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第123話:物欲センサーとの戦い3

カイトは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の伯爵を除かなければならぬと決意した。

カイトには確率がわからぬ。カイトは、ただの冒険者である。魔法を放ち、使役獣(友人)と遊んで暮らしてきた。けれども、物欲センサーという名の邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。





――そして、季節は二月になった。

いまだにカイトが引き籠もり続けているのは、相変わらず都内の単独ダンジョン【悪魔蔓延る城】であった。


来る日も来る日も周回を重ね、ボスをハメ殺し、大きな魔石ばかりが虚しく床へ転がる日々。二ヶ月以上の成果として宝物庫に溜まった魔石の山は、もはや尋常ではない質量に達している。もしも市場に目当ての武器が売りに出されていたとしたら、その場で即決、お釣り付きで買い叩けるほどの莫大な資金が、ドロップした魔石という形で余裕で賄えるほどになっていた。


ありとあらゆるオカルト検証を試し尽くし、そのすべてにおいて無慈悲な大爆死を遂げたカイトは、最終的に「無駄なことはせず、最高効率で回す」という原点にして究極の結論に辿り着いていた。


道中の敵は【ハイド】と【短距離テレポート】を駆使してすべて無視。

ボス戦に突入した瞬間に【複製魔法陣】を展開し、時間差の【豪滝の蜘蛛】と【内包の巨槍】、そして【短距離テレポート】からのゼロ距離【炎極の投射】を叩き込む。

無駄を極限まで削ぎ落とした開幕の固定コンボの精度は日を追うごとに増していき、もはや悪魔の伯爵との戦闘時間は、詠唱時間を含めても一分を余裕で切ろうかという領域に達していた。


(……完全にこれ、タイムアタックだな)


そんな、もはや作業と化した周回生活にも、ついに終わりの時が訪れる。


その日の昼間、カイトは佐藤たちと昼休みに、賑やかな時間を過ごしていた。中庭のベンチで、相変わらず目当ての武器が全くドロップしないこと、コートばかりが四着も被ってクランの九条院さんのパーティーに配れそうなことなどを、熱弁を振るって愚痴り倒した。友人たちに「まあまあ、物欲センサーってやつだよ」と苦笑交じりに慰められ、少しだけすっきりした精神状態で、カイトは再び午後から城へと潜ったのだ。


いつものように、慣れた手付きでサクサクと隠密で最上階へ。

とりあえず今日の一週目だ、と軽い気持ちで玉座の間に躍り出て、哀れな悪魔の伯爵を一分未満で消し飛ばした。


激しい水の音が止み、漆黒の悪魔がパラパラと光の粒子に変わっていく。

いつも通り、大きな紫色の石ころが転がるのを待っていた、その直後。


ぽとっ、と重みのある、しかし見覚えのないシルエットの物体が床にドロップした。


それは、どこか細長く、全体が漆黒の木調でできており、先端に神秘的な輝きを放つ紺青の宝石が埋め込まれた――全長百五十センチメートルほどの、紛れもない『杖』の形状をしていた。


「……え?」


カイトの口から、間の抜けた声が漏れた。

その場に、彫刻のように完全にフリーズする。


「…………え?」


あれだけ狂気的なジンクスを試し、時間を秒単位で計り、繊細なプレイをして全力を尽くした時には頑なに落ちなかった、もはや幻の武器。それが、昼間に友達と愚痴り合い、「とりあえず一回目」と何気なく流した日常の、一番最初のドロップであっさりと目の前に転がっている。


あまりの理不尽さと突然の出来事に、脳の処理が追いつかない。嬉しいという感情よりも先に、強烈な困惑と狐につままれたような感覚が押し寄せてきた。


だが、数秒の静寂の後、カイトの脳が、段々と目の前の現実を事実として理解し始める。


(紺青の宝石が埋め込まれた漆黒の杖……悪魔伯爵からの超低確率レアドロップ……魔法の性能を数段高めるアーティファクト……)


間違いない。ずっと、ずっと二ヶ月以上もの間、喉から手が出るほど求めていた武器――【魂吸の杖】だ。


カイトは震える手で、床からその美しい杖を拾い上げた。

杖が掌に触れた瞬間、ひんやりとしつつ硬い感触を感じる。


この杖を媒体にして魔法を使用すれば、その消費した魔力量に比例して、使用者の魔法の威力が一時的に上昇していくという特殊効果を持つ。上限こそあるものの、その最大補正値は凄まじく、初級職の簡単な魔法を使い続けているだけでも、最終的には中級職後半レベルの魔法と遜色ない威力にまで無理やり引き上げることができる、まさに『魔人』のためのぶっ壊れ武器。


現時点でイストとティロフィを次の段階へ上限突破させるために必要な、最初の絶対条件。

それが今、確かにカイトの手に収まっていた。


じわじわと脳を焼くような歓喜が全身の細胞を駆け巡り、カイトは翡翠の杖を宝物庫へしまって、魂吸の杖を天高く突き上げた。


「……い、いよっしゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


玉座の間全体を激しく震わせるような、カイトの今世史上最大の雄たけびが炸裂した。

それは、二ヶ月強に及ぶ過酷な孤独の戦いに終止符が打たれた瞬間であり、ついにカイトが、邪智暴虐なる確率の壁――物欲センサーに完全勝利を収めた証であった。


「出たぞコンチクショウ! 見たか物欲センサー! 俺の勝ちだ!!あはははは!!!」


誰もいないボス部屋で、カイトは手に入れたばかりの漆黒の杖を何度も眺め、満面の笑みを浮かべた。これでようやく、長かった悪魔の城での周回生活も完全クリアだ。レベルも『38』まで上がっており、魔人としての基礎スペックも申し分ないところまで引き上がっている。


「待たせたな、イスト、ティロフィ。……よし、次は『竜の巣』の二十五階層だ!」


手に入れた最高の武器を強く握り締め、次なる進化の試練へ向けて、ついに長年籠もった城から意気揚々と抜け出すのだった。


『現在のジョブ:魔人(Lv.38)』

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― 新着の感想 ―
まだ終わりではないあらゆる空間あらゆる次元あらゆる世界にヤツは存在している。
たぶんまだ勝ててない、、、奴らはいつでもヤッテクル
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