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第80話:双頭の毒竜

三十六層での苦い撤退から数日。カイトは安易な特攻を避け、着実に「力」を積み上げる道を選んだ。

 平日は演習時間をフルに活用して三十四層を周回し、自身のレベルを三十の大台へと押し上げる。そして迎えた土曜日、カイトたちが立っていたのは「統合ダンジョン」ではなく、「竜の巣」の十六層だった。


転送門の淡い光が消えると、カイトは即座に二体を召喚した。


「イスト、ティロフィ。今日は前に話してたようにここ、竜の巣の二十層を突破する」


カイトの言葉に、白の騎士と灰塵の竜が真剣な面持ちで頷く。

 今日の目的は明確だ。この「竜の巣」の二十層までを一気に駆け抜け、その階層主を討伐すること。そして、二十一層への道を開き、ティロフィの「進化」に必要なアイテムを集めることにある。


「目標は二十層のボスだ。行くぞ!」


攻略は電光石火だった。

 カイトが新たに30レベルで覚えた【挑発の咆哮】、コレの対象をティロフィにして敵をひきつけることにより、イストが攻撃に集中できるようになった。

 道中の雑魚モンスターは、そうやってほぼ一方的に二体に狩られていった。


カイトが左腕の腕時計に目を落とすと、針はちょうど午後三時を回ったところだった。

 目の前には、二十層のボス部屋、そこに行くためのゲートがある。


「……来たな。ここが二十層の主、ツインヘッド・ドラグネスの居場所だ」


カイトは深呼吸をし、魔力を練り上げる。そしてゲートに足を踏み入れた。





全長六メートル。不気味な紫色の鱗に覆われたその竜には、翼がない代わりに、二本の極めて長い首が生えていた。片方の首は鋭い牙を剥き出しにして唸り声を上げ、もう片方の首は、瞳に妖艶な魔導の光を宿してこちらを凝視している。


「グルァァァァッ!!」

「シャァァッ!!」


二つの頭部が同時に異なる叫びを上げ、戦闘の幕が切って落とされた。


先制したのは、魔法を司る右の頭部だった。目が妖しく紫色に光ったと思えば、瞬時に三つの「毒の弾」が形成され、カイトたちへ向けて射出される。


「ティロフィ、ブレスで相殺! イストは左の頭を抑えろ!」


ティロフィが【灰の咆哮】を放ち、飛来する毒弾を空中で霧散させる。その隙間を縫うように、イストが肉薄した。

 「はぁっ!」

 物理攻撃を主体とする左の頭部が、猛烈な勢いで噛みつきを繰り出す。イストはそれを盾で弾き、白銀の剣を首の付け根に叩き込むが、ドラグネスは翼がない分、その強靭な四肢と尾を駆使して驚異的な回避を見せた。


さらに、魔法の頭部が床に毒の液体を吐き散らす。

「【毒沼】か……! 足場を奪うつもりだな」


紫色の沼が急速に広がり、カイトたちの機動力を奪おうとする。カイトは即座に指示を飛ばした。

「ティロフィ、空中から牽制! イスト、沼に触れるな、岩の隆起を足場にしろ!」


戦況は熾烈を極めた。

 左の頭が放つ強力な「毒のブレス」と、右の頭が構築する「毒の壁」によるコンビネーション。右の頭が壁を作って退路を断ち、左の頭がそこへ必殺のブレスを叩き込む。その連携は、いままで対峙してきたどのモンスターと比べても、凌駕するものだった。


「片方だけ倒せばいいわけじゃない……。片方が死ねば残った方が暴走する。理想は同時撃破だ!」


カイトは「危機感知」によって察することのできる攻撃を余裕をもって避けながら二体に指示を出す。

 右の頭部が大規模な毒魔法の詠唱に入った。それと同時に、左の頭部が大きく息を吸い込み、最大出力のブレスを放とうとする。


「今だ! 全力で行くぞ!!イスト、【破剣】! 右の頭の詠唱を断ち切れ! ティロフィ、【竜鞭】で左の頭を固定しろ!」


ティロフィが長く強靭な尾を振り上げ、ブレスを放とうとした左の首の側面を痛烈に殴りつけた。首を弾き飛ばされたドラグネスが苦悶の声を上げる。そこへ、空を駆けたイストが、魔力を極限まで圧縮した白き一閃を右の首へ叩き込んだ。


ドォォォォン!!


物理と魔力の衝突が激しい爆発を引き起こす。

 イストの【破剣】が右の頭部を半ばまで切り裂き、その衝撃で魔法が暴発。同時に、ティロフィが弾いた左の頭部へ、カイトが自ら光の弾を追加で叩き込み、隙を作った。


「トドメだ!!」


「【一閃】」

「グルァァァァ!」


イストの剣が右の首を跳ね飛ばし、その瞬間に合わせてティロフィが【灰の咆哮】を左の頭部に直撃させる。

 二つの頭部が、ほぼ同時に地に伏した。


断末魔の叫びさえ上げる暇もなく、紫の巨躯は激しく痙攣した後、光の粒子となって崩壊していった。


静寂が訪れる。

 カイトは膝をつき、激しく肩で息をしながら、戦場の中央に現れた二つのドロップ品を見つめた。


一つは、巨大な魔石。

 そしてもう一つは……。


「……『葬骨の大斧』か」


全長二メートルを超える、異様なまでの威圧感を放つ両刃の大斧。柄も刃もすべてが禍々しい「骨」で構成されており、紫色の結晶が神経のように細部に張り巡らされている。

 カイトが触れると、斧から猛毒の魔力が伝わってきた。たとえ刃が欠けようとも、大元の骨が残っていれば再生するという、不壊に近い性質を持つ武器。


「ラッキーだな、でもこれを扱える人に心当たりはないな……一旦しまっておくか」


カイトは大斧を拾い上げ、宝物庫へとしまう。

 二十層突破。強力な装備の獲得。

 確実に実りのある戦闘だった。


「お疲れ様。……さあ、いよいよ次は二十一層だ」


カイトの視線の先、さらなる深部へと続くゲートが、静かに彼らを誘っていた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.33)』

『使役モンスター:イスト(Lv.41)、ティロフィ(Lv.40)』

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