↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/202

第137話:面接、三人目

 朝日が退室してから約一時間後。本日最後となる三人目の面接時間が近づき、個室のドアが三度、規則正しいリズムでノックされた。「失礼いたします」と響いたのは、低く落ち着いた、知性を感じさせる声だった。


 入ってきたのは、すらりと背の高い、端正な佇まいの男性だった。

 きっちりと着こなしたスーツに、細いフレームの眼鏡。その奥にある切れ長の瞳からは、極めて利発そうで、何事にも動じない冷静な雰囲気が醸し出されている。


「どうぞ、お掛けください」


 九条院の案内に、男性は音を立てずに一礼し、無駄のない洗練された動作で椅子に腰掛けた。先の二人とは明らかに異なる、社会人として完璧な大人、といったオーラがある。


「まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか?」

「はい。本日面接の機会をいただきました、氷室竜ひむろりゅうと申します。年齢は三十一歳です。これまでダンジョンに潜った経験、いわゆる冒険者としての活動実績はございません。前職ではシンクタンクにて、主に企業の財務コンサルティングや組織運営のサポート業務に就いておりました。本日はよろしくお願いいたします」


 冒険者経験こそ「なし」だが、三十一歳という働き盛りの年齢で、前職の経歴は申し分ないどころか破格だ。九条院は書類を見つめつつ、いつものように業務内容についての確認を投げかけた。


「自己紹介ありがとうございます。氷室さんの経歴を拝見するに、財務やコンサルタントとしての実績は圧倒的ですが……。今回の私たちの募集は、武具の発注から魔石の売却、税務処理や雑務といった、クランの裏方仕事全般となります。こちらの実務に関して、ご自身の中で何か問題はなさそうでしょうか?」


「結論から申し上げますと、全く問題ないと考えます。前職で扱っていた企業の財務規律やスキームの構築に比べれば、これから立ち上がるクランの初期運営タスクは非常にシンプルなものです。武具の発注ルートの最適化や、魔石の売却利益を最大化するための市場分析、適切な税務処理に至るまで、すべてにおいて私のスキルでそつなく、かつ確実な処理をお約束できます」


 感情の起伏を表に出さず、淡々と、しかし絶対の自信を持って答える氷室。その言葉には付け入る隙がなく、仕事における優秀さは疑いようもなかった。


 続いて、カイトが静かに眼鏡の奥の瞳を見据え、二番目の質問を投げかける。


「氷室さんはこれまで冒険者としての経験がないとのことだけど、世間一般には、冒険者に対してあまり良くないイメージを持つ層もいるよね。氷室さん自身、冒険者という存在に対して何か思うところや、忌避感のようなものはあったりする?」


「いえ、特にそういった忌避感はありません。私の観点からすれば、冒険者とはダンジョンという不確定要素の多い市場から、魔石や資源といった莫大な富を調達してくる極めて効率的な『個人事業主』の集まりです。彼らが命を賭して獲得したリソースを、いかにリスクを排除して組織の利益へと還元するか。そこに感情的な偏見を挟む余地はありませんし、彼らの活動を純粋にビジネスの側面からリスペクトしております」


 徹底して合理的、かつ客観的な視点。だが、それは決して冷徹という意味ではなく、一人のプロフェッショナルとして冒険者の価値を正当に評価している証拠でもあった。


 カイトは納得し、最後に最も気になっていた点について尋ねた。


「なるほど、よく分かったよ。それじゃあ最後に、どうしてあなたほど優秀な人が、まだ立ち上がったばかりの俺たちの小さなクランに応募してくれたのか、そのきっかけを教えてもらえるかな?」


 すると、氷室の表情がほんの少しだけ和らぎ、九条院の方へと視線を向けた。


「一つ目の理由は、九条院家からのご紹介をいただいたことです。以前からお世話になっていた縁があり、現当主様の娘である紗夜様が新たなクランを立ち上げられると伺いました。そして二つ目の理由は、クランの構成メンバーの皆様に非常に強い興味を惹かれたからです。結城さんをはじめ、学生という若さでありながら、すでに全員が大会の上位入賞などすさまじいポテンシャルを秘めている。このクランの将来性を考えれば、黎明期から参画して組織の基盤を創り上げることは、私のキャリアにとっても非常に魅力的な投資であると判断いたしました」


 九条院家からの推薦。その事実だけで信頼性は担保されているが、何よりカイトたちの実力を正当に見極めた上での「将来性への投資」という言葉には、強い知性を感じさせた。


「九条院家の繋がりから声をかけさせてもらったのだけれど、氷室さんが来てくれて本当に心強いわ」


 九条院の言葉に、氷室は静かに頭を下げる。

 その後も、今後のクラン法人化へ向けた具体的な手続きの流れや、他の中堅クランの財務的な失敗事例など、氷室の優秀さが際立つ話題で一時間ほど雑談を交わし、面接は時間通りに終了した。


「それでは、良いご連絡をお待ちしております。失礼いたします」


 スマートに席を立ち、最後まで非の打ち所がない完璧な礼儀作法で退室していった氷室。

 彼が去った個室で、カイトと九条院はこれですべての面接が終わった解放感と共に、大きく息を吐き出した。


「……三人とも、全く別のベクトルで優秀すぎて少し頭が痛いな……」

「本当にね。でも、これで最高の選択肢が揃ったわ。結城くん、誰を仲間に迎えるか、しっかり話し合いましょう」


 手元の三枚の評価シートを見つめながら、二人は新クランの未来を支える裏方スタッフの選考へと、真剣な議論を始めるのだった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』

『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
中心に置くなら一人目だし、現場との繋ぎ役なら二人目、クランの起業と発展は三人目がほしい。 それこそ、長く居て欲しいのは一人目と二人目だけど、最初の時期に必要なのは三人目。一人なら三人目だし、複数なら全…
本人が一番規格外の最優のくせに何言ってるんだか… 応募者が冒険者としての経験と経理の実務能力が三者三様だけど、 これだけ個性が分かれるとシナジー効果がすごそうよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。