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第129話:天を駆ける騎士

 天龍の巨体が光の粒子となって完全に消滅した広場に、心地よい風が吹き抜けていく。

 カイトはゆっくりと『魂吸の杖』を下ろすと、隣に立つ白銀の騎士へと視線を向けた。


「お疲れ様、イスト。これでついに、お前の進化条件が満たされたな」

「はっ……! ひとえに、主の的確な戦術とティロフィの助力のおかげにございます」


 イストはカチャリと鎧を鳴らして一礼する。その兜の奥の炎は、静かな興奮を宿すように激しく揺らめいていた。

 カイトは微笑みながらカンストであるレベル70に到達し、さらに天の名を冠する者を撃破という固有条件をクリアしたイストに命じる。


「よし、イスト。進化だ」

「――御意!」


 イストの力強い返答と同時に、カイトが選択を確定させる。

 刹那、二十六階層の薄暗い大気を一瞬で塗り替えるほどの、圧倒的な黄金の光がイストの身体から爆発的に溢れ出した。


「グルォ……!」


 ティロフィが驚いたように二対四枚の翼を小さく羽ばたかせ、カイトもまた、その神聖な輝きに目を細める。数秒間、その場を支配した黄金の光の塊は、イストの全身の魔力を再構築するように激しく脈打っていた。

 そして、光が収束へと向かうその瞬間のことだった。

 イストの背中、その僧帽筋のあたりから、バサリと力強い音を立てて、光で形成された「大きな翼」が一対、天に向かって突き抜けるように生え変わったのだ。


 まばゆい光が完全に収まり、そこに佇んでいたのは、これまでの『銀騎士』を遥かに超越した気高き姿だった。


「これが……イストの、新しい姿か……!」


 カイトは感嘆の声を漏らし、まじまじとその姿を見つめた。

 全身を包む白銀の鎧はより一層強固に、そして洗練された流線型へと変化し、周囲の光を反射してギラギラと眩い輝きを放っている。細部に施された装飾はこれまでの金色に加え、気高い深紅の意匠が組み込まれており、息を呑むほど豪華絢爛だ。

 そして何より目を引くのは、その背に羽ばたく大翼。まるでこの階層の澄んだ空を切り取ったかのような、鮮やかな「青空色」をした魔力の翼――【天空騎士】の誕生だった。


「主……私は、ついに……」


 イストは自身の籠手を見つめ、それから背の蒼翼を数度羽ばたかせた。それだけで彼女の身体はふわりと宙に浮き上がる。三次元の自由を得た騎士は、兜の奥の炎を歓喜に染め上げた。


「素晴らしい力です……! これまで以上に主の盾となり、矛となることができる。さらに、空を飛べるようになったことで、同じく飛行できるティロフィとの空中連携も劇的に取りやすくなります!」

「グルゥ、グルルゥ!」


 ティロフィもまた、同じ高さにまで浮き上がったイストを歓迎するように、嬉しそうに喉を鳴らした。

 地上から見上げるカイトは、頼もしすぎる前衛たちの姿に大満足の笑みを浮かべる。


「最高だ。これで二人とも進化完了だな。よし、イストの新スキルを確認しておくか」


 カイトは更新されたイストのステータス画面に目を向けた。



【スキル:天制の蒼翼】

 効果:自由自在な空中機動を実現する、魔力で出来た一対の翼を顕現させる。


【スキル:天魔斬】

 効果:天空から地上にまで届く、絶大な威力を誇る魔力の飛び斬撃を放つ。


「空中での【瞬動】に加えて、上空からの【天魔斬】か……。これ、近接職の枠を超えた三次元高速戦闘ができるな」


 カイトはスキルの性能を脳内でシミュレートし、その破格の汎用性に舌を巻いた。

 今までは地上でどっしりと構える堅実な盾だったイストが、これからはティロフィと共に空を駆け巡り、死角から超高速の一撃を叩き込むアタッカーとしての役割も完璧にこなせるようになったのだ。戦術の幅はこれまでの何倍にも広がる。


「よし。目的はすべて達成した。流石に今日は戦い通しで魔力も精神も使ったし、一回家に帰って休むとしよう」

「はっ。主の仰る通りに」

「グルゥ!」


 カイトの提案に、二体は素直に同意した。

 進化したばかりの二体の最高戦力を従え、カイトは満足感を胸に、帰路へ着く。

 カイトたちの力は確実に、世界の常識を置き去りにする領域へと到達しつつあった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.39)』

『使役モンスター:イスト(Lv.1・天空騎士)、ティロフィ(Lv.3・黒白龍)』

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