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第126話:龍

二十五階層のボス部屋に、かつての激闘の余韻を残すようにかすかな土煙が漂っていた。

カイトはその中央で、手に入れたばかりの二つの至宝を両の手に掲げていた。

左手には、深淵の闇を切り取ったかのような、吸い込まれそうな漆黒を宿す【暗黒竜の宝玉】。

右手には、星の瞬きのごとき神聖な魔力光を放ち続ける、純白の【光輝竜の宝玉】。

これら二つのアイテムこそが、愛竜ティロフィがさらなる高みへと昇るための鍵だった。


「よし、ティロフィ。それじゃあいよいよ進化だ」

「グルルゥ……!」


カイトの言葉に応じるように、ティロフィがその巨体を震わせ、期待に満ちた声を漏らす。

対象にティロフィを指定し、二つの宝玉を使用する。


『条件が満たされました。使役獣【黒白竜】の進化を開始します――』


システムアナウンスが響いた直後、カイトの手の中から二つの宝玉がふわりと浮き上がった。黒と白、相反する属性の光が空中で絡み合い、螺旋を描きながらティロフィの身体へと吸い込まれていく。

刹那、視界を焼き尽くすほどの、圧倒的な黄金の光が炸裂した。


「おお……っ!?」


あまりの眩しさに、カイトは思わず腕で顔を覆う。隣に控えていたイストもまた、白銀の兜の奥にある炎を揺らめかせ、主の眷属が迎える進化の瞬間を厳かに見守っていた。

ティロフィを包み込む黄金の光の塊は、内部から溢れ出す爆発的な魔力によって、見る見るうちにその質量を大きく、巨大に膨らませていく。フィールドの頑強な岩肌が、放たれるプレッシャーだけでピキピキと悲鳴を上げて震えていた。


そして――光の膨張が限界に達した瞬間、それはガラスが割れるような美しい音と共に弾け飛んだ。


光の残滓が静かに収まったそこに佇んでいたのは、圧倒的な神威を放つ、真の「龍」の姿だった。


「これが……黒白、龍……!」


カイトは感嘆の息を漏らし、その姿を凝視した。

体長はこれまでの五メートルから、一回りは巨大な七メートルほどへと成長している。しかし、決して鈍重さは感じさせない。むしろ、限界まで引き締まった流線型のフォルムは、洗練された美しさを醸し出していた。

最も大きな変化は、その背中だった。これまでの一対の翼から、天を突くようにそびえ立つ『二対四枚』の翼へと増殖している。現在は『黒』の形態であるため、周囲の光すらも吸い込むような、鉄よりも硬質な漆黒の鱗が全身を隙なく覆っていた。


「グルォォォォォォォォ!!!!!」


ティロフィが長く、高らかな咆哮を上げた。二十五階層の空間全体が激しく振動する。二対四枚の翼が力強く羽ばたかされると、それだけで突風が巻き起こり、カイトの衣服を激しく揺らした。その機動力、そして身体に宿る魔力量は、進化前とは文字通り桁が違っていた。


「格好良すぎるだろ……。よし、ステータスとスキルを確認するか」


カイトは胸を高鳴らせながら、新しく更新されたティロフィのステータス画面を呼び出した。そこには、新しく獲得した四つの強力なスキルの詳細が並んでいた。


【スキル:龍の加護】(白形態専用)

効果:指定した対象の全能力値を大上昇させる。


【スキル:白龍の誇り】(白形態専用)

効果:自身が他者に与えるバフ効果を、全て自身にも適用する。


【スキル:龍の怒り】(黒形態専用)

効果:爪や牙、翼に魔力を纏わせ、全攻撃の威力を増大させる。


【スキル:黒龍の誇り】(黒形態専用)

効果:敵対する対象が多ければ多いほど、自身の全能力値が上昇する。


「黒白竜のころの戦い方をベースに、さらに強化され純粋に強くなったな……!」


カイトはスキルの詳細を読み込み、その破格の性能に口元を綻ばせた。

アタッカーとしての『黒』形態では、自身の攻撃威力を全般的に底上げする【龍の怒り】に加え、敵の数が多ければ多いほど能力が跳ね上がる【黒龍の誇り】を得た。これにより、ダンジョン内での乱戦や、敵の軍勢に囲まれた際の殲滅力が飛躍的に向上している。

一方で、支援・回復に特化した『白』形態では、味方単体のスペックを劇的に引き上げる【龍の加護】が強力なのはもちろん、真に恐ろしいのは【白龍の誇り】だった。カイトに強力なバフを付与すれば、まったく同じ大上昇の効果がティロフィ自身にも乗る。つまり、支援をバラ撒きながら、ティロフィ自身も最強格のバッファー兼タンクとして前線に居座り続けることができるのだ。


「これなら、黒と白を状況に応じて入れ替えるだけで、どんな戦況にも完璧に対応できるな。最高だ、ティロフィ」

「グルゥ、グルルゥ」


ティロフィは巨体に似合わぬ愛嬌で、嬉しそうにカイトの頬へと大きな鼻先を寄せてすり寄ってきた。硬質な鱗の感触が心地よい。カイトはその逞しい首筋を何度も撫でてやり、相棒の進化を祝福した。


「一段と力強き姿、実に頼もしい限りです」


イストが直剣を納め、白銀の鎧をカチャリと鳴らして恭しく一礼する。


「ああ、ありがとう。ティロフィがこれだけ強くなってくれたんだ。次は、お前の番だからな、イスト」

「はっ。主の期待に応えてみせましょう」


カイトの言葉に、イストは兜の奥の視線を一段と引き締めた。イストが次の段階へと進化するための条件は、この先――二十六階層に出てくる『天龍』の撃破だ。


「よし、それじゃあ行こうか。二人とも、次の階層へ進むぞ」


カイトを先頭に、漆黒の四枚翼を気高く揺らすティロフィ、そして静かに従う白銀の騎士イストが並び立つ。

三人は迷いのない足取りで、二十六階層へと続くゲートに向かって、ゆっくりと歩き出した。


『現在のジョブ:魔人(Lv.38)』

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