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第121話:物欲センサーとの戦い1

神様というものが本当にいるのだとしたら、胸ぐらを掴んで小一時間問い詰めたい気分だった。


カイトが単独ダンジョン【悪魔蔓延る城】に籠もり、最上階のボス『悪魔の伯爵』を屠る極悪コンボの周回を始めてから、早いもので二ヶ月の月日が流れていた。季節は巡り、暦の上では一月の終わりも近づこうかという、寒さの厳しい時期になっている。


その二ヶ月間、カイトが何をしていたかと言えば――ただひたすらに、あの黒い悪魔の伯爵を、蜘蛛で水浸しにし、雷で痺れさせ、背後から火炎レーザーで焼き尽くすというルーティンを、それこそ機械のように繰り返す毎日だった。

だが。それだけ血の滲むような、そして悪魔にとっては悪夢のような周回を重ねたというのに。


目当ての固有武器【魂吸の杖】は……未だに、ただの一つたりともドロップしていなかった。


「いくら何でもドロップしなさ過ぎだろ!! いい加減にしろよマジで!!」


誰もいないボス部屋の玉座の前で、カイトは大きな魔石を『宝物庫』へと放り込みながら、頭を抱えて絶叫した。

もう何十回、いや、通算で見れば百回以上このボスを消し飛ばしたか分からない。ボス部屋から入り口へテレポートし、リポップさせてはまた最上階へ駆け上がるという一連の作業は、すでに流れ作業の域に達している。


あまりにも周回しすぎて道中の移動や戦闘にも完全に慣れてしまい、暇を持て余した結果、道中でピンチに陥っていた他のアマチュア冒険者パーティーを「魔人のスキルの検証」と称して何度か助けたりもした。そのせいで、

『あの、もしかしてアマ大会の優勝者の結城さんですか!?』

『いやぁ助かりました! 今度ギルドの酒場で一杯奢らせてください!』

などと声をかけられるようになり、当初の目的はどこへやら、気付けばこのダンジョン界隈での顔見知りや知人が妙に増えてしまうという、予想外の副産物まで付いてくる始末だった。


「違うんだよ……俺は友達を作りたくてこの城に引き籠もってるんじゃねぇんだ……。杖が欲しいだけなんだよ……!……友達はうれしいけどさ」


ボス部屋で一人寂しく嘆くカイト。だが、出ないものは出ない。

前世のゲーム時代から、この手のレアアイテムのドロップ率が『激渋』であることは身に染みて理解していた。物欲センサーという名の見えない壁は、現実のダンジョンになってもカイトの前に立ち塞がっている。


出ないのなら、出るまでやる。それがゲーマーの本質だ。

だが、ただ普通に倒し続けるのにも精神的な限界がある。そこでカイトは、前世のネットコミュニティやオカルト検証スレッドでまことしやかに囁かれていた、いくつかの『ジンクス』を試してみることにした。

曰く、特定の条件を満たしてボスを倒すと、システム上の乱数が偏ってドロップが出やすくなるとか……やっぱりただのオカルトだから出ないとか……。


「藁にもすがる思いってのは、今の俺のためにある言葉だな。……よし、片っ端から試してやる」


カイトの、不毛にして涙ぐましいオカルト検証が幕を開けた。


検証1:一体も道中の敵を倒さずにやり過ごし、ボスだけ倒す

「『不殺の迅速攻略』ってやつだな。システムに『こいつは道中の雑魚に目もくれず、ボスだけを狙う強者だ』と誤認させることで、ドロップの質が上がるという都市伝説だが……」


カイトはダンジョンの入り口に立つと、小さく息を吐いた。

今回は一階のインプも、二階の絵画の悪魔も、三階のプロ大苦戦の上級悪魔騎士も、すべて無視しなければならない。普通の前衛職であれば敵に囲まれて一瞬で圧殺される狂気の縛りプレイだが、今のカイトには【暗殺者】の特性を併せ持つ複合上級職『魔人』の隠密能力がある。


「気配を完全に断って、隠れてやり過ごしていくぞ。……マジで隠密ができる魔人で良かったわ」


カイトは【ハイド】を使用し、魔力で自身の体を隠すと、通路の影から影へと音もなく移動を開始した。

すぐ目の前を、不気味に蠢く欠損ゾンビや、鋭い視線を巡らせる中級悪魔騎士が通り過ぎていく。心臓の鼓動を制御し、壁に張り付くようにして敵の視線を誘導し、時には索敵の隙を突いて【短距離テレポート】で一気に距離を離す。


一度も戦闘状態に突入することなく、驚異的なステルス技術で最上階の玉座の間へと到達。

そのまま、待ち構えていた悪魔の伯爵を、いつもの一人挟撃の極悪コンボで一気呵成に消し飛ばした。


光の粒子が舞い散る。床に残されたのは――。


「魔石一個……」


カイトは虚無の表情でその魔石を見つめた。

「くそが。知ってたよ、そんな都合のいいことなんてないってな!」


検証2:全種類の魔物を6体ずつ倒した後、ボスを撃破

「次は『シックス・カウント・キル』だ。ダンジョン内に存在する一般エネミーを、過不足なく特定の不吉な数字――『六』に合わせて間引き、その生贄の儀式の果てにボスを倒すことでレア泥率が跳ね上がるというオカルトだが……」


言うのは簡単だが、実行するのは地獄だった。

カイトは翡翠の杖を手に、外周のマミーから数え始めた。

「マミー、これで六体。次、欠損ゾンビ……四、五、六。よし、城内に入るぞ」


一階へ進むが、ここからの難易度が跳ね上がる。

「インプ一、二、三……ああっ、クソ! 範囲が広すぎて隣のインプまで巻き込んだ! 今ので八体目になっちまっただろ!!」


群れが大きく、宙を飛び回るインプは、ことさら数調整が面倒だった。一度でも数を間違えれば、一度攻略しきり、入り口に戻ってリポップさせ、最初からやり直しになる。カイトはストレスで頭を掻きむしりながら、単体攻撃の魔法を精密にコントロールし、インプ六体、低級悪魔騎士六体、二階の絵画の悪魔六体、中級悪魔騎士六体、三階の嘆願の悪魔六体、上級悪魔騎士六体――。

完璧にすべての魔物を「六体ずつ」屠るという、狂気的な几帳面さで玉座の間へと辿り着いた。


精神的にボロボロになりながらも、怨念を込めた【炎極の投射】で悪魔の伯爵を消滅させる。


床に転がったのは――。


結果:大きな魔石一個


「これもダメかっ……!! 俺のあの繊細な努力を返しやがれ!!」


ボス部屋に悲痛な声が木霊する。

カイトの苦難はどこまで続くのか。



『現在のジョブ:魔人(Lv.36)』



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