第117話:レベルアップと準備
【鍛錬道場】での孤独なレベリングを開始してから、さらにしばらくの月日が流れていた。
『現在のジョブ:魔人(Lv.30)』
『使役モンスター:イスト(Lv.70・銀騎士)、ティロフィ(Lv.70・黒白竜)』
カイト自身の『魔人』のレベルは、直線上のすべてを焼き尽くす極大レーザー【炎極の投射】を覚えるレベル三十へと到達。そして、前職から引き継いで前線で戦い続けてくれたイストとティロフィの二体は、現在のランクにおける上限値であるレベル七十へとすでに達していた。
(これで二体ともレベルキャップに引っかかった。……よし、そろそろ次の『進化』のタイミングだな)
レベル七十という上限を突破し、使役獣たちをさらなる高位の存在へと進化させるためには、特定の条件を満たさなければならない。カイトがそのために見据えたのは、かつて踏破した高難易度ダンジョン『竜の巣』のさらに深層――二十五階層に君臨するツインボス、【暗黒竜】と【光輝竜】の二体を討伐することだった。
しかし、その決定と同時に、カイトの脳裏には前世のゲーム知識に基づく冷静な計算が走る。
(あの二体を突破するためには、超強力な一撃で一気に消し飛ばすか、もしくは相手の回復能力を上回る強力な攻撃を継続的に当て続けるだけの、圧倒的な火力が必須になる……!)
特に厄介なのが【光輝竜】だった。
十五階層で激闘を繰り広げた『ライト・ドラグネス』を正統強化したような性能を持つその竜は、ただでさえ強靭な肉体をさらに強化する凶悪なバフ(能力上昇)魔法を幾重にも重ねてくる。それだけでなく、一瞬で体力を大幅に回復する超高効率の回復魔法を頻繁に使用してくるため、中途半端な攻撃ではすべて無に帰されてしまうのだ。
そして致命的なことに、現在のカイトには、その超高体力の回復ループを突破するための決定的な「手段」が不足していた。
(今の俺の最高火力は、『魔騎士』の【断罪の剣】を装備した状態での【魔剣開放】……。これは確かに破格の一撃だけど、俺の持つ情報を照らし合わせると、あの【光輝竜】を一撃で沈めるには、火力が足りない)
一撃が届かないのであれば、もう一つの選択肢である「強力な攻撃を継続的に当て続けるダメージレース」に持ち込むしかない。だが、現在の魔人レベル三十というステータスでは、光輝竜のバフと回復量を秒間で上回る持続火力を叩き出すことは不可能だった。
(かと言って、一時的にジョブを使い慣れた『魔騎士』に戻して挑むのも悪手だ。何より相手は空を自由に飛べる竜。ティロフィが常に敵を地面に押さえつけ続けられる保証もない以上、近接戦闘に偏った魔騎士での挑戦は不適格と言わざるを得ない……)
カイトは【鍛錬道場】の冷たい石床の上で、自身の装備を取り出しじっと見つめた。
現在、カイトが主力として握っている唯一無二の武器は、魔騎士の象徴でもある剣【断罪の剣】一本のみ。近接物理や魔剣の威力を跳ね上げるのには最適だが、現在のジョブである『魔人』の神髄――大魔法や属性魔法を効率よく扱い、魔力を増幅させるための「触媒」としては、完全に不向きな装備だった。
「圧倒的な魔法火力を引き出すための、装備の更新が必要だな……」
カイトの瞳に、新たな目的を持った鋭い光が宿る。
前世の記憶の引き出しを次々と開け、現在のカイトのレベルで侵入可能、かつ魔人の火力を爆発的に跳ね上げる最適な杖が眠る場所を検索する。
――そして、一つの答えに辿り着いた。
(狙うは、単独ダンジョン――【悪魔蔓延る城】。あそこのボスが稀にドロップする固有武器、『魂吸の杖』を獲得する!)
【魂吸の杖】。
それは魔法の威力を底上げするだけでなく、短時間に使用すれば使用した分だけ魔法の威力が上昇していく。もちろん、上昇値に上限はあるしドロップ率は極めて低いが、調べたところ特にボスが人気というわけでもない単独ダンジョンであるため、カイトがソロで何度もボスを周回すれば確実に手に入れられる……はずだ。
「イスト、ティロフィ。次の目的地が決まったよ。……次のダンジョンは、俺一人で行くよ。自分で戦うって感覚を取り戻したいしね」
カイトの言葉に、レベル上限に達した二体の使役獣たちは、主への絶対の信頼を込めて力強く咆哮した。
使役獣たちの進化をするため、魔人となったカイトは【断罪の剣】を一度『宝物庫』へと収め、悪魔たちの巣食う未知なる単独ダンジョンへとその足を進めるのだった。




