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第119話:中級上級の悪魔たち

一階のインプや低級悪魔騎士の群れを問題なく撃破したカイトは、不気味な彫刻が施された巨大な螺旋階段を上り、二階へと足を踏み入れた。


二階のエリアは、一階よりもさらに暗さと冷気が増していた。長く続く廊下の壁面には何枚もの古びた肖像画や風景画が飾られており、そのどれもが禍々しい魔力を放っている。

カイトが警戒しつつ廊下を進むと、突如として壁に掛けられていた巨大な額縁がガタガタと激しく震え出した。そのまま壁を離れて宙に浮かび上がったのは、二メートルほどの大きさを誇る【絵画の悪魔】だ。キャンバスの中央には、ぎょろぎょろと不気味に蠢く巨大な単眼が埋め込まれており、侵入者であるカイトを憎悪に満ちた視線で見つめている。

さらに、その絵画を守るようにして、通路の奥からキチキチと重厚な音を立てて【中級悪魔騎士】が姿を現した。一階のボロボロな低級悪魔騎士とは異なり、凹みのない標準的な甲冑をしっかりと身に纏い、その手には魔力を帯びた鋭い長剣が握られている。


「ギシッ……!」


中級悪魔騎士はカイトの姿を捉えるや否や、シールドを構えながら手堅いステップで距離を詰めてきた。むやみに突っ込んでくる野生の魔物とは違い、こちらの隙を窺いながら確実に間合いを潰してくる、実に戦い慣れた動きだ。

それと同時に、後方に浮遊する絵画の悪魔が、その中心にある大目を開いた。ドロリとした不気味な極彩色の絵の具のような物質が、何発もカイトに向けて高速で撃ち出される。前世のゲーム知識によれば、あの物質は強力な酸と呪いの複合体であり、掠めるだけでも肉体を激しく焼きただれさせる危険な攻撃だ。


だが、カイトは動じない。手にした翡翠の杖を軽く一振りし、迫り来る絵の具の弾道を見極める。


「【内包の巨槍】――『風』」


カイトの周囲に暴風が吹き荒れ、瞬時に巨大な緑の槍が形成される。放たれた風の巨槍は、飛来する絵の具の物質をその猛烈な回転の風で弾き飛ばしながら、真っ直ぐに突進してきた中級悪魔騎士へと激突した。

騎士は盾を掲げて防戦の構えを取ったが、魔人の強力な魔法攻撃力補正が乗った一撃は、その強固な防御ごと騎士の肉体を廊下の壁へと叩きつけた。


ドォォン! と激しい衝撃音が響き、中級悪魔騎士の身体が光の粒子となって霧散する。

手堅い行動でこちらの出方を窺ってこようと、それを上回る火力で押し潰せば関係ない。残された絵画の悪魔が驚愕に単眼を見開くが、カイトはすでに次の一手を放っていた。


「【内包の巨槍】――『炎』」


間髪入れずに放たれた灼熱の炎槍が、宙に浮く不気味なキャンバスを正確に貫く。絵画の悪魔は悲鳴を上げる間もなく、激しい炎に包まれて一瞬で灰へと変わった。


(ふぅ。中級の悪魔騎士も絵画も、搦め手や手堅い動きをしてくるけど、純粋な耐久力自体はそこまで高くないな。これなら、スキルの一撃で十分に処理が可能だ)


敵のスペックを確認し、これ以上の検証は不要と判断したカイトは、翡翠の杖を構え直して二階の通路を迅速に駆け抜けた。行く手を阻む魔物たちを、レベル十から三十の魔人スキルで効率よく消し飛ばしながら、そのまま三階へと続く階段を一気に駆け上がる。


――しかし、三階へと足を踏み入れた瞬間、場の空気がそれまでとは完全に一変した。


肌を刺すような濃密で邪悪な魔力が、空間全体を支配している。この階層になってくると、出現する魔物の強さは跳ね上がり、一般的な専門のプロ冒険者パーティーであっても、万全の準備と連携を整えなければ一瞬で全滅しかねないほどの高難度エリアとなっていた。


カイトはここから、立ち回りをさらに慎重なものへと切り替えた。

大魔法使いだけでなく【暗殺者】の特性も併せ持つ複合上級職『魔人』の強みを活かし、自身の気配を完全に遮断する隠密行動へと移行する。薄暗い通路の影に身を潜めながら、前方の広いホールに佇む敵の姿を捉えた。


そこにいたのは、全身が漆黒に染まった身長百七十センチメートルほどの人型悪魔【嘆願の悪魔】。背中には一対の不気味なコウモリの翼を生やし、顔の部分には鼻も口もなく、ただ一つの巨大な単眼のみが不気味に発光している。

