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第133話:四十層合同攻略2

 剥き出しの妖精が狂ったように空中を翔け、同時に五メートル級の擬似ガレム数体が地響きを立てて突進してくる。第二形態へと移行した『サンガレムフェアリー』の猛攻により、四十層のフィールドは一瞬にして苛烈な戦場へと変貌した。


「前衛は各自ガレムを抑えろ! 後衛は本体を叩きつつ、飛んでくる魔法を相殺するんだ!」


 龍崎教官の鋭い怒号が飛び、四十五名のレイド部隊は即座に有機的な連動を開始した。

 前衛の近接職たちが散らばり、各個に疑似ガレムへと斬りかかって足止めを狙う。一方で、本体であるサンガレムフェアリーがその腕を大きく振るった。


「――ッ!」


 声にならない叫び声をあげながら、地平を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な炎の壁、『火炎津波』がカイトたちへ向かって押し寄せてくる。さらに、その上空からは無数の『炎球操撃』が不規則な軌道を描いて降り注いだ。


「させないわ! 【氷嵐の渦】!」

「【豪滝の蜘蛛】!!!」


 すかさずカイトと同じ【魔人】のジョブを持つ田中美紀やカイト自身、他の後衛職が一斉にカウンターの魔法を放つ。激しい吹雪と猛烈な激流が炎の津波へと衝突し、周囲に視界を遮るほどの真っ白い水蒸気が爆発的に立ち込めた。


(さすがに、この人数のレイド戦となると派手だな。でもこれならティロフィたちを出す必要はなさそうだな)


 カイトは【眷属の庭園】にて待機しているイストやティロフィのことを考えつつ、手にした『魂吸の杖』から【内包の巨槍】を放ち、的確にボスの迎撃に参加する。

 カイトたちクラスの精鋭、そして他クラスの上位陣による波状攻撃は、確実にボスの体力を削り取っていった。戦いは激化し、数分に及ぶ猛攻の末、フィールドのあちこちで疑似ガレムが次々と砕け散り、ついにボスの体がより赤く染まる――終盤へと突入した。


 その時だった。

 体力を限界まで削られたサンガレムフェアリーが、金切り声を上げてその身を大きくのけぞらせた。その魔力に呼応するように、未だフィールドに残っていた疑似ガレムたちの身体が、不気味に赤黒く発光し始める。


「――っ! ガレムを自爆させる気だ! 全員、一か所に集まれ!」


 カイトの鋭い警告が響き渡る。

 散らばっていた四十二名の生徒たちが、弾かれたように中央へと殺到し、密集陣形を組んだ。




 直後、周囲で次々と巻き起こるガレムたちの連鎖自爆。凄まじい衝撃波と爆炎が襲いかかるが、佐藤をはじめとするタンク職たちが大盾を合わせ、強固な防壁となってこれを完全にシャットアウトする。


 だが、煙の向こう側で、サンガレムフェアリーはすでに次なる、そして『最後の攻撃』の予備動作に入っていた。

 妖精の口元が大きく開き、周囲の熱量がすべてその一点へと収束していく。フィールドの空気が激しく歪み、直視できないほどの超高熱の光が爆発的に膨れ上がっていく。


「来るぞ……極大火炎光線だ!」


 ボスの放つ絶大なる一撃。

 それを視認した瞬間、後衛の魔法職たちの目つきが変わった。


「やらせるもんですか――全員、最大火力で撃ち落とすわよ!!」

「そうだね! 合わせてっ!」


 田中が声を張り上げ、カイトを含むすべての遠距離職が息を合わせる。各々が持つ最大の攻撃魔法が、一寸の乱れもなく同時に解放された。

 カイトの放つ最大出力の【炎極の投射】、田中の【氷嵐の渦】、鈴木の【爆破の手】やその他無数の大魔法が一つに混ざり合い、巨大な魔力の光帯となって、ボスが放った極大火炎ビームへと正面から激突した。


 ―――轟ッ!!!


 四十層の空間そのものが震えるほどの、凄まじいエネルギーの衝突。

 魔法職の総攻撃は、ボスの極大ビームを相殺しようと猛烈に押し込んでいく。しかし、四十五人という人数に合わせて強化された守護者の底力は、流石に凄まじかった。


「くっ……! 殺し切れないか!」


 完全に相殺するには一歩及ばず、光り輝く火炎の奔流が、魔法の壁を突き破ってカイトたちの陣形へと殺到する。


「ここが俺たちの見せ場だろ! タンク職、踏ん張るぞ!」


 全体の最前線に躍り出たのは、佐藤勇馬だった。

 佐藤は【護騎士】のスキル【不屈のオーラ】を全身から滾らせ、その背後にいる他クラスのタンク職たちと肩を並べて大盾をガチリと噛み合わせる。


「【鉄の篭】ッ!! 押し通してみやがれぇぇっ!!」


 佐藤を中心とした一定範囲に、幾重にも重なる強固な魔力障壁が展開される。

 更に松田の【セイクリッド・フォースウォール】やその他の支援職の結界などが全体を覆い隠す。

 後衛の総攻撃によって威力が大幅に減衰したとはいえ、それでもなお致命的な熱線が、結界を超えて佐藤たちの掲げる大盾へと直撃した。




 凄まじい熱量とノックバックの衝撃が佐藤たちを襲う。鎧の表面が焼き焦げ、凄まじい火花が散るが、佐藤は【不動の陣】でその場に足を縫い付け、一歩も引かない。他のタンク職たちも歯を食いしばり、必死に大盾を押し出し続けた。


 そして――ついに、極大の熱線が完全に霧散した。


「今よ!!」


 衝撃が収まった瞬間、間髪入れずに最前線から飛び出した影があった。

【聖騎士】九条院紗夜。

 彼女は佐藤たちが守り切った完璧な一瞬を、決して逃さなかった。すべてを出し尽くし、全身の炎が消えかかって「残り火」しか残っていないサンガレムフェアリーの懐へと、閃光のような踏み込みで肉薄する。


「これで……終わりです! 【聖天斬】――ッ!!」


 一切の不浄を焼き尽くす光の旋風が、九条院の剣から放たれた。気高き白銀の軌跡が、宙に浮く妖精の身体を鮮やかに一閃する。


 ボスは、その光の刃を受け、一瞬だけ動きを止めた。

 次の瞬間、サンガレムフェアリーの身体はガラスが割れるような音を立てて、無数の光の粒子へと破砕され、フィールドの虚空へと消滅していった。


「……ふぅ」


 剣を引き、ゆっくりと残光の中で息を吐く九条院。

 完全に静寂を取り戻した四十層のフィールドに、勝利を確信した生徒たちの歓声が、地鳴りのように響き渡るのだった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』

『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』

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