刀をブンブンと振りながら答える。


「は、はいぃ!」


うち一人が裏返った声で返事をしながら、倒れた二人をそれぞれに担ぎ上げてどこかへと走り去っていく。

ま、気が短いとか真っ赤な嘘なんだけどね。

俺はポカーンとしていた女の子に改めて手を差し出す。


「遅れたけど、俺はヘルフラット。ヘルフラット・アルテって言うんだ。宜しくね」

「ぁ……わ、私はステラ!ステラ・ミルソワーズよ!」


女の子、ステラと名乗った彼女は慌てたように同じく手を差し出して握手を交わす。


「あ、あなたスゴいのね」

「いやぁ、たまたまだよ。相手も俺のことを盛大に舐めてたみたいだしね」


ステラは俺の腰に帯びてる刀を不思議そうに眺める。

この世界じゃそんなに珍しいのかな?


「それにしても変わった武器よね、それ。私も初めて見るわ」

「これは刀って言ってね、まぁ……俺の知り合いの形見みたいなものなんだ」


言い得て妙だとは思うけど、来海康平の生まれ変わりは俺自身、その魂って意味合いで考えるなら、この刀をそう言う風に表現するのもありかな、なんて勝手に思ってる。

さて、暗い話で水を差すのも如何なものかってことで、俺は努めて大袈裟に笑みを作りながらステラに提案する。


「ところでさ、実は俺、ここには来たばかりで右も左も解ってないんだ。良かったら冒険者ギルドの場所を教えてくれないかな?」

「え、えぇ、それは良いけど……」


何か言い淀んだ感じでステラはモゴモゴと歯切れが悪い。


「どうかした?」

「えっと……その、お礼……とか、どうすれば良いかなって……」

「お礼?」


まさか、さっき助けたことを言ってるのか?

大袈裟だなぁ。

こちとら中身は四十間近のおっさんだぜ?

こんなうら若き子に何かお礼をして貰うなんてとんでもないことだ!


「一応、その、助けて貰ったわけだし……(言えるわけ無いじゃない。あの瞬間は何だかパッとしなくて冴えない感じだったし、囮にして逃げようとしてたー、なんて絶対に言えないわ)」

「あー、まぁ、成り行きでそうなっただけだからさ」


って言うか、あの踏み込みやばかったなぁ。

あの勢いに任せて刀振るってたら、多分峰でも首吹き飛ばしてたよね、あれ。

どうせならって、ダメ元で頼んだ身体強化や魔力強化のバフが永続仕様だったなんて、おっさんビックリだよ。

一人あれこれと先の感想を思い浮かべていると、ステラが前に回り込んで立ち止まる。


「あの!」

「は、はい……!」


余りの勢いに思わず声が上ずる。

伊達に女性と仕事以外で会話してこなかっただけのことはある。

余裕でテンパる。


「それなら、ギルドに寄った後にご飯、とかどう?それなら、付き合って貰える?」


ご飯か、この世界でのご飯は少し気になるな。


「ま、まぁ、それくらいなら?」


当たり障り無い感じで取り敢えず返事をしておく。

と言うか、やけに馴れ馴れしい、と言うか。

よくよく考えたら俺は見た目十六の小僧な訳だから、彼女が近い歳なら口調もああなるのは必然か。

あー、過去の実年齢ありきの性格と若返った姿のギャップにはこんな面倒な感覚が備わるのか。

早いところ慣れないとこれはこれで面倒だぞ。

一人脳内でうだうだと迷っていると、先を歩いていたステラの足が止まる。


「着いたわよ、ここが冒険者ギルド!」


俺は入り口から建物の天辺までを見上げるように、顔をゆっくりと上に上げる。

とにかくでけぇ。

もっとこう、やさぐれた感じを想像していたが、まるで現代のハローワークみてぇにきっちりとした建物だ。

自称神から言われたのは、取り敢えず即席で冒険者プレートは作成したけど、更新の名目で一度冒険者ギルドに立ち寄って内容の確認とかをしておくようにってことだった。


「ありがとう」


一先ずステラにお礼を言いつつ、俺は扉を開ける。

当たり前のようにステラも俺に着いてくる。

そもそも、この子はなんなんだろうか。

この子も冒険者なのか?


「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件ですか?」


カウンターまで来ると、受付嬢から声を掛けられる。

うんうんこの感じ、クライアント先の受付に来た感覚が甦って実に泣けてくる。


「あー、えっと冒険者プレートの更新をと思いまして」

「はい、ランク上昇の確認などですね。それではプレートを一度お預かりしますので、出していただいても宜しいでしょうか?」


俺は言われた通り、首から下げていたプレートを差し出す。

受付嬢は手近にあった椅子を俺に案内し、「こちらに掛けて少しお待ちください」とテンプレトークで応対する。

改めて周囲を見渡して観察をして見る。

誰も彼も、大抵は二人ないし三人組くらいで固まって話し込んでいたり、掲示板の張り紙を難しい顔で見ていたりと様々だ。

張り紙は恐らくクエストの内容が記されているんだろう。

冒険者と言ったらクエスト、クエストと言ったら冒険者だ。

正直、この光景をリアルに見ているだけでワクワクしてくる。

俺があちこちと目移りしながら眺めていると、先程の受付嬢が誰かを伴って現れる。


「こちらの方です」

「君が、ヘルフラットくん、かな?」


俺は不意に名前を呼ばれて少し躊躇うが、一先ず立ち上がって返事をする。


「あ、はい。俺がヘルフラットですけど」

「私は当冒険者ギルドで部長を勤めている、カインと言う者だ。早速で悪いのだが、少し確認させて欲しいことがあってね」


これも実は予定調和。

自称神から必ず呼び止められると釘は刺されていた。

その際の対処法は既に授かっているから、その通りにことを運べれば問題はないのだが……。


「ん、そちらのお嬢さんは?」


カインさんは俺の隣に居たステラを見て「お連れの方かな?」と付け足してくる。

俺は先程あったことを包み隠さずに話して聞かせた。


「ふむ、まだそのような蛮行に勤しむ馬鹿共が跋扈(ばっこ)しているとは……君、取り敢えず憲兵に連絡を。ヘルフラットくんから聞いた先程の特徴から、恐らくはバッカスの手の者たちだろう。裏取りを進めて、可能なら資格の剥奪と独房へブチ込んでおきなさい」

「はい、早急に手配を進めます」


穏やかながらに物騒な物言いで、冒険者ギルドの部長さんは受付嬢にてきぱきと指示を出す。

それから俺に向き直ると丁寧なお辞儀をする。


「済まなかったね。特に、そちらのお嬢さんには怖い思いもさせてしまった。取り敢えず、ここではなんだから場所を変えて話の続きはしよう」


俺とステラは言われるがまま、促されるがままにカインさんの案内で別のところに案内される。

明らか、案内されたところは客をもてなすために用意された客室だ。

カインさんは無言で俺の前にあるテーブルに俺のプレートを差し出して、徐に尋ねてきた。


「……君は、転生者だね?」

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