表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/153

第116話:新たなる職、魔の人

九条院パーティーにスキル【宝物庫】を伝授したあの日から、しばらくの月日が流れていた。

カイトは新クランの設立資金集めや仲間たちの動向を気にかけつつも、自身に課した直近のノルマを果たすため、黙々と単独ダンジョン【鍛錬道場】へと通い詰めていた。


目的はただ一つ。現在就いている複合上級職『調教師』のレベリングを終わらせることだ。

現時点でカイト以外にその存在を知られていないこの隠されたダンジョンは、直径三メートルにも及ぶ巨体を持った【シルバースライム】が一分あたり三体という高ペースで湧き続ける、まさに最高峰のレベリングスポットだった。


「イスト、ティロフィ。最後、一気に決めて」

「ハァッ!」

「グルルゥァッ!」


カイトの鋭い指示が飛ぶ。白銀の騎士イストの放つ大振りの一閃がスライムの核を両断し、間髪入れずに漆黒の竜ティロフィの巨大な尾が別の個体を叩き潰す。銀色の粘体が光の粒子となって次々と霧散していく中、カイトの脳内に、待望の声が鳴り響いた。


『調教師のレベルが90に達しました。――ジョブレベルがカンストしました』


「よし……。これでようやく、次のステップに進めるな」


カイトは小さく息を吐き、使役獣たちを労ってから一旦送還した。

レベル九十。調教師としての限界値へと到達したことで、カイトは念願だった「次なる職業への転職」の条件を満たしたことになる。カイトは自身の左手に嵌められたアーティファクト【追憶の指輪】へと視線を落とした。

この指輪は、過去に極めた職業のスキルを一つだけ、別の職業に就いている間も使用できるという破格の効果を持っている。カイトは現在登録されているスキルを解除し、調教師の前提スキルともいえる【眷属の庭園】を新たに指輪へと登録した。これで、職を変えた後もイストやティロフィといった強力な使役獣たちを制限なく召喚し、戦力として維持することが可能になる。


準備を整えたカイトは、意識を自身のステータス画面へと集中させ、あらかじめ解放条件を満たしていた新たな複合上級職を選択した。


「転職――『魔人』」


選択を確定した瞬間、カイトの全身を強烈な虚脱感が襲った。

体内の魔力や生命力が一変し、すべての細胞が新しい職業の特性へと強制的に書き換えられていく、独特の感覚。普通の冒険者であれば、あまりの喪失に膝を突き、しばらくまともに動けなくなるほどの負荷がかかるプロセスだ。しかし、これまでに幾度となく転職を繰り返し、この感覚に完全に慣れきっているカイトは、特に気にした素振りも見せずに、小さく息を整えるだけでその場に真っ直ぐ立ち続けていた。


「ふぅ……。やっぱり、この感覚にも慣れてきたな」


複合上級職『魔人』――それは、【大魔法使い】と【暗殺者】という、一見すれば交わることのないように思える二つの職業を極めし者が至る、魔法攻撃特化型の職業だ。

強力極まりない魔法をいくつも操り、圧倒的な範囲攻撃力と対応できる属性の幅広さを誇る一方で、暗殺者の特性による優れたヘイト管理能力を併せ持つ。つまり、大火力を叩き出しながらも、自衛能力によって自身の安全を確保できるという、前世のゲーム時代においても非常に強力だった職業だった。


カイトは魔人になったことで獲得した、初期スキル欄に視線を走らせる。


「……【ディメンション・シフト】。やっぱり、初期スキルはこれか」


カイトはその効果を確認し、小さく口元を緩めた。


【ディメンション・シフト】。

自身のヘイトを完全にリセットし、数秒間だけ敵のターゲットから強制的に外れることができる自衛スキルだ。魔人が誇る強力な広範囲大魔法は、どれも強力な代わりに膨大な魔力と相応の「詠唱時間」を必要とする。その詠唱前後に敵から狙われるリスクを、完全に遮断するための、魔人にとっての生命線とも言えるスキルだった。


(スキルの内容も効果も、ゲーム時代と全く変わりないな。田中さんを見て大丈夫だとは思っていたけど、これならレベルを上げていけばあの凶悪な魔法群もすべて問題なく使えるようになるはずだ)


レベル十で覚える、六属性の魔力を選択して巨大な槍を放つ【内包の巨槍】。

レベル三十で直線上のすべてを焼き尽くす極大レーザー【炎極の投射】など。


それらのロードマップを脳内で反芻し、これからの戦闘スタイルを組み立てていく。

もちろん、カイト自身がこれほどの大火力を考え無しに使えば、イストやティロフィなど一緒に戦う仲間に被害がいってしまうかもしれないので使い所には細心の注意が必要になる。だが、更に新しい力を手に入れたことは間違いなかった。


「よし――それじゃあ、さっそくこの『魔人』のレベリングを始めようか」


カイトは再び【追憶の指輪】の力を解放し、白銀の騎士イストと漆黒の竜ティロフィを呼び戻した。

主の纏う魔力の質が変貌し、弱体化していることに気づいたのか、二体の使役獣たちは引き締まった表情でカイトの前に跪く。


ピチャ、ピチャ、と再び部屋の隅から銀色の質量が染み出し、新たなシルバースライムが姿を現し始めた。


カイトは新スキル【ディメンション・シフト】の感覚を身体に馴染ませるように意識を研ぎ澄ます。

新たな力を得て、更にその力を磨いていく。



『現在のジョブ:魔人(Lv.1)』

『使役モンスター:イスト(Lv.69・銀騎士)、ティロフィ(Lv.69・黒白竜)』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔人というとFC版FF3のRTAで最重要のジョブだったなぁ… 攻撃魔法のプロフェッショナルにしてHP上昇量が戦闘職以上という、ね こっちの魔人も魔法のプロで戦闘職の能力を十全に活かすってところがちょっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