そしてその傍らには、禍々しい黒色の甲冑を全身に纏った【上級悪魔騎士】が、まるで見張り番のように威圧感を放ちながら直立していた。


(……流石にここからは、これまでのようにはいかないな。しっかり先制を取って、強力な一撃を叩き込む)


カイトは息を潜め、翡翠の杖に膨大な魔力を充填していく。狙うは、前方の直線広範囲をすべて焼き尽くす、魔人レベル三十の極大範囲魔導。


「――【炎極の投射】」


カイトの呟きと共に、杖の先端から全てを滅する極大の火炎レーザーが、目も眩むような爆音と共に照射された。紅蓮の閃光が通路を一瞬で白昼堂々のごとく照らし出し、嘆願の悪魔と上級悪魔騎士の身体を容赦なく呑み込んでいく。


ゴォォォォォッ!


すさまじい熱量が大気を震わせ、周囲の石壁がドロドロに溶け出す。完璧な先制攻撃。普通の魔物であれば、これで跡形もなく消滅しているはずだった。

しかし、激しい炎の爆煙が晴れゆく中、カイトは鋭く目を細めた。


「チッ……! やっぱり耐性が高いな、一撃じゃ落ちないか!」


上級悪魔騎士は、卓越した剣技による魔力の斬撃でレーザーの威力を一部相殺しており、甲冑を激しく焦がしながらも健在だった。さらに、背後の嘆願の悪魔は、上級職並みの強力な無属性の障壁魔法を瞬時に展開して致命傷を免れていたのだ。


「ギュガァァァァッ!」


先制攻撃を耐えきった悪魔たちが、激昂した声を上げて反撃に移る。

上級悪魔騎士が漆黒の剣を振るい、超高速の魔力斬撃をカイトに向けて飛ばしてくる。同時に、嘆願の悪魔がその単眼を光らせ、カイトの足元から鋭利な氷の棘を突き上げさせる【氷】の魔法と、頭上から爆炎を降らせる【炎】の魔法を、凄まじい速度で連発してきた。


上下左右から同時に迫る、回避不能に近い苛烈な魔法と剣技の嵐。

だが、カイトの思考はどこまでも冷静だった。ここで焦ったりはしない。


「――そこだ」


カイトは自身の保有するスキル【短距離テレポート】を発動した。

視界内、かつ自身から五十メートル以内の任意の空間へと一瞬で転移する、最高峰の移動スキル。

刹那、カイトの身体はその場から掻き消え、悪魔たちの放った魔法と斬撃は、誰もいない空間を虚しく爆砕した。


「ガッ……!?」


標的を見失い、一瞬だけ動きを止めた上級悪魔騎士の背後。そこから三十メートルほど離れた通路の斜め後方に、カイトは音もなく出現していた。


「悪く思わないでくれ。これが俺の戦い方だ」


カイトは出現と同時に、すでに次の魔法の詠唱を完了させていた。今度は完全に敵の死角からの迎撃。


「【内包の巨槍】――『雷』!」


激しい放電を伴う紫電の巨槍が、無防備な上級悪魔騎士の背中を、そしてその奥にいた嘆願の悪魔の胴体を、狂ったような速度で連続して貫いた。凄まじい雷撃が二体の肉体を駆け巡り、完全に麻痺して硬直したところへ、カイトはさらに追撃の属性魔法を叩き込んでいく。

数秒にわたる苛烈な魔法の波状攻撃の末、ついに三階の強力な悪魔たちは、耐えきれずに光の粒子となって消滅した。


「ふぅ……。流石に三階の連中は手強い。油断すればこっちが持っていかれるな」


額の汗を拭い、カイトは小さく息を吐いた。

反撃を喰らいそうになる場面もあったが、テレポートによる位置替えや、死角からの正確な魔法迎撃、そして魔人が持つ隠密とヘイト管理のシナジーを試すには、これ以上ない最高の実戦経験となった。身体は完全に『魔人』としての効率的な立ち回りを記憶し、翡翠の杖を扱う手にも、鋭さが戻っている。


それからさらに、隠密と激戦を繰り返しながら三階の入り組んだ回廊を進むこと数十分。

ついにカイトは、通路の最奥に位置する、一際巨大で禍々しい意匠が施された両開きの扉の前にたどり着いた。


扉の隙間からは、これまでとは比較にならないほど圧倒的で、高貴ですらある邪悪なプレッシャーが漏れ出ている。


「ここが、最上階の玉座の間……。ボス部屋か」


カイトは翡翠の杖を強く握り締め、扉を見据えた。

目標とする固有武器『魂吸の杖』を手に入れ、イストとティロフィを上限突破させるための、これが最初の大きな試練となる。静かに闘志を燃やしながら、ボス部屋の重厚な扉へと手をかけるのだった。



『現在のジョブ:魔人(Lv.30)』

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