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第81話:進化の道標

二十層の主、ツインヘッド・ドラグネスを討ち倒し、カイトたちは眩い光に包まれたゲートを潜り抜けた。

 転送の余韻が収まり、視界が開けた瞬間、カイトの頬を撫でたのは、これまでの階層にはなかった「潮騒の香り」と、肌を焼くような「熱気」が混じり合った独特の空気だった。


「……ここが、二十一層か」


目の前に広がっていたのは、荒々しい断崖絶壁と、その眼下に広がる深く蒼い海。そして、岩場の一部からは溶岩が川のように流れ出し、蒸気と熱風が渦巻く異様な光景だった。

 『竜の巣』の深部。ここは、異なる属性を持つ竜たちが共生する階層だ。


カイトは背後に立つイストとティロフィを振り返り、これからの方針を告げる。


「イスト、ティロフィ。ここからが本番だ。この階層には『炎竜』『海竜』『空竜』という三種の強力な竜がいる。その三種を倒した際、稀にドロップする『三種の宝玉』――これらすべてを集めることが、ティロフィの進化の絶対条件だ」


カイトの言葉に、ティロフィが喉の奥で期待を込めた唸り声を上げる。灰色の瞳には、自らの内側に眠る力が目覚めようとしていることへの渇望が宿っていた。


「今日はこのまま夕方までここで狩りをする。明日以降の休日もここが主戦場だ。……いいか、イスト。炎竜と空竜は、これまでの戦い方の延長で対応できる。だが、問題は海竜だ。奴らは海中を主戦場にする。こちらの攻撃が通りにくい上に、引きずり込まれれば一巻の終わりだ。海竜との戦いには、少し慣れる時間が必要になるだろう」


イストは冷静に頷き、白の剣の柄に手をかけた。

「承知いたしました。まずは、我らの得意とする陸上と空中から制圧していきましょう」


カイトが指示を終えたその時、熱風と共に、岩場から巨大な影が高速で接近してきた。


「――来たぞ! 最初の標的だ。ティロフィ、注意しろ!」


岩場の影から飛び出してきたのは、全長五メートルほど、燃え盛る夕日のような朱色の鱗を纏った『炎竜』だった。

 大きな翼をはためかせ、着地と同時に大地が爆ぜるような咆哮を上げる。炎竜は普段地を這うように移動するが、その全身からは常に陽炎が立ち上り、周囲の酸素を焼き尽くしていく。


「グルァァァァッ!!」


炎竜が喉を膨らませたかと思うと、瞬時に灼熱のブレスを放射した。

「【挑発の咆哮】! ティロフィ、相殺しろ!!」


カイトのスキルが発動し、炎竜の敵意が強制的にティロフィへと固定される。ティロフィは自身の【灰の咆哮】を前方に展開し、炎の津波を正面から受け止めた。


「今だ、イスト! 翼を狙え!」

「はっ!」


イストが岩場を蹴り、一気に炎竜の懐へと潜り込む。炎竜はティロフィに夢中でイストに気が付いていない。白の剣が、朱色の鱗を切り裂き、空気に触れた瞬間に燃え上がる鮮血を散らした。


だが、炎竜もここ、『竜の巣』の二十一層の住人。並のモンスターではない。

 翼を力強く羽ばたかせると、一時的に宙へ舞い上がり、その勢いを利用して強力な【火焔の爪】を振り下ろした。狙われたティロフィの鱗が焼ける。


「空中へ逃がすな! ティロフィ、【竜鞭】で引きずり戻せ!」


滞空しようとした炎竜の脚を、ティロフィの強靭な尾が鞭のようにしなって捉えた。

「ガハッ!?」

 力任せに地へと叩きつけられた炎竜。そこへ追い打ちをかけるように、ティロフィが至近距離から【灰の咆哮】を叩き込む。爆炎と灰が入り混じり、視界が遮られる。


「……まだだ、来るぞ!」


カイトの「危機感知」が反応した。

 爆煙の中から、炎を全身に纏い、文字通りの「火の玉」と化した炎竜が突進してきた。尻尾に炎を集中させ、旋回しながらの一撃。


「イスト、【流剣】で受け流せ! ティロフィはそのまま上から抑え込め!」


イストが盾と剣を交差させ、炎竜の旋回攻撃の威力を受け流す。その一瞬の硬直を突いて、上空からティロフィが巨躯を押し付けた。

 「グオォォォォ!」

 組み伏せられ、首を地面に押し付けられた炎竜が、最後の手出しとばかりに口内に魔力を溜める。


「させない……! 【一閃】!」


イストの白き一撃が、炎を吐き出そうとした炎竜の喉元を正確に斬り裂いた。

 魔力が暴発し、炎竜の巨躯が内側から弾けるようにして光の粒子へと変わっていく。


激しい戦闘の余韻が漂う中、炎竜が消えた跡には、小さな魔石が一つ落ちていた。


「……そう簡単には出ないか、宝珠」


カイトは魔石を拾い上げ、険しい崖の先にある広大な海を見つめた。

 まずは一体。しかし、これから相手にする海竜や空竜、そしていつ出るか分からない宝珠のドロップを考えれば、道程はまだ始まったばかりだ。


「いい動きだったぞ、二人とも。次は空竜か、それとも海竜か……。ティロフィ、君の進化のためだ。気合を入れていくぞ」


「グルゥ……!」

 相棒の力強い返事を聞きながら、カイトは次なる獲物を探して、潮風吹く断崖を歩き始めた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.33)』

『使役モンスター:イスト(Lv.41)、ティロフィ(Lv.40)』

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