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第139話:カイト、怒られ発生

 三人の面接が終わった翌日。

 カイトは、クランの立ち上げメンバーであり大切な友人でもある佐藤たちのパーティーに連絡を入れていた。昨日の今日で急な誘いになってしまったが、佐藤からは「夕方からなら時間が取れる」と返信があり、さっそく集まる段取りをつけたのだった。


 ――夕方。都内の大通りに面した、少し広めのファミレス。

 カイトはボックス席に腰掛け、ドリンクバーのメロンソーダを軽く揺らしながら、三人の到着を待っていた。窓の外は少しずつ茜色に染まり始め、学校や仕事を終えた人々で街が活気づき始めている。


 しばらくして、自動ドアが開くと同時に、見知った三人の姿が目に飛び込んできた。

 佐藤、そしてパーティーメンバーの二人だ。彼らはとある単独ダンジョンに潜っていた帰りらしく、しっかりと身支度を整えてはいるものの、どことなくダンジョン終わりの冒険者の空気感を纏っている。


「悪いカイト、待たせたか!」


 佐藤がいつも通りの快活な声で手を挙げながら、対面の席に滑り込んできた。続いて残りの二人も「お疲れ、カイト」「急に呼び出すなんて珍しいじゃん」と笑いながら席に着く。


「ううん、俺も今来たところだから大丈夫だよ。みんな、まずはダンジョンアタックお疲れ様。急に集まってもらって悪かったね」

「気にするなって。それで、今日はどうしたんだ? 飯の誘いってわけでもなさそうだし」


 佐藤がメニューを開きながら尋ねる。カイトは微笑みながら、まずは彼らの近況から尋ねることにした。


「本題の前に、今日のダンジョンはどうだった? 成果はあった?」

「あ、それな! 聞いてくれよ、まぁぼちぼちって感じかな! 狙ってた中ボスのドロップは出なかったんだけどさ、魔石の効率は悪くなかったから、そこそこの稼ぎにはなったぜ」


 佐藤は悔しそうにしながらも、充実感のある笑みを浮かべる。メンバーたちも「佐藤がちょっと欲張りすぎたのよね」「でも、攻略自体は問題なさそうだよね」と口々に続け、和やかな空気が広がっていく。


 そんな雑談を交わしつつ、各自がドリンクバーから取ってきた飲み物がテーブルに並び、全員が一口つけて落ち着いたところで、カイトは表情を少し引き締めた。


「よし、みんなの調子が良いみたいで安心した。――じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」


 そのトーンの変化に、佐藤たちも背筋を伸ばし、カイトの言葉に耳を傾ける。


「昨日、九条院さんと一緒に、クランの事務や税務を任せるスタッフの面接を行ってきたんだ。九条院家からの紹介も含めて、三人の人物が来てくれた」


 カイトは、昨日出会った三人の候補者について、順を追って説明を始めた。

 税務のスペシャリストでありながら冒険者の知識もある山本。元上級職の双剣士で、前線冒険者の気持ちやこだわりを誰よりも理解してくれる朝日。そして、大手シンクタンク出身で、組織構築や財務コンサルとして圧倒的な能力を持つ氷室。

 三人の経歴と、それぞれの突出した強みを丁寧に伝えていく。佐藤たちは、新設クランの募集にそれほどの傑物たちが集まったことに、驚きを隠せない様子で聞き入っていた。


「……とまぁ、これが三人の詳細なんだけど。俺の結論から言うと、この三人『全員』を採用したいと思ってるんだ。みんな得意分野がバラバラだから、三人揃えば最強のバックオフィスができる。これからクランが大きくなるためにも、今この人たちを逃すのは絶対に良くないって判断した」


 カイトがそう締めくくると、佐藤は腕を組み、深く頷いた。


「なるほどな……。話を聞く限り、どいつもこいつも俺たちには逆立ちしても真似できないプロフェッショナルじゃねえか。カイト、俺は三人の採用、大賛成だぜ」

「私も賛成。カイトがそこまで言うなら間違いないし、私たちの知らないところでクランを支えてくれる人がそれだけ優秀なら、これ以上心強いことはないわ」


 メンバーたちも即座ににこやかにに同意してくれた。他でもない、自分たちが信頼するクランリーダーであるカイトが「採用すべきだ」と判断したのだ。そこに異論を挟む余地などなかった。


「みんな、ありがとう。……ただ、問題が一つあってね」


 カイトは少し声を落とし、九条院とも議論した「資金」についての話を切り出した。


「優秀な三人だからこそ、それ相応のまともな報酬を支払う必要がある。でも、今みんなで出し合って集めたクラン資金は1200万だ。これからクランハウスを借りて設備を整えることを考えると、最初から三人分の人件費を抱えるのは、財政的にかなり厳しいんだよね」


