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俺って死んだんですか!?

俺の名前は来海(くるみ)康平(こうへい)

何処にでも居る平々凡々なサラリーマンだ。

今年で御歳三十八歳。

極めてますとも、独身貴族。

今は何をしてるのかって?

取引先に見て貰う資料の作成だよ。


「おい、来海!資料はどうなったんだ!?」

 

俺が作って、俺がプレゼンして、そんで褒められんのは俺の上司って訳さ。

笑えるだろ?


「来海ぃ、お前またなんかやらかしたのかぁ?」

  

俺の努力なんざ一ミリも評価されやしない。

こうして同僚や後輩からは些細なミスを押し付けられる日々。


「すんません、せんぱぁい」


同僚や後輩から投げ掛けられる言葉にも辟易とする。

ニヤニヤと笑いながら(うそぶ)く口調でのうのうと嘘を吐く。

嘘と解っていてもそれに準拠して居る辺り、俺も立派な社畜として飼い慣らされてるんだろう。

会社の歯車ってのは世知辛いもんだよな。

今日も今日とて、定時に上がれはすれども空虚な一日が幕を下ろすのみ、と。

俺の唯一の楽しみと言ったら、最寄りの駅を出て徒歩三分、帰り道の途中にあるコンビニで先ずは腹拵えの弁当購入から始まる。

好物は唐揚げ、高い酒は何かを成し遂げたときのご褒美だ。

だから今日は安酒の缶チューハイ。

何にも成し遂げちゃいないからな。

ま、安酒には唐揚げが良く映える。

自分で飯は作れはするが、どうしても出来合いものに頼る癖がある。

特に出掛けて出費が嵩んだり、彼女や奥さん、家庭があるならまた違うんだろうが、そんなもの俺にはない。

稼いだ金は貯まる一方だが、減る目処がない。

ならこうした無駄な贅沢で少しは小貴族擬きを楽しむのが関の山なのさ。

趣味はないのかって?

陰キャの趣味って言ったらテレビゲームと相場が決まってる、なんて言ったら世の陰キャたちに怒られるか?

だとしたら先に謝っておこう。

だが、特に外に出てムーブをかますことの無い俺にとっては、やはりゲームの世界こそが俺の全てだ。

アバターは俺の理想の俺だ。

現実での俺に出来ないことを、代わりにコイツが全てこなしてくれる。

まさに、俺の理想そのものだ。


「……────」


俺はボーっとしながら、自分が作って育て上げたアバターのステータス画面を眺め続ける。

そう言えば、晩飯って俺食ったっけ?

あー、このキャラの名前、なんて名前にしたんだっけか。

確か、そうヘルフラットだ。

何てことはない言葉遊び。

俺の名前は康平。

健康で健やかにって親が付けてくれた名前だ。

康は英語でヘルス、平はフラット。

合わせてヘルフラット。

な?ダセぇ名前だろ。


「……────」


それよりもさっきから、ずっと耳の奥で何かが聞こえる。

誰かの呼び声のような……てか、今日って何曜日だっけ。

明日は何処へ商談に行くんだったか。

あれ?

俺ってこんなに物覚え悪かったか?

それに何だか、ものすごく目蓋が重い。

どうしちまったんだ、俺は。


「……っは!」


俺は何かに揺り動かされたように身体を起こして辺りを見渡す。

一面が、銀河の世界。


「何だ、これは……」


色とりどりの、そうテレビとかで見るような宇宙の世界。

全面パノラマ、足元すらも数多の星々で彩られている。


「おおお、息、息……!」


俺は慌てたように口を押さえて辺りを見渡す。

息、出来る。

そもそもここが本当に宇宙なのだとしたら、生身で居る時点で既に死んでるはずだ。


「夢、なのか……?」

「いいや、現実だよ」

「……ッ!?」


一人呟いたはずの言葉にまさか返答が来るとは思わず、俺はギョッとして振り返る。


「だ、誰だよ!」

「君、自分の状況解ってるかな?」


解ってないし、あんたが誰かも解ってないんだよ!

