第122話:物欲センサーとの戦い2
まだまだ終わらない検証。
カイトが次に手を出したのは……。
検証3:城の門の前で、二礼二拍手一礼してから、通路の端を歩くように移動する
「……いや、もう何でもいいからやろ。前世の日本のゲームで、特定の神社に見立てたオブジェクトの前で参拝の所作をしてから、神道の『神の通り道である中央を避ける』というルールに従って通路の端を歩いてボスへ向かうと、神罰を免れて物欲が叶うっていう、もはやゲームのプログラムと何の関係もないジンクスだけど」
カイトは【悪魔蔓延る城】の、禍々しい正面鉄門の前に直立していた。
漂う空気は完全に邪悪な悪魔のそれである。にもかかわらず、カイトは真剣な面持ちで姿勢を正すと、深い【二礼】を捧げた。
続いて、静まり返ったダンジョンの外周に、パパンッ、と澄んだ【二拍手】の音を響かせる。最後に、もう一度深い【一礼】。
「……俺は一体、どこにお参りに来てんだ……」
あまりのシュールさに、自分で自分に強烈なツッコミを入れそうになるのを必死で堪え、カイトは通路の「右端のギリギリ」に身体を寄せた。そこから、絶対に中央を踏まないように、まるで高級旅館の廊下を歩く給仕のようなステップで、端から端へと移動していく。
道中の魔物を端っこから狙い撃ちにして処理しつつ、参道を歩く巡礼者のような敬虔な(?)態度で最上階へ。
悪魔の伯爵も、どこか哀れみの目をカイトに向けてきたような気がしたが、容赦なく極悪コンボで圧殺。
パァァァ……と、これまでとは違う、一際強い光の粒子が弾けた。
床にドロップしたアイテムのシルエットを見て、カイトは「キタッ!!」と目を見開く。転がっていたのは、魔石ではない。布地のような、豪華な装備品の質感――。
結果:悪魔伯爵のコート、大きな魔石一個
「こっちじゃねぇんだよぉぉぉぉ!!! なんでだよ!!!」
カイトは床にへたり込み、落ちた漆黒の衣服を掴んで叫んだ。
【悪魔伯爵のコート】。悪魔の伯爵が身に纏っていたような、漆黒の生地に銀糸と金糸で非常に美しい刺繍が施された、豪華絢爛なロングコートだ。
性能自体は凄まじい。着用者の体型に合わせてサイズが自動的に変更される魔法仕様であり、魔力を少し注ぐだけで、戦闘で破れた傷も自動修復される機能付き。さらに防刃、耐魔の性質を高いレベルで併せ持っており、もしこれをギルドのオークションや買取に持ち込めば、一発で『七桁後半』は確実に値が張る超一級品のレアドロップである。
普通なら、狂喜乱舞して万歳三唱するレベルの大当たりなのだが――。
「こっちのコートもレア泥だけどさぁ!! こっちはもう、この二ヶ月で三着もドロップしてんだよ!!! これで四着目だよコンチクショウ!!! 九条院さんのパーティー全員に配れちゃうレベルで余ってんだよぉ!!!」
物欲センサーの嫌がらせは極まっていた。いらない方の超レアは引くのに、本命の『杖』だけが頑なに拒絶されている。四着目のコートを雑に宝物庫へ放り込み、カイトはハァハァと荒い息を吐いた。
「次だ……次が本当の最後だ……!!」
検証4:午前7時06分丁度にボスを倒す
「時間を6時と分で分けると6時66分、これが最もロジカル(笑)なオカルト……。やる価値は……ある……!」
この検証のために、カイトはわざわざ学校やクランのための会議がない「完全な休日」を選び、まだ外も暗い深夜からダンジョンへと潜入した。
三階までの道のりを迅速に片付け、午前六時五十五分には最上階の玉座の間に待機。
襲い掛かってくる悪魔の伯爵を、今回は一気に倒さず、手加減しながらじわじわと甚振るように攻撃し、残りHPを「あと魔法一発で確実に死ぬ」という極限の瀕死状態にまで追い込んだ。
麻痺と水圧で身動きの取れないボスを前に、カイトは翡翠の杖を突きつけたまま、左腕の腕時計の文字盤をじっと凝視する。
午前7時03分……。
午前7時04分……。
ボスの、憎悪の視線と共に魔法で抵抗してくるが、カイトはそれを一蹴。秒針の動きだけに全神経を集中させる。
午前7時05分45秒……50秒……55秒……。
カイトの脳内で、正確なカウントダウンが刻まれる。
3、2、1――。
「午前7時06分丁度……死ねぇぇぇ!!」
ズドンッ! と、【内包の巨槍】が伯爵の脳門を貫いた。完璧なタイミング。1秒の狂いもない、ジャスト午前7時06分00秒のトドメ。
悪魔の伯爵は、今度こそ怨念の粒子となって消え去り――。
カイトの視線の先、床の上に、ポツンと残されたのは。
結果:大きな魔石一個
静寂が、玉座の間を包み込んだ。
ダンジョンの月明かりが、城のステンドグラスを通して、虚しくカイトの顔を照らしている。
早起きして、時間を秒単位で計って、ボスをミリ残ししてまで得た報酬が、いつもの見慣れた紫色の石ころ。
カイトの限界を迎えた精神の糸が、音を立ててブチ切れた。
「……ああああああっぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 出せよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 一本でいいから『魂吸の杖』を俺に寄こせよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
単独ダンジョンの最上階に、一人の少年の、魂の底からの絶叫と、物欲センサーへの呪詛の言葉が、いつまでも、いつまでも木霊するのだった。
『現在のジョブ:魔人(Lv.37)』




