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第130話:合同攻略、そして選別

 三月上旬の月曜日。

 凍てつく冬の名残がまだ微かに残る朝の教室は、いつもとは異なる張り詰めた空気に包まれていた。

 朝のホームルームのチャイムが鳴り響くと同時、教壇に立ったのはカイトたちのクラスを受け持つ龍崎教官だった。相変わらずの威圧感を放つ鋭い眼光が、教室に並ぶ生徒たちの顔を無言で見回す。その高圧的とも言える佇まいに、私語を交わしていた生徒たちも瞬時に口を閉ざし、背筋を伸ばした。


「静粛に。これより、今週の金曜日に予定されている『合同攻略』に関して重要なお知らせを行う。全員、一言も聞き漏らさないように耳を傾けろ」


 龍崎教官の太く硬い声が、静まり返った室内に響き渡る。

 合同攻略――それは学年の終わりが近づくこの時期、学校側が主導して行う大規模な共同作戦だ。誰もがその詳細を待ち望んでいたが、龍崎が次に口にした言葉は、残酷なまでの『選別』の事実だった。


「まず、今回の合同攻略の参加基準についてだ。結論から言う。学年全クラスの中でも、現時点で統合ダンジョン『三十九階層』にたどり着いているパーティーのみを対象とする」


 その瞬間、教室のあちこちから、言葉にならない短い息を呑む音が漏れた。

 三十九階層。それは、現在の一般的な生徒たちの平均的な到達度から見れば、明確に一線を画す上位陣の領域だった。


「不満そうな顔をしている奴がいるようだが、これが現実だ。これより先の階層は、実力の足りん有象無象を連れて行ってどうにかなるほど甘くはない。足手まといを引き連れて全滅するような愚を犯すわけにはいかないからな。現在、この条件をクリアし、参加資格を勝ち取っている生徒は学年全体で合計四十二名だ」


 龍崎は淡々と事実の数字を告げていく。


「当日は、俺を含む三人の引率教官が同行する。よって、総勢四十五名での合同攻略となる。……続いて、このクラスにおける該当パーティーを読み上げる。呼ばれた者は起立しろ」


 教官が手元の書類に目を落とし、厳しい声で名前を呼んでいく。


「結城。佐藤パーティー。九条院パーティー。寺田パーティー。染田パーティー。――以上だ」


 名前を呼ばれた生徒――結城カイトは、周囲の視線を感じながら静かに席を立った。

 続いて、佐藤、九条院、寺田、染田といった、このクラス内でも頭一つ抜けた実力を持つ面々が率いるパーティーが次々と起立していく。各パーティーのメンバーも含め、この教室から選ばれたのは合計で十八名。クラスの約半数に近い人数が、三十九階層という高いハードルを越えていたことになる。これは他のクラスに比べても、非常に優秀な比率と言えた。


「よし、着席しろ」


 龍崎の指示でカイトたちが席に戻ると、教室には重苦しい沈黙が残された。

 選ばれた十八名の顔には、引き締まった緊張感と誇りが浮かんでいる。一方で、名前を呼ばれなかった残りの生徒たちは、悔しさに唇を噛む者、あるいは諦めに似た溜息を吐く者など、明らかな明暗が分かれていた。

 龍崎はその様子を意に介さず、言葉を続ける。


「今名前を呼ばれなかった残りの生徒は、残念ながら今回の合同攻略に参加する資格はない。これ以降のダンジョンアタックは、今まで通りそれぞれのパーティー単独での行動となる。また、お前たちの卒業時の公式記録は、卒業する段階での最高到達階層がそのまま記載される。将来の進路に直結する数字だ。その重みを忘れるな」


 突きつけられる現実の重さに、参加資格を得られなかった生徒たちの肩がさらに落とされる。しかし、これが実力至上主義であるこの学校の、そしてダンジョンに挑む冒険者としての絶対的なルールだった。


 ひと呼吸置き、龍崎は少しトーンを変えて、教壇の端に手を突いた。


「最後に、業務連絡だ。先週の時点で全員が知っているとは思うが、学校で行う座学の授業はすべて終了している。よって、今日からのスケジュールは大幅に変更される」


 龍崎の視線が、再びカイトたち参加組の十八名へと向けられた。


「合同攻略に参加する資格のあるパーティーは、本日からの午前中の時間もすべて自由に使って構わない。金曜日の本番までに、装備の新調、スキルの調整、パーティー間の連携確認など、できる限りの準備を完璧に整えておけ。いいか、生半可な気持ちで挑めば命はないと思え」


 それから、龍崎は残りの生徒たちへと視線を戻す。


「そして、参加しないパーティー。お前たちものんびりしている暇などない。午前も午後も、使える時間はすべてダンジョンへ注ぎ込め。少しでも上の階層へ、自身の最高到達階層を一つでも更新できるように、死に物狂いで励め。座学がないということは、それだけ剣を振り、魔法を練る時間があるということだ。以上だ」


 有無を言わせぬ教官の檄が飛び、ホームルームは締めくくられた。

 教壇を降りて教室を去っていく龍崎の背中を見送りながら、カイトは静かに思考を巡らせる。


(今週の金曜日、統合ダンジョン三十九階層からの合同攻略、か……)


 カイト自身の現在のジョブレベルは『41』。そして、使役モンスターであるイストは圧倒的な機動力を誇る『天空騎士』へ、ティロフィは攻守援護万能の『黒白龍』へと、それぞれ劇的な進化を遂げたばかりだ。

 正直なところ、カイト個人の戦力だけで言えば、学年の合同攻略という枠組みすらも疾うに生温いと感じる領域に達している。しかし、集団戦における他パーティーとの兼ね合いや、引率の教官たちの動きなど、確認しておくべき要素は少なくない。

 更に、合同攻略で人数が増えれば増えるだけ、ボスの強さも段階的に上昇する。


「カイト、今週金曜、いよいよだな」


 隣の席から声をかけてきた佐藤の表情には、武者震いのような高揚感が滲んでいた。


「うん、全力を尽くそう。そのために、金曜までの数日間、やれることは全部やっておくさ」


 カイトは小さく微笑み、応じた。

 座学が終わり、すべての時間がダンジョン攻略へと集約される激動の一週間。金曜日の合同攻略に向けて、カイトたちの「準備」の時間が幕を開けた。


『現在のジョブ:魔人(Lv.41)』

『使役モンスター:イスト(Lv.7・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』

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― 新着の感想 ―
現在三十八階層終盤だと、卒業までに四十階層に挑んだりするのかな、足切り組。
【第129話:合同攻略、そして選別 → 第130話:合同攻略、そして選別】
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