内心で悪態付きながら辺りをキョロキョロと窺う。

そうして目を凝らしながら見ていると、一点に白い靄が掛かったような人の形が形成されたものがあるのに気付いた。


「まさか、声の主はあんたか?」

「ご明察」


ここは、何なんだ。

何処なんだ。

お前は何だ。

誰なんだ。

聞きたいことが多すぎる。

そのどれもが言葉になって出てこない。

けど、そいつはそれを見透かすように、少し笑いながら言葉を発する。


「ふふっ、そりゃあ解らないよね。まぁ、一言で言うならここは死後の世界、かな?」


……ちょっと待てよ。

待てって、待ってくれよ。

死後の世界って、じゃあ何か。


「俺って死んだんですか!?」

「大・正・解・!呑み込みが早い人間は嫌いじゃないよ!」

「ふ、ふざけんなぁ!」


俺は思わず叫んでいた。

当たり前だ。

君は死にましたって言われて、ああそうなんだって即座に納得する奴があるか!?

居ねぇよな!?

いや、居るのか……?

いや、居ねぇよ、絶対に居ない!


「めっちゃ叫ぶじゃん」

「当たり前だろ、あんた馬鹿か!?」

「うわっ、ひっどー」


往年の友達感覚で軽い口調になってるそいつが、未だに誰なのかも判然としていない。


「ま、俺は所謂神様みたいなもんだね。君さぁ、頑張りすぎだよ。少しは自分の身体、労った方が良かったんじゃない?」


あっ……。

思い、出した。

コンビニからの帰り、目眩がしたんだ。

立ってられないくらいに、いきなり世界がグルンと回ったようになって、その場に倒れ込んで、だけどあの通りは夜間は人の出入りが少なくて、辺りには誰もいなかった。


「思い出したかい?そう、あの路地で君は倒れた。さっきまで君が見ていたのは走馬灯のようなものさ。ここに君が来た時点で、君の身体から君と言う魂は抜け落ち、現世での君は死んだ」


嘘だろ、おい。

こんなあっさりと、こんな簡単に、死ぬのか?


「……そうだね、悲しいけれどね、人に限らず、この世に生がある限り、死もまた隣り合わせに存在する。ある日突然にね」

「ッ!?」


俺の胸中の叫びを見透かすように、神と自称するそいつはポツリと呟いた。


「けれどね、来海康平さん」

「な、何で俺の名前を……!」


俺の抗議も虚しく、自称神は言葉を続ける。


「貴方の生きた日々は理不尽が過ぎる。私は君の努力を見ていたよ。私はね、その努力と言う言葉が嫌いだ。頑張れば何とかなるって、そんなことあり得ないよ。何とかなら無いから失敗するのさ。それは努力なんて陳腐なもので埋めれる差などではないんだ」


俺の頑張りなんてのは、無意味だってのか。


「君は、失敗しても落ち込まなかったね。怒られようとも、周りから罵倒されようとも、決して折れなかった」


ああ、そうさ。

俺は俺なりにやって来た自負がある。

それを貶して良いのは俺自身だし、何かミスがあったならそれは俺の落ち度だ。

上司からの叱責はあって当たり前。

けどだからって、直属でもない先輩や同僚、果ては後輩から謂れの無い罵倒を貰う理由はない。

だから気にしないことにしたんだ。

言いたい奴には言わせておけば良い。

そんなことでストレス発散が出来て良かったねと鼻で笑ってれば良いんだ。


「だから、あの世界での君を私は殺した」

「…………は?」


理解が追い付かない。

こいつは今なんて言った?

俺を、殺したって?

目の前が真っ白になると同時に、頭に血が上るってのが何となく解った気がした。

視界が弾けたように赤くなり、言い様の無い狂暴性が解き放たれようとしている感覚。

俺は、生まれて初めて誰かを殺したいと感じた。

それが例え神であろうともだ。

俺の生命は、神の気紛れで消されたのか?

確かに褒められた良い人生とは程遠かったが、それでも俺が歩んできた道だ。

それを、それを、それを……!

勝手に阻んで良い理由が神ならあるってのか!?


「甘んじて君からの殺意と敵意は受け入れるよ。往々にして、これまでの何人かはやはり君のように怒り狂ったからね」

「当然だ!人の一生はあんたのオモチャじゃないんだぞ!!」


ふざけるな。

何なんだよ。

ここが死後の世界だって言うなら、何なんだよ!


