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第70話:瘴気の漂う竜の墓場

週末、土曜日の午後。

 カイトは平日の統合ダンジョンでの演習とは別に、自身の目的を果たすために一つのダンジョンへと足を運んでいた。

 その名は――『竜の巣』。

 かつて竜たちが住処とし、今や強力な竜種やその成れの果てが跋扈する高難易度ダンジョンである。


(一ヶ月後の複合上級職の公表に向けたレベリング。それと、ギルドに頼んだ『もう一つの願い』のためにはここでモンスターを沢山狩らなければいけない)


転送門を抜け、カイトが辿り着いたのは第十六層。

 そこは、これまでの明るい岩場とは対極にある、地獄の様相を呈したフィールドだった。

 空はどんよりとした紫色の雲に覆われ、地表にはどす黒い液体が溜まった「毒沼」が点在している。空気中には目に染みるような濃密な瘴気が漂い、吸い込むだけで肺が焼けるような錯覚を覚える。


「……リアルにするとここまでひどい環境なのか。二人とも、準備はいいか?」


「問題ありません」

「グルゥ……ッ」


召喚されたイストは騎士としてカイトを守るように周囲を警戒する。ティロフィは今までとは違う竜の気配を感じ取ったのか、普段よりも鋭い呼気を漏らし、周囲を威嚇した。


カイトたちが粘つくような泥濘を進み始めて数分。

 前方の毒沼が大きく波打ち、そこから「異形」が姿を現した。


――ガチ……ガチガチ。


乾いた骨が擦れ合う音が静寂を破る。

 泥の中から這い出してきたのは、全長五メートルを超える巨大な竜の骨格。肉の一片も纏わず、ただ白骨化した骨を瘴気の魔力で繋ぎ合わせた死霊の化身。

 スケルトン・ドラゴンだ。


その眼窩には不気味な赤い光が宿り、剥き出しの顎が大きく開かれる。


「……来たな。ここの主役だ」


スケルトン・ドラゴンが咆哮の代わりに、喉の骨を震わせて瘴気を吐き出した。それは物理的な衝撃波を伴う「瘴気のブレス」となってカイトたちへ襲いかかる。


「ティロフィ、ブレスで相殺しろ! イストは側面へ!」


「ガハァァァァッ!!」


ティロフィが放った【灰の咆哮】が、紫色のブレスと激突した。爆発的なエネルギーがぶつかり合い、周囲の毒沼が霧散する。その視界不良を突いて、イストが影のごとく地を這う機動で肉薄した。


キィィィィン!!


イストの【連閃】がスケルトン・ドラゴンの前脚――剥き出しの腕骨に叩き込まれる。岩のモンスターをも断つ一撃は、容易く竜の骨を両断し、巨大な体躯がバランスを崩して沈み込んだ。


「……意外と脆い、か?」


だが、カイトの楽観は即座に否定された。

 切断されたはずの骨が、周囲の瘴気を吸い込んで瞬時に接合される。断面から不気味な魔力の糸が伸び、磁石のように引き合って元通りになったのだ。


「……再生能力か。ティロフィ、イスト!胸骨の奥だ! 紫色の核を狙え!」


カイトの指示に従い、イストがさらに踏み込む。しかし、スケルトン・ドラゴンも無知ではない。自身の弱点を守るように、長い尾――鋭い棘のついた脊椎の列を鞭のようにしならせて迎撃してきた。


ドォォォォォン!!


イストは辛うじて盾で受け流したが、その衝撃で地面が大きく陥没した。骨だけとは言え五メートルを超える巨躯、その暴力的な質量攻撃は今のカイトたちにとっても脅威だ。


「ティロフィ、上空から牽制! 骨の隙間に爪を立てて拘束しろ!」


ティロフィが大きく旋回し、スケルトン・ドラゴンの背後から急降下した。強靭な鉤爪が、竜の肋骨の間に深く食い込む。死霊の竜は激しく身悶えし、ティロフィを振り払おうと暴れるが、ティロフィは翼を広げてその巨躯を強引に押さえつけた。


「今だ、イスト! 最大火力で貫け!」


「承知――【連閃】!」


イストは、ティロフィが抉じ開けた肋骨の隙間――その奥で脈打つ、紫色の結晶体を見定めた。

 彼女の全身から溢れ出した魔力が白き剣に収束し、まばゆい一筋の閃光と化す。

 その高速の突撃は、再生を司る紫色の「核」を真っ向から貫いた。


パキィィィィィィィン……!!


空間に響き渡るほど高い破壊音。

 核が粉々に砕け散った瞬間、スケルトン・ドラゴンの動きが止まった。眼窩に宿っていた赤い光がスッと消え、巨体を繋ぎ止めていた瘴気が霧散していく。


ガラガラガラ……。


十メートルを超える骨の山が、崩れ落ちながら魔力へと変換されていく。


「……ふぅ。再生されると厄介だけど、核さえ叩けば一撃か」


カイトは戦場に残り、ドロップアイテムを確認した。そこには、スケルトン・ドラゴンの強力な魔力が残留した「竜の骨片」と、魔石が転がっていた。

だが、カイトの求める物はドロップしていなかった。


「流石に一体目からドロップはしないか。二人とも、いい連携だった。ティロフィ、押さえ込みが効いたよ。イストもあの隙間をよく通したね」


「ありがたき幸せにございます。ですが、まだこの層には多くの気配が……」

「グルゥッ」


イストの言葉通り、霧がかった瘴気の向こう側で、再び骨が擦れ合う音が聞こえ始めた。一頭倒した程度では、この広大な十六層の渇きは癒えない。


「ああ、分かってる。今日の目標は、この層の動きに完全に慣れること、そしてできれば目的の物がドロップするかの確証を得たい。……よし、休憩なしで次に行くぞ!」


カイトは手に入れた素材を宝物庫に収めると、再び瘴気の奥へと歩みを進めた。

 一ヶ月後の「証明」のために。

 そして、イストとティロフィというかけがえのない仲間が、世界の中心で胸を張れるように。

 カイトの週末は、まだ始まったばかりだった。


『現在のジョブ:調教師(Lv.22)』

『使役モンスター:イスト(Lv.16)、ティロフィ(Lv.13)』


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― 新着の感想 ―
前世でやりこんでいたカイトがスケルトンドラゴンの能力を知らなかったのはなぜでしょうか?リトル・グレイドラゴンの潜在能力を知っていたような記述がありましたが前世では16層までは来ていなかったのでしょうか…
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