第69話:岩石を纏った者たち
統合ダンジョン三十一層。
カイト、イスト、ティロフィの一行は、荒涼とした岩場をさらに奥へと進んでいた。先ほどのガレムとの初戦で、この階層の「硬さ」は十分に理解した。だが、攻略すべき敵はゴーレムだけではない。
「……来るぞ。まずは空だ」
カイトの鋭い視線の先、十数メートル級の岩塊の頂から、一つの影が音もなく飛び出した。
カイトたちの目の前に現れたのは全長二メートル。その全身が硬質な堆積岩のような羽に覆われた怪鳥、イェンシーバードだ。それは重力に従って落下するのではない。その巨躯を弾丸のごとく加速させ、鋭利な岩のくちばしを先頭にカイトへと突き進んできた。
「ティロフィ、迎撃! 空を譲るな!」
「グルォォッ!」
ティロフィが力強く地を蹴り、空へと舞い上がる。イェンシーバードは空中で不自然な機動を見せ、ティロフィの死角へと回り込もうとするが、カイトの指揮がそれを許さない。
「右だ! 旋回して叩き落とせ!」
ティロフィは空中で巨躯を翻し、急降下してくる怪鳥の側面にその強靭な翼を叩きつけた。
ガギィィン! と、鳥の羽音とは思えない鈍い衝突音が響く。イェンシーバードは体勢を崩しながらも、空中で踏みとどまり、再び高度を取ろうとする。
「逃がしません……っ!」
地上のイストが跳躍した。岩塊の壁面を足場に、垂直に近い角度で駆け上がる。
イェンシーバードが再び突撃の体勢に入るその一瞬の隙を突き、空中で静止したかのような滞空時間の中で、イストの白き剣が閃いた。
「【連閃】!」
ガガガガッ! と、怪鳥の硬い翼の付け根に連続した衝撃が加わる。岩の羽が火花と共に削り取られ、揚力を失ったイェンシーバードが地上へと墜落した。そこへティロフィの追撃――重量を生かした踏みつけが炸裂し、怪鳥は沈黙した。
そのまま息をつく暇もなく、足元の地面が不自然に盛り上がり、巨大な「震動」が一行を襲った。
岩石を削り取るような不快な音が周囲の岩塊に反響する。
「ティロフィ、離脱しろ! イスト、僕の前に!」
カイトの指示と同時に、地面を突き破って現れたのは、全長四メートルの巨躯を誇るロックワームだった。その姿は巨大なミミズそのものだが、体表は重厚な玄武岩のような外殻で守られている。
ロックワームはその硬い頭部を突き出し、まるで掘削機のような勢いでカイトたちへ突進を開始した。その通り道にある岩塊が、まるで紙細工のように粉砕されていく。
「正面から受けるな! 突進の軌道を逸らすんだ!」
「承知いたしました!」
イストが盾を構えるように剣を並行に持ち、突進の側面に滑り込む。まともに受ければ骨まで砕かれる衝撃だが、彼女はその瞬間に魔力込めた剣戟を当て、突進のベクトルをわずかに横へとズラした。
制御を失ったロックワームが巨大な岩壁に激突し、轟音が響き渡る。
「今だ、ティロフィ! 喉元を焼け!」
ティロフィが地上に降り立ち、無防備に晒されたロックワームの節の隙間へ、至近距離から【灰の咆哮】を放つ。
シュゥゥゥゥッ!!
外殻の隙間に高熱の灰が入り込み、内部からロックワームを焼き焦がす。苦悶にのたうち回る巨躯。そこへイストがとどめ――【連閃】によって同じ節を徹底的に抉り、ついにその長い体が力なく横たわった。
ロックワームの死骸から魔石を回収しようとした瞬間、カイトの背筋に冷たいものが走った。
いつの間にか、周囲の岩塊の陰に「青白い目」がいくつも灯っている。
全長一・五メートル。体が岩で作られた狼、ロックウルフだ。それも一頭ではない。三頭、四頭……五頭。群れによる包囲網だ。
「……流石に三十一層。周囲に人がいなければモンスターも狩られていないから休みをくれないな」
ロックウルフは他のモンスターと違い、極めて素早い。そして、岩でできているとは思えないほど音もなく移動し、死角から同時に襲いかかってくる。
「ワオォォォォン!!」
リーダー格の一頭が咆哮を上げると、五頭が一斉に四方から跳びかかってきた。
イストが円を描くように剣を振り、二頭を弾き飛ばす。だが、残る三頭がティロフィの脚やカイトの背後を狙う。
「ティロフィ、全方位に【灰の咆哮】! 威力を絞っていい、怯ませろ!」
「グガァァァァッ!!」
ティロフィの咆哮が、衝撃波となって周囲に円状に広がる。
跳躍していたロックウルフたちは、空中でその衝撃を受け、岩の体を軋ませながら地面に叩きつけられた。
「逃がすな! イスト、各個撃破だ! ティロフィは俺の上空で旋回、動きの止まったやつを潰せ!」
「はい!」「グルゥッ!」
ここからは「調教師」カイトの真骨頂だ。
イストには右方の二頭を、ティロフィには正面の三頭を。カイトは戦場全体を俯瞰し、一秒刻みで指示を出す。
イストの剣がロックウルフの関節を正確に切り裂き、機動力を奪う。そこをティロフィの鋭い爪が粉砕する。
岩でできた狼たちは、どれだけ硬かろうと、連携という暴力の前に次々と砕け散り、最後の一頭が魔力となって散っていった。
「……ふぅ。これで全部か」
周囲には、いくつかの魔石が転がっている。
カイトは肩で息をつきながら、戦果を確認した。
イストは白の甲冑を汚すことなく、ティロフィはさらに闘志を燃やすように喉を鳴らしている。
「ガレム、イェンシーバード、ロックワーム、そしてロックウルフ……。この階層の『顔ぶれ』は全部見たな」
カイトは二体を見つめ、力強く頷いた。
一戦一戦に今までよりも苦戦を感じる。だが、その分得られる経験値と、何より硬い敵に対する「連携の精度」が跳ね上がっていく感覚がある。
「二人とも、よくやってくれた。……でも、まだ始まったばかりだ。俺たちは一ヶ月後までに、もっと強くなるぞ」
カイトは再び前方の険しい岩山を見据えた。
「よし。演習時間はまだある。この調子で、どんどん戦闘を重ねていこう! 次だ、行くぞ!」
主の言葉に、騎士と竜が力強く呼応する。
岩嶺の荒野に、止まることのない三人の足音が再び力強く響き始めた。
『現在のジョブ:調教師(Lv.21)』
『使役モンスター:イスト(Lv.12)、ティロフィ(Lv.8)』