「勿論、神である私が故意に干渉した魂には、恩恵が加わる。ここ、重要だよ」

「何が言いたいんだよ!」


自称神は至って冷静に言葉を紡ぐ。

俺は、まだ腹の虫が収まらない。

自称神はその靄の掛かった人差し指を立てながら、更に訳の解らないことを言い放った。


「君の魂は転生する。これはもう決定事項でね。別の世界で死に直面してしまった肉体を元に、君の魂を入れることで新たな人をその世界に誕生させる」

「……はあ!?」


言ってる意味が解らない。

転生って、あの転生か?


「世界は広いよ、来海康平さん。君の望んだ世界を、君のその足で歩めるチャンスだ。地球で再度これまでの知識を活かして再挑戦しても良い。全く違う世界もある。選ぶのは君さ」


待て待て待て待て。

本気で言ってるのか、こいつは。

俺は馬鹿らしいと思いながらも、質問をしていた。


「転生すると、どうなるんだよ」

「転生者は普通の人よりも端的に知能面、腕力面は勿論、あらゆる部分で上回る。強くてニューゲームってやつだね。この言い回しの方が君には理解が早いだろう?」


マジかよ。

それじゃあ……。


「そう、私は君の天寿を全うさせて上げれなかった。その代償として私は君に力を授ける義務がある。それこそが強くてニューゲームの真髄みたいなものだ」

「……具体的には?」


俺は少し冷静さを取り戻して質問を重ねてみた。


「本来、君は地球でこの後八十歳まで生きることが出来た。そのときの死因は病死だ」

「病死……」


少し複雑な気分になった。

でも、倍の歳を生きれる予定だったのか。


「その生きれなかった分を換算して、あらゆる性能強化に当てるのが私の役目だ。あのオンラインゲームで理想の自分を突き詰めていた君なら、こうしたクリエイトはお手のものじゃないのかい?」


全部お見通しって訳だ。

それが本当なら、次に俺が歩む人生はある程度イージーになってるって見方が出来るけど。


「君が知っている世界でも、知らない世界でも、君が望む通りに私がクリエイトしよう。ただし、君の魂を救済するのが私の役目だ。死んだことに自棄になって、転生先で暴れ回るようなら、その限りじゃない」


つまり、悪逆非道に成り下がるのなら、この話はなかったことにされるって訳だ。

だったら俺は……。


「良いよ、どんな世界でももう一度生きれるのなら、その眉唾話に乗ってやる!」

「良い覚悟だね。それなら、選ぶと良い。君が新たに生きる世界を」


俺は事細かに要望を伝えた。

そして具体的に俺が生きるはずだった年月を換算することで何がどう変えれるのかも聞いた。

言ってしまえばゲームで言うところのチートの類いだ。

ステータスの限界突破や固有のスキルや技と言ったものの獲得、最初からあらゆる性能強化を施せるってことみたいだ。

自称神が与えられるものに限るそうだが、それでもポイント換算で消費年月は一年分から多くて三年分と破格のコスト計算だ。

試しにラノベや漫画、既存のゲームなどで使われていた能力やスキル名を羅列してみたが、それは無理ってのが大半を占めた。

そりゃまぁそうなるか、と少し納得はした。

けど、そんな中で再現や獲得が可能なものが幾つか存在した。

それは名の知れ渡っている伝説の武器だったり、魔法だったりだ。

万人がそれは彼の有名な!と言えるほどに知見が広まっている場合だと再現や獲得ができるそうだ。

そこで俺は可能な限り、自身を俺が理想としていた形へとクリエイトすることにした。


「それで、良いのかな?」

「ああ、これで良い」


俺は設定を見直して頷く。


「改めて、君に謝罪を」


自称神は靄の掛かった頭をうなだれさせる。

神がたかが人に頭を下げるのかよ。


「君はたかが人にと思うかもしれないけれどね、人は宝だよ。人無くして私たちは存在できないのだから。その人の生命を無下に刈り取ったのだ……ならば、相応に敬意を払い、今一度その生を紡ぎ直さねば、それこそ君たちにとって神は無価値となってしまう」


