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第71話:回想、そして実績への布石

――ガチリ。

 無機質な骨が崩れ、魔力へと還元される微かな音。

 十二体目となるスケルトン・ドラゴンを撃破したカイトたちの前に、これまでとは明らかに異なる「物体」が泥濘の上に残された。


「……っ、これは!」


カイトが泥を払い、それを手に取る。

 それは、巨大な竜の脊椎を削り出したかのような、禍々しくも美しい骨の大剣だった。刃渡りだけでカイトの身長を優に超えるその武器は、鞘がなくともそれ自体が強固な魔力を帯びており、周囲の瘴気を寄せ付けないほどの存在感を放っている。


「『竜骨の大剣』……ついに、落ちたか!」


カイトは、その重量感と手に伝わる脈動を確認し、歓喜に顔を綻ばせた。

 鋼鉄をバターのように切り裂く鋭さと、およそ骨とは思えないほどの硬度。そして何より、これこそがカイトがギルドに提示した「計画」の要なのだ。


大剣の骨の刃を見つめるうちに、カイトの意識は数日前の、あの静謐な特別会議室へと戻っていく。







皇慈円ギルド長と、龍崎教官。二人を前にして、カイトは二つ目の条件を切り出していた。


「二つ目は――」

 カイトは真っ直ぐに皇の目を見据え、言い放った。

「僕がこれから獲得してくる予定の武器を、公表の場で販売することを喧伝してほしいんです」


その予想外の提案に、百戦錬磨の皇も一瞬だけ目を丸くした。

「武器、かね?」


「はい。現在、僕は単独高難易度ダンジョン『竜の巣』の攻略を進めています。現在の到達地点は十六層……そこを、今まさに攻略中なんです」


「なっ……!?」

 隣で沈黙を守っていた龍崎教官が、思わず声を漏らした。

「竜の巣の十六層だと? あそこは国内のプロチームですら、竜たちの圧倒的な力に阻まれて、十四層で足踏みしているはずだ。……それを、お前一人で攻略しているというのか?」


「はい。攻略中です。そして、そこに生息するモンスターからは、極稀に『竜骨シリーズ』……剣、大剣、そして杖がドロップします。これらをギルドの専売品として、僕の名前で販売してほしいんです」


皇慈円は、組んだ指の上に顎を乗せ、思案するように目を細めた。

「……なるほど。冒険者が獲得した戦利品をギルドが適正価格で買い取り、それを販売する。流通の流れとしては何ら問題はない。だがカイト君、君ほどの少年が単なる金銭目的でそんな提案をするとも思えないが……。君には、どんな『狙い』があるんだい?」


カイトは頷き、自身の思考を整理して答えた。


「理由は二つあります。まず一つは、新職業のデモンストレーションのためです。これらの竜骨装備は、カテゴリーとしては『魔剣』や『魔杖』に分類されます。そして、僕が至った複合上級職の一つ『魔騎士』には――【魔剣解放】というスキルがある」


「魔剣解放?」


「はい。装備に眠る魔力を強制的に引き出すスキルです。竜骨シリーズでこれを行えば、使い手は個人でありながら、強力な『無属性のドラゴンブレス』を放つことが可能になります。公表の場で、新職業の圧倒的な火力を証明するには、これ以上の素材はありません」


皇の背筋に、わずかな戦慄が走る。

 一冒険者が、竜の息吹を放つ。それがどれほど戦場の常識を覆すことか。だが、カイトの言葉はまだ終わらなかった。


「そして二つ目……こちらの方が、僕にとっては重要です。この装備が『竜の巣の十六層以降で手に入る物だ』と、大々的に広めていただきたいんです」


「……実績の証明、か」


「その通りです。僕は現状、世間から見ればただの学生です。そんな僕がいきなり『新職業を見つけました』と言っても、運が良かっただけだと思われる。あるいは、妬みの対象になるだけです。……でも、日本のプロチームですら到達できていない階層を一人で踏破し、そこでしか手に入らない装備を大量に持ち帰ってきたとしたら? その『実力』だけは、誰も否定できなくなる」


カイトの瞳には、冷徹なまでの計算があった。


「生半可な実績では、注目された後の学校生活が荒れます。……圧倒的な、誰も文句が言えないほどの実績を突きつけておきたいんです」


皇は、しばし沈黙した。

 目の前の少年は、単に強いだけではない。自分という存在をどう社会に位置づけるか、その政治的な立ち回りまでも見据えている。


「……ふむ。確かに、竜の巣の未踏破区域攻略は、実績としては文句なしだ。公表の際のインパクトも絶大だろう。だが……カイト君。一点だけ懸念がある。君は『販売する』と言ったが、それほどまでに多くの武器を、あそこから持ち帰れるのかい?」


カイトは不敵に、しかし自信に満ちた笑みを浮かべた。


「今はまだ、売るほどは持っていません。……だから、この一ヶ月で、売るほど獲って見せます」


「っ……く、ふふふ……はははは!」

 皇慈円は、堪えきれないといった様子で豪快に笑った。

「頼もしいね。いいだろう。その条件、ギルド長の名において正式に了承しよう。君が持ち帰る竜骨の山、楽しみに待っているよ」


「ありがとうございます!」






回想から引き戻されたカイトの視線の先には、先ほど手に入れた『竜骨の大剣』が鈍く光っている。

 一ヶ月で在庫を揃える。それは並大抵の努力では不可能だが、今の自分たちならできると確信していた。


「よし。ティロフィ、イスト。幸先がいいぞ、まずは一本目だ」


「おめでとうございます、主。この調子で、不遜なる死霊共を狩り尽くしましょう」

 イストが白き剣を鞘に納め、次なる獲物を探して首を振る。


「グルゥ……ッ!」

 ティロフィもまた、主の野心を理解したように、激しく燃える灰色の瞳で瘴気の奥を睨みつけた。


カイトは手に入れた大剣を宝物庫へと丁寧に収納し、再び自身の魔力を高める。

 目指すは最強の実績。

 そして、世界を黙らせるだけの圧倒的な武力。

 カイトたちの狩りのペースは、さらに加速していった。


『現在のジョブ:調教師(Lv.22)』

『使役モンスター:イスト(Lv.17)、ティロフィ(Lv.14)』

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― 新着の感想 ―
停滞を続けるこの世界の冒険者の常識をぶち壊す、と? 真面目に限界まで自己研鑽した冒険者には吉報でもあり凶報でもあるよね
なるほどぉ。確かに学生のが発表するより実力を持った者が、のほうがいいですよね
こんにちは。 プロチームですら手を焼くレベルのダンジョンのドロップ品(一般人からしたら普通に激レア)を販売…確かに実績としては申し分ないですね。 カイトくんそこまで考えてたんですなぁ…。
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