第135話:面接、一人目
コンコン、と静かにドアがノックされ、「失礼します」という張りのある声と共に一人の男性が入室してきた。
中肉中背の体格に、さっぱりとした清潔感のある短髪。表情はにこやかで、入ってきた瞬間から部屋の空気をふっと明るくするようなポジティブな雰囲気を纏っている。
「どうぞ、お掛けください」
九条院が促すと、男性は「ありがとうございます!」と小気味よく応じて席に着いた。
「まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?」
「はい! 本日面接を受けに参りました、山本 隆と申します! 年齢は二十八歳です。高校生時代にアルバイト感覚で少しだけ冒険者を経験しており、当時の到達レベルは20ほどでした。その後は一般の会社に就職し、主に税務や財務関係の仕事に携わってきました。本日はよろしくお願いします!」
提出された履歴書通り、実務経験は申し分ない。九条院は手元の端末に目を落としながら、まずは一番の懸念点である実務の確認から質問を切り出した。
「自己紹介ありがとうございます。早速ですが、今回の募集要項にある業務内容――所属冒険者からの武具の発注やドロップ品の売却管理、そして何よりクラン資金の運用や税務処理についてですが、山本さんの経歴から見て、実務として問題なくこなせそうでしょうか?」
「はい、全く問題ありません! 前職ではより規模の大きい法人の税務処理や資産管理を担当しておりましたので、クラン運営で発生する帳簿の手続きや税金の計算などは、これまでのスキルをそのまま活かせると自負しております! むしろ、実務に関しては即戦力としてお役に立てると思います!」
ハキハキとした口調には確かな自信が漲っており、九条院も満足そうに頷いた。
続いて、これまで静かに山本の様子を観察していたカイトが口を開いた。冒険者を支援するクランのスタッフとして、最も重要と言ってもいい「内面」に関する質問だ。
「俺からも一ついいかな。山本さんは元々一般の会社で働いていたとのことだけど……正直、世間には冒険者に対してあまり良い印象を持たない人も少なくないよね。山本さん自身、冒険者という存在に対して何か思うところや、忌避感のようなものはあったりする?」
「いえ、とんでもないです! 先ほど申し上げた通り、私自身も高校時代にレベル20までとはいえダンジョンに潜っていましたから、彼らがどれだけ命懸けで戦っているかは肌で理解しているつもりです! むしろ、そうして最前線で戦う人たちを、自分の得意な事務作業で全力でバックアップしたいと心から思っています!」
その言葉に嘘偽りはないようで、山本の真っ直ぐな瞳からは冒険者への深いリスペクトが伝わってきた。人柄の面でもかなり好印象だ。
カイトは小さく微笑み、最後の核心的な質問を投げかける。
「ありがとう。安心したよ。じゃあ最後に、世の中に数あるクランの中で、どうしてまだ立ち上がったばかりの俺たちのクランに入ろうと思ったのか、そのきっかけを聞かせてもらえる?」
すると、山本は少しだけ照れくさそうに笑い、しかし今日一番の熱量を込めて語り出した。
「実は……私、昔から『ドラゴン』という存在にものすごい憧れがありまして! それで、結城さんが新職業を公表した時に、竜を従えていて本当に衝撃を受けたんです。もし結城さんのクランに入ることができれば、事務仕事を通じて、いつか夢だった本物のドラゴンと間近で触れ合うチャンスがあるかもしれない……! そう思ったら、もう応募せずにはいられませんでした!」
語尾に全て感嘆符がつくような熱弁に、カイトと九条院は思わず顔を見合わせてクスリと笑ってしまった。動機自体は純粋な憧れだが、その熱意が仕事のモチベーションに繋がるのであれば、これ以上ない強力な原動力だ。
「なるほど、ティロフィのファンってことだね。意外なきっかけだけど、すごく嬉しいよ」
その後も、高校時代のダンジョンアタックでの失敗談や、当時のクランの事務手続きがいかに煩雑だったかなど、一時間ほど和やかに雑談を交わした。山本の人柄の良さと優秀さが十分に伝わったところで、面接は終了となった。
「本日はありがとうございました! 良いお返事をお待ちしております!」
深々と頭を下げ、最後までエネルギーに満ちた様子で部屋を去っていく山本。その背中を見送りながら、カイトと九条院は次の候補者を待つため、手元の資料にペンを走らせるのだった。
『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』
『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』




