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第35話:示された道筋、各々の歩み

日曜日の休日、カイトはあえてダンジョンへは向かわず、自宅で精神を休ませることに専念した。

 元ゲーマーとして、そしてこの世界に来てからなった冒険者の卵としての経験則から、無理な連戦は判断力を鈍らせることを知っていたからだ。


そして月曜日。いつも通り大崎市立第一中学校へと登校したカイトの手には、昨日まではなかった【翡翠の杖】が握られていた。


「おいカイト、その杖……昨日までのボロ杖と違って、ずいぶん強そうだな」

 教室に入るなり、目ざとく見つけた佐藤が声をかけてくる。

「ああ、ちょっとしたツテでね」

「へぇ、中級職になったお祝いか? 似合ってるぜ!」


佐藤の邪気のない言葉に、カイトは曖昧に微笑んで席に着く。九条院紗夜がその杖をじっと見つめていたが、彼女が口を開く前に予鈴が鳴り、教官が教卓に立った。


教官の表情は、いつも以上に厳しかった。

 二十層のボスを突破し、中級職へと至ったことで教室内に漂う浮ついた空気。それを切り裂くように、教官は記録ボードを教卓に叩きつけた。


「静かにしろ。……お前ら、中級職に上がって二十層を越えたことで、自分たちが一人前の冒険者にでもなったつもりか?」


冷徹な声に、生徒たちの私語がピタリと止まる。


「次なる二十一層から先は、これまでの草原のような見晴らしのいい所ではない。広大な『森のフィールド』だ。視界は悪く、魔物の隠れ場所は無限にある。断言しておくが、難易度はこれまでの比ではない。一段階どころか、別世界だと思え」


教官はホワイトボードに『二十一』という数字を大きく書く。


「二十一層以降での死亡事故は、発生率が高い。油断した中級職が、茂みに潜む魔物の一撃で首を飛ばされるのは珍しい光景ではない。浮かれている奴から死ぬ。それを肝に銘じておけ」


教室に緊張感が戻る。教官は一息つくと、一年間の最終目標を告げた。


「そして、三十層の攻略についてだ。一年生の終わりの月、お前らには最後にして最大の『合同攻略』を行ってもらう」


三十層。そこは中級者が上級者へと脱皮するための大きな壁だ。


「そこまでに、前衛・後衛の戦闘職は最低限、『上級職』に至っておくこと。支援職や回復職などのサポート職は、中級職であってもできる限りの装備を整えきること。三十層の攻略、それがこの大崎第一中学における進級の最低条件だ。届かぬ者は、冒険者としての道を諦めてもらう」


上級職。それは、一握りの才能と血の滲むような努力を重ねた者だけが辿り着ける領域だ。カイトの隣で、佐藤がごくりと唾を飲み、田中が拳を握りしめるのがわかった。


ホームルームが終わると、すぐに佐藤、田中、鈴木の三人がカイトの席に集まってきた。


「カイト、聞いたかよ。三十層で上級職か……。正直、燃えてきたぜ」

 佐藤が拳を合わせる。そして、少しだけ真剣な面持ちでカイトを見つめた。

「それでさ、相談なんだけど……。俺たち、中級職になっただろ? ここから先は難易度も上がるっていうし、また四人でパーティーを組まないか?」


その言葉に、田中も頷く。

「そうよ。あなたの的確な指示があれば、上級職への道だって最短でいける気がするし」

「ええ。またカイトくんと一緒に頑張りたいな」


鈴木も優しく微笑む。

 かつて盾士だった頃、共に歩んできた気心の知れた仲間たち。彼らの提案は、カイトにとっても合理的で、何より心強いものだった。友人としての情が、胸の奥で疼く。


(……だが、今の俺には『中級経験値ブースト』がある)


このスキルの効果を最大化し、誰にも見られない場所で『複製魔法陣』や隠しスキルを磨き上げるには、ソロでの活動が必須条件だ。パーティーを組めば、経験値は分散し、何より自分の「異常な成長」を隠し通すことができなくなる。


カイトは、断腸の思いで首を振った。


「……ごめん。せっかくの誘いだけど、俺はソロで活動しようと思ってるんだ」

「えっ……ソロで? でもカイト、二十一層からは危ないって教官も……」


驚く佐藤を遮るように、カイトは翡翠の杖を少しだけ強く握った。


「わかってる。でも、一人でどこまで通用するか試したいんだ。それに、自分のペースで突き詰めたいことがあって」


嘘ではない。だが、仲間を突き放すような物言いに、カイトの心に罪悪感が走る。

 一瞬の沈黙。

 それを破ったのは、佐藤の快活な笑い声だった。


「ははっ! なんだよ、そんなに深刻な顔すんなって! カイトらしいな。……わかった、お前がそう決めたなら俺たちは応援するぜ」

「佐藤……」

「でも、無茶しすぎんなよ? ピンチになったらいつでも呼べ。俺たちが速攻で助けに行ってやるからな」


田中も呆れたように肩をすくめる。

「まったく、頑固なんだから。そういうことなら仕方ないわね」

「ふふ、また放課後とかに遊びに行こうね、カイトくん」


鈴木の言葉に、カイトの胸のつかえが少しだけ降りた。


「ああ。……ありがとう」


分かたれた道。

 佐藤たちはパーティーとして、カイトは孤独な『大魔法使い』として。

 だが、その先にある三十層という目標は同じだ。


カイトは教室を後にしながら、決意を新たにする。

 経験値三倍のブーストを使い、誰も追いつけない高みへと駆け上がる。

 一年生の終わり。三十層の門をくぐる時、自分は一体どこまで強くなっているのか。


期待と覚悟を胸に、カイトは二十一層――未知なる森のフィールドへと続く転移陣へと足を進めた。


『現在のジョブ:大魔法使い』

『現在のレベル:4』

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― 新着の感想 ―
追いつきました。 続きを楽しみにしています。
>前衛・後衛の戦闘職は最低限、『上級職』に至っておくこと。 >上級職。それは、一握りの才能と血の滲むような努力を重ねた者だけが辿り着ける領域だ。 進級条件厳しすぎるエリート中学なの? それにレベル制…
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