第132話:四十層合同攻略1
合同攻略当日、正午。
統合ダンジョン三十九階層の最奥、四十層へと続く巨大なゲートの前には、張り詰めた緊張感が満ち満ちていた。
集まったのは、厳しい選別を潜り抜けた学年上位の精鋭四十二名。それに龍崎教官をはじめとする引率教官三名を加えた、総勢四十五名のレイド部隊である。
「これより四十層の守護者部屋へ突入する。各自、事前に組んだ役割を徹底しろ。いくぞ!」
龍崎教官の剛毅な号令を合図に、四十五名の足並みが揃う。全員が吸い込まれるようにして内部へと足を踏み入れた。
視界が開けた先は、見渡す限りに無数の岩石が点在する荒涼としたフィールドだった。数メートルサイズの巨岩が乱雑に転がり、天井には真上に固定された太陽が狂ったようにジリジリと強烈な熱線を放っている。
そのフィールドの中央。
全長二メートルほどの、陽炎のように揺らめく「火で構成された人型の妖精」が浮遊していた。一対の小さな羽を羽ばたかせるそのシルエットは、どこか妖艶な女性のようでもある。
四十層守護者――『サンガレムフェアリー』。
だが、その可憐な姿に惑わされる者などここにはいない。カイトたちが足を踏み入れた瞬間、妖精の双眸が赤く輝いた。
直後、地響きと共に周囲の巨岩が磁石に吸い寄せられるようにして妖精の元へと集い、凄まじい勢いで組み上がっていく。
ガガガガガガガッ!!
攻略人数に比例して膨れ上がるボスの特性により、形成された岩石の巨体は、優に二十メートルを超える超巨大なガレムへと変貌を遂げた。その全身の隙間からは、真っ赤な溶岩のような炎が絶え間なく噴き出している。
「敵が来るぞ! 遠距離職、先制を叩き込めっ!」
前衛の指示が飛ぶと同時、魔法職をはじめとする後衛部隊が一斉に詠唱を完了させた。
色とりどりの大魔法が放たれ、二十メートル級のガレムの巨体へ次々と着弾、激しい爆破の煙が立ち込める。だが、初撃の煙を割って現れた巨像は、一切のダメージを感じさせぬ咆哮を上げ、完全に戦闘態勢へと移行した。
「ガアァァァァァッッッ!!」
ガレムがその巨腕を振るう。纏った炎を爆発させながら、広範囲を薙ぎ払う強烈な一撃が前衛へと襲いかかった。
「全員、俺の後ろへ!! 【ディバイン・シェルター】ッ!」
最前線で盾を掲げた佐藤勇馬が吼えた。【護騎士】レベル50の極大防御スキル。上空に向けて展開された巨大な光の盾の結界が、ガレムの放った広範囲の炎と衝撃波を完全に遮断し、パァンと眩い火花を散らして防ぎ切る。
「びくともしねえよ! 【不動の陣】!」
佐藤はさらに自身の足元を魔力で固定し、ノックバックを無効化。敵の激しい敵対心をその強固な大盾へと一手に引きつける。
「流石ね、佐藤くん! 攻勢に出るわよ! 【風聖破撃】!」
佐藤が作った完璧な隙を見逃さず、九条院紗夜が閃光の如く踏み込んだ。【聖騎士】の剣から放たれた強力な光の風刃がガレムの脚部を猛烈に打擲する。命中した瞬間、ガレムの表面を覆う岩の物理・魔法防御力が激減した。
「畳み掛けろっ!」
九条院の防御デバフに合わせ、近接職の面々が一斉に距離を詰めて武器を叩き込む。岩片が派手に飛び散り、ボスの巨体が削れていく。――だが。
ゴゴゴゴゴ……!
「チッ、またか! 削った傍から再生しやがる!」
近接職の攻撃で削れた岩の体は、一定のサイズまで減少するたびに、周囲のフィールドから新たな岩石を強引に吸収し、瞬時に元の二十メートル級へと回復してしまうのだった。
「前衛、このままヘイトを維持するわよ! 本体の核を狙わないと拉致が明かないわ!」
九条院が指示を飛ばす。その意図を完璧に汲み取っていた後衛陣が、すでに牙を研いでいた。
「鈴木さん、位置取りのサポートを頼む!」
「了解、カイト君! 【影の手】――【手のひら転移】!」
鈴木が影の手を生み出し、一つをカイトの足元へ、もう一つを遮蔽物となる巨岩の影へと繋げる。カイトはその影の手に包まれるようにして、瞬時にガレムの死角へと転移した。
「田中さん、合わせて!」
「えぇ! 火力なら負けないわよ! 【炎極の投射】ッ!!」
同じく魔人の田中が、前方の直線広範囲をすべて焼き尽くす極大の火炎レーザーを照射。激しい熱線が、ガレムの胸の中心を正確に捉える。炎を纏う岩すらドロドロに融解し、その奥に眠るサンガレムフェアリーの「核(本体)」が露わになった。
「【ディメンション・シフト】」
カイトは自衛スキルで自身のヘイトを完全にリセットし、ターゲットから強制的に外れることで、最大の威力を放つための安全を確保。魂吸の杖を天へと掲げる。
「これで、引き剥がす!【複製魔法陣】 【内包の巨槍】――属性『雷』!!」
バリバリと大気を噛み千切る紫電の巨槍が、カイトの手から放たれた。防御デバフの乗った無防備な核へと、雷の槍が狂わぬ精度で突き刺さる。
ドガァァァァァァァァンッッ!!!
激しい落雷の爆音と共に、直撃を受けた核からすさまじい魔力の暴走が巻き起こった。
「キギィィィィィィィアァァァァァッッッ!!」
サンガレムフェアリーの発狂したような悲鳴が響き渡る。
核に強烈な一撃を叩き込まれたボスは発狂状態に陥り、身に纏っていた二十メートル級の岩石の体を、大爆発と共に四方八方へと吹き飛ばした。
「くっ、全員防御姿勢!!」
飛び散る岩の破片と爆風がフィールドを荒れ狂う。
爆煙がゆっくりと晴れていく中、そこに現れたのは、岩の鎧を脱ぎ捨て、より一層激しく燃え盛る火の魔法を周囲に展開した、サンガレムフェアリーの真の姿。
――第二形態への移行だった。
妖精がその細い腕を振るうと、周囲に残された数メートルの岩石たちが怪しく駆動し、約五メートル大の擬似的なガレムが数体、瞬時に作り出されていく。
「ここからが本番だな……!」
カイトは杖を握り直し、迫り来る炎の津波と疑似ガレムの群れを鋭い眼光で見据えた。
『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』
『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』




