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第131話:ミーティング

 龍崎教官が去った後の教室は、蜂の巣をつついたような騒がしさに包まれていた。

 明日からの予定を話し合うためにその場で机を突き合わせてミーティングを始める者、午前中の自由時間を無駄にすまいと早々に荷物をまとめてダンジョンへ潜りに行く者。それぞれのパーティーが慌ただしく動き出す中、カイトのポケットの中で端末が短く震えた。


 画面を点けると、メッセージアプリのクラン用グループチャットに通知が入っている。送り主は九条院だった。


『ホームルームの件もあるし、少しすり合わせをしたいから、いつもの場所に集まってもらえるかしら?』


 カイトは佐藤と顔を見合わせ、小さく頷き合った。荷物を肩にかけ、騒がしい教室を後にする。


 暖かな木漏れ日が差し込むいつもの中庭に足を運ぶと、そこにはすでにクランの設立メンバーとなる面々が揃っていた。九条院を筆頭に、佐藤たち、そして鈴木や田中、大久保たちの姿もある。

 全員が揃ったのを確認すると、九条院が上品に腕を組み、凛とした声で本題を切り出した。


「集まってくれてありがとう。それで、まずはクラン資金の方は集まったかしら? 私たちのパーティーは、目標だった四百万を無事に集めることができたわ」


 クラン設立のための初期費用、そして今後の運営基盤となる資金の供出。提示されていたノルマをあっさりとクリアしてみせるあたり、流石は学年屈指の実力を持つ九条院パーティーだ。

 すると、佐藤が白い歯を見せて快活に笑い、親指を立てた。


「おう、待たせたな! 俺たちのパーティーも四百万、しっかり稼いできたぜ! 最近の周回効率なら、このくらいの額は余裕のよっちゃんだ」


「ふふ、頼もしいわね。――結城くんは、どうかしら?」


 九条院の視線がカイトへと向けられる。カイトは肩をすくめ、事も無げに応じた。


「俺も問題なく出せるよ。しっかりと用意してあるから、そこは安心してほしい」


 二十六階層で天龍をソロ撃破し、日頃から規格外の効率でダンジョンを周回しているカイトにとってみれば、四百万という金額は決して無理な数字ではなかった。

 全員が目標額をクリアしたことを受け、九条院の表情が柔らかいものになる。


「それはよかったわ。ひとまずは安心ね。資金の目処が立ったところで、もう一つ報告があるの。私の方で進めていた、クランの事務員になる方や税務処理をしてくれる方の募集だけど、ちょうど昨日で締め切ってね。書類選考は終わって、だいたい候補は決まりそうよ」


 クランはただダンジョンを攻略するだけでなく、ドロップアイテムの換金や税金、さまざまな事務手続きが発生する組織だ。そのあたりの裏方業務を素早く手配してくれる九条院の有能さには、カイトも内心で深く感謝していた。


 しかし、九条院はそこで言葉を区切ると、カイトの目を真っ直ぐに見つめて続けた。


「それで、最終的には結城くん、あなたに面接をしてほしいのよね」


「……俺に?」


 予想外の言葉に、カイトは少し目を丸くした。事務方の採用であれば、人脈も知識もある九条院に一任した方が確実だと思ったからだ。だが、九条院の意志は固かった。


「ええ。やっぱり、こういったことの最終決定は、クランリーダーであるあなたが重視されるべきだと思うから。組織のトップがどんな人間を求めているか、それが一番大切よ」


「そっか……。そうだね、わかった。スケジュールはいつ頃になりそう?」


「そうね、卒業までもう時間もないし……今週の合同攻略が終わった土日に、少し時間を取ってもらってもいいかしら?」


「うん、問題ないよ。土日ならいつでも合わせられる」


「ありがとう。助かるわ」


 九条院が満足そうに微笑んだその時、少し離れたところで話を聞いていた田中美紀が、不安げな様子で会話に参加してきた。


「クランの話が順調なのは嬉しいんだけど……合同攻略って言えば、今週の金曜日、本当に大丈夫かしらね?」


「ん? 美紀ちゃん、何か不安なことでもあるの?」


 隣にいた鈴木が、田中の顔を覗き込むようにして問いかける。田中は眉をひそめ、かつての苦い記憶を思い出すように周囲を見回した。


「ほら、私たち、三十層で強烈にやばいやつに遭ったじゃない? あの時はカイトが何とかしてくれたから良かったけど、もしまた同じようなイレギュラーが起きたらなって思ったら、ちょっと怖くなっちゃって……」


 合同攻略は多人数で行う分、ボスの強さも引き上げられる。田中の不安は、前衛として戦う者なら至極真っ当な懸念だった。

 そんな田中の様子を見て、鈴木は悪戯っぽく、しかし絶対的な信頼を込めてクスリと笑った。


「ふふっ、大丈夫だよ、きっと。あの時と違って、私たちだってすごく強くなってるし、今ならきっと、またイレギュラーが発生したって問題ないよ! ――それに何より、カイト君もいるしね?」


 そう言って、鈴木は流し目をカイトへと送ってきた。信頼が混ざった視線に苦笑しつつも、カイトはみんなを安心させるように力強く頷いた。


「ああ、鈴木さんの言う通りだと思うよ。少なくとも、ここにいるみんなは複合上級職になってすごく強くなってる。普通に戦えば何の問題もないはずさ。それに――」


 カイトは自慢の二体の顔ぶれを思い浮かべる。


「普通の四十階層だったら、ティロフィやイストを出すのはやりすぎな感じが出るから、今回は基本的に下げさせようと考えていたんだ。でも、いざとなったらちゃんと召喚するから安心して。二人とも、前より更に強くなったしね」


 二十六階層で天龍を倒したときよりも更に強くなっている『天空騎士』と『黒白龍』。その存在は、この学年のどんなパーティーよりも心強い味方だった。カイトの言葉に、実際に二体と対決した一同の表情から目に見えて緊張が解けていく。

 そんな中、大久保がぽつりと小さく呟いた。


「前よりも……。私のスーちゃんも、もっと強くなれるかしら……」


 カイトの使役モンスターたちの爆発的な成長ぶりに刺激されたのか、自身の使役獣に想いを馳せて静かに独白する大久保。その様子を見て、中庭には自然と温かい笑い声が広がった。


 全体の空気が前向きになったのを確認し、九条院がパンと両手を叩いてミーティングを締めくくった。


「じゃあ、とりあえずクラン資金の方も問題ないみたいだし、今日のところは解散にしましょう! 明日からの準備期間、各自最善を尽くしてね。みんな、お疲れ様!」


「おう、お疲れ! カイト、また明日な!」

「お疲れ様でした!」


 各々が元気よく応え、それぞれの準備のために中庭から歩み去っていく。

 去りゆく仲間たちの背中を見送りながら、カイトは金曜日の合同攻略、そしてその先に待つ本格的なクラン始動へ向けて、静かに闘志を燃やすのだった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』

『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』

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― 新着の感想 ―
人生、回り道の方が得られるものが多いと思うの 九条院さんも本来のルートから外れたことで一層輝いてるじゃん 最速で魔王になったところで無味乾燥な日常しか送れないよ、多分? 神様はゲームじゃ得られない体験…
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