第136話:面接、二人目
山本が退室してから約一時間後。定刻の少し前、個室のドアが再び控えめにノックされた。「失礼しますっ」という、どこか体育会系のハキハキとした声と共に、二人目の候補者が姿を現す。
入ってきたのは、少し小柄で背の低い女性だった。
襟足をさっぱりと刈り上げたショートカットに、くりっとした大きな瞳。見るからに元気そうで活発な雰囲気を全身から醸し出している。
「どうぞ、お掛けください」
九条院の柔らかな案内に、女性は「はいっ! 失礼します!」と頭を下げ、ちょこんと椅子に腰掛けた。声の大きさから動作を含め、その場を自分のペースに巻き込むような、不思議な愛嬌がある。
「まずは、簡単に自己紹介からお願いできますか?」
「はいっ! 朝日ひかりと申します! 年齢は二十五歳です! じつは私、つい最近まで専業の冒険者をやっていまして、上級職の『双剣士』でレベルは55までいってました! 本日はよろしくお願いしますっ!」
事前に知ってはいたが、元上級職トップクラスの冒険者という経歴に、カイトと九条院は小さく目を見張った。
九条院は手元の書類を確認しながら、一歩踏み込んだ質問に移る。
「自己紹介ありがとうございます。上級職のレベル55……素晴らしい実績ですね。ですが、今回は前線で戦う冒険者ではなく、クランのバックオフィス業務の募集となります。武具の発注やドロップ品の管理、クラン資金や税金の処理などが主な仕事になりますが、こちらの業務内容については問題なさそうでしょうか?」
「はいっ! ぶっちゃけ言うと、私はそういった事務作業のプロフェッショナル、というわけではないです。でも、冒険者時代にパーティーの財布管理とドロップ品の換金担当をずっと押し付け……あ、任されていたので、基礎的な帳簿の付け方やギルドとのやり取りは身体に染みついてます! 優秀な実務家とはいかないかもですが、冒険者へのサポートという点なら誰にも負けません!」
自分の能力の限界を正直に認めつつも、経験に裏打ちされた前向きな姿勢を見せる朝日。九条院も彼女の正直さと、ギルドの仕組みを知り尽くしている点には確かなメリットを感じたようだ。
続いて、カイトが彼女の最大の転換点について質問を投げかける。
「元専業冒険者で、そこまでレベルを上げていたのなら、まだまだ前線で稼げたはずだよね。差し支えなければ、冒険者を辞めてうちの事務職に応募した理由と、今の冒険者という存在に対して思うところを聞かせてもらえるかな?」
「あ、それはですね。辞めた理由はズバリ、長年一緒に組んでたパーティーメンバーが結婚を機に引退しちゃったからなんです! だったら私もキリがいいし、そろそろ別の形でダンジョンに関わろうかなって。だから、冒険者に対して忌避感なんてゼロどころか、むしろ彼らの気持ちは誰よりも分かります! 命懸けで潜った後の、あの独特のハイテンションとか、装備選びのこだわりとか……カイトさんたちの目線に立って、一番痒いところに手が届くサポートができる自信があります!」
その言葉には、元当事者だからこその強い説得力があった。カイトたちの意図や苦労を、マニュアルなしで「感覚」として共有できる人材は、クラン運営において極めて貴重だ。
カイトは納得の表情で頷き、最後の質問をした。
「なるほど、よく分かったよ。じゃあ最後に、この立ち上がったばかりの俺たちのクランに入ろうと思ったきっかけを教えてくれる?」
朝日は悪戯っぽく微笑むと、親しみやすさを込めて答えた。
「それはもう、これから間違いなくトップへと駆け上がるクランだからです! 結城さんの新職業のニュースを見た時から、ここなら絶対に面白いことになるって直感しました。それに、私学生からそのまま冒険者になったのでいまいち社会人としての基礎ができてないんですよね、でも若い世代が中心になって作るクランなら、お堅い大手クランよりは受け入れてもらえるんじゃないかなって思いまして!」
「あはは、確かにうちのメンバーなら、特に硬いことはないしすぐ馴染めそうだね」
その後も、双剣士時代の前衛ならではの苦労話や、ダンジョン内での美味しい携帯食料の話題など、一時間ほど終始賑やかに雑談を交わした。朝日が持つ独特の明るさと、冒険者目線の貴重な感性が十分に伝わったところで、面接は終了となった。
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました! 失礼しますっ!」
最後まで元気よく部屋を去っていった朝日。その嵐の後のような余韻の中で、カイトと九条院は微笑みながら、二人目の評価をシートに書き込んでいくのだった。
『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』
『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』