大仰なことだと思いながら、自分の目の前にいるのは自称神であることに変わりはなく、その評価を俺も覆すことはない。

だが、だからこそある種の親近感と安堵感が今は俺の心を満たしている。


「この世界での君の名前は、何と言うのかな?」


自称神からの質問に俺は頬を人差し指で掻きながら少し気恥ずかしそうにして答えた。


「ヘルフラット。ヘルフラット・アルテだ」

「良い名だ。では、そこで君は新しい道を歩んできなさい。地球で得られなかった充足感を、満足感を、達成感を、幸せを……必ず手に入れると良い」


言われなくとも。

こき使われた人生だった。

だしにされた人生でもあった。

だが地球での俺は死んだ。

来海康平はもう居なくなった。

俺の名前はヘルフラット、ヘルフラット・アルテだ。

眩い光が視界を覆い、その光に堪えきれず目を細める。

ヒューッと言う風の吹く音で再び俺は目を開ける。

そこは森の中らしく、先程までの銀河の世界ではなくなっていた。


「ハハッ、お約束って訳か」


口に出して喋ってみて、俺は違和感に気付く。

声、若くないか?

確か、自称神から教えて貰ったコマンドはっと……。


「ステータスオープン」


ヴンッと言う音と共に目の前に俺のステータスが表示される。

名前、ヘルフラット・アルテ。これはよし、年齢が……十六!?

若くしてくれとは言ったが、まさかここまで若返らされるとは思わなかった。

ははは、まぁありがたいことだ。

で、大抵こうした異世界で最初に困るのは所持金だ。

だから自称神に言って初めからこの世界での通貨を確保して貰った。

知識としても当然ある。

金貨、銀貨、銅貨、鉄貸それぞれこの世界では金貨がおおよそ日本円に換算して十万円程度、銀貨が一万円程度、銅貨が五百円程度、鉄貸が十円程度の価値だったな。

ざっくりとしすぎててヤバイけど、まぁそんなもんだろう。

自称神のお陰で、この世界の基礎知識は当たり前のようにインプットされている。

そこも抜かりなしだ。

右往左往した挙げ句に面倒ごとに巻き込まれるなんてのは真っ平御免だ。

先ずは現在地の把握からだ。

俺は目を閉じて頭の中にある地図を展開させる。


「サーチ」


位置の把握と近場の都市の表示だ。


「えーと、ここは……なるほど、迷いの森って言うのか。…………迷いの森!?」


ゲームや何かだと移動先がランダムになっていて、来た道を戻っても同じ場所にはならないギミックが主だったやり口だけど、現実だと日本で言う樹海みたいなもんか、これは。

なんつー場所に転送してくれてんだよ、あの自称神は!

こう言う樹海のようなところは迷う典型だ。

先ず、周囲を見渡しても同じ景色が単調的に続く。

今自分がどの方角を向いているのか、それすらも解らなくなる。

何より生い茂る木々が天然の遮蔽物となり、視界の見通しも悪い。

樹木が密生しているために、同じような景色がずっと続くのだ。

だけど、ここは異世界。

そう、言うなればファンタジー世界だ。

こう言うときの為に、俺は自称神から幾つかの魔術をピックアップして予め獲得しておいたのだ。


「フライ」


俺の言葉に呼応して身体から重力が消える。

フワリと俺の身体は宙に浮き、その高さをぐんぐんと上げていく。


「ははっ、こりゃあ良いな!」


上空へと躍り出た俺は周囲を見渡す。

まさに迷いの森とは良く言ったもので、広大な密林が視界の彼方まで続いていた。


「こりゃあ、歩いてたら死ぬわ」


俺は半笑いになりながらその広大な密林を眺めつつボヤく。

周囲をぐるりと見渡すと、森の出入り口であろうその先に都市の造形が窺えた。


「あそこだな。よーし、いっちょ行ってみますか!」


俺は、都市の見える方へ進路を定めて飛行魔術でそのまま突き進んでいく。

風を切る音、頬を撫でる風、全てが新鮮で全てが現実のこの世界に、俺は心を躍らせずにはいられなかった。

俺の新しい人生。

俺の新しい冒険がここから始まる。



■ステータス

氏名:ヘルフラット・アルテ

年齢:十六歳

性別:男

職業:???

称号:新米転生者

保有スキル:万物言語、常時身体強化、常時魔力強化...etc

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