「あー……確かに。まともなオフィスを構えるだけでも結構飛ぶもんな」

「うん。だから、足りない分の資金は、俺が個人で全部負担しようと思ってるんだ。俺はほら、みんながまだ行けないような深層や未踏破のダンジョンにも個人で潜っているから、魔石やレア泥の宛てはあるし、資金の調達はなんとでもなる。だから――」


 カイトがそこまで言ったときだった。

 それまで黙って聞いていた佐藤が、ぴたりとカイトの言葉を遮るように手を挙げた。その表情は、先ほどまでの穏やかなものとは違い、少しだけ真剣で、どこか不満げだった。


「待て待て、カイト。三人の採用には大賛成だけど……その資金のセリフは、ちょっと聞き捨てならねえな」


「え……?」


「お前が個人で全部負担するってのは、なんか違うんじゃねえか?」


 佐藤は真っ直ぐにカイトの目を見据えた。隣のメンバーたちも、佐藤の言葉に深く同意するように頷いている。


「カイト、お前がめちゃくちゃ強くて、深層で一般の冒険者じゃ拝めないような大金を稼げるのは知ってる。だけどさ、これは『俺たちのクラン』の話だろ? 裏方のスタッフを雇うってのは、カイトの個人秘書を雇うわけじゃねえ。俺たち全員をサポートしてもらうためのシステムだ。だったら、そのために必要なお金は、クランメンバー全員で協力して生み出すべきことじゃないか?」


 佐藤の言葉は、熱く、そしてどこまでも誠実だった。


「全部お前一人が背負い込んで、お前の財布だけで解決しちまったら、俺たちは何のためにクランを組んだんだよ。ただお前の金魚のフンみたいにくっついて、うまい汁吸うだけの関係になっちまう。そんなの、俺は絶対に嫌だ」


「佐藤……」


「九条院たちのパーティーも含めて、また近いうちに全員で集まってしっかり話はすることになるとは思うけどさ。少なくとも、俺たち三人の認識としては完全にそう考えてる。足りないなら、俺たちももっとダンジョンに潜って、今よりいい魔石やドロップを拾ってきてクランに貢献する。一人の負担にさせるな。頼むから、俺たちにも背負わせてくれよ」


 メンバーの女性陣も微笑みながら口を開く。

「そうだよ、カイト。私たちは足手まといになるためにクランに入ったわけじゃないもの」「少しでも早くカイトくんの隣に並べるように稼いでみせるから、一人で抱え込まないでね」


 三人の真っ直ぐな想いが、言葉となってカイトの胸に飛び込んでくる。

 カイトは目を見張り、それから、じわじわと胸の奥が熱くなるのを感じた。

 九条院が言っていた「佐藤たちなら怒るはず」という言葉は、本当だった。彼らはカイトの強さに甘えるつもりなど毛頭なく、対等な仲間として、同じ歩幅で未来へ進もうとしてくれている。


 カイトは小さく息を吐き、張り詰めていた肩の力を抜いて、心からの笑みを浮かべた。


「……うん。わかったよ。俺が悪かった。みんなの気持ち、すごく嬉しい。ありがとう」


「おう! 分かってくれればいいんだよ!」


 佐藤は満足そうに破顔し、再びメロンソーダをぐいっと飲み干した。

 その後、張り詰めた空気は一気に霧散し、ファミレスの席はいつもの賑やかな雑談へと戻っていった。次に潜る予定のダンジョンの話や、新しく新調したい装備の相談、そして「もし三人とも入ってくれたら、その朝日って人と前衛のトークができるな!」と佐藤が目を輝かせる場面もあった。


 気が付けば窓の外は完全に夜の帳が下りており、いい時間になったところで、カイトたちは席を立った。


「じゃあな、カイト! 次のクラン全体の会議、楽しみにしてるぜ!」

「うん、また連絡するよ。気をつけて帰りなよ」


 ファミレスの入り口で、それぞれの帰路につく三人の背中を見送りながら、カイトは静かに拳を握りしめた。

 頼もしい仲間たちがいる。彼らとなら、どんなに高い壁だって乗り越えていける――そう確信しながら、カイトもまた、自分の家へと歩き出すのだった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』

『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』

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― 新着の感想 ―
でも、いざ支払う時にお金が足りませんでした。って訳にはいかないし、まずは主人公が金銭を出して、後で分割分を集める方が、組織としては健全だと思うの。
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