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第55話 ~女神後輪~

ここはレオンの精神世界。


いつもは晴れ渡った湖が、真夜中の様に暗い。


風もなく、自分の息遣い以外何も聞こえない。


静寂の中、この世界に住まうもう一人の声が聞こえた。


「……すまない………」


「エヴァン……なんでお前が謝るんだ…」


「私は……お前を守れなかった。歪められた存在であることも忘れ、多くの勇者を斬ってきた……その結果が……——これだ」


精神世界を仰ぎ見る。


「この世界に引き込めたのはほんの僅かな意識に過ぎん…創造主の力には叶わない」


「俺は……諦めねぇよ。あんな事でアイツらが死ぬ訳がねえ!感じるんだ。みんな戦ってる」


「お前は強いな………私は終わらない地獄と分かっていながら変えることができなかった……聖剣の終焉が世界の破滅と同義だったからな…」


「どういう事だ?」


「……聖剣は魔王を討つ。新たな魔王を生み出す事となっても。勇者と魔王の輪廻が世界の均衡を守っていた」


「………」

      

「……本来聖剣は表裏一体なのだ。魔王を討つ聖剣でありながらも最強の魔剣と変わる事ができる。持ち主の魔の力を何十倍にも引き上げながら」


「そんな事ができるのか!?」


「あぁ…真なる魔王に進化することと引き換えにな…そして、魔剣に落ちれば聖剣へ戻ることはない……レオン、お前は永遠に魔王として生き、新たな勇者が現れることはない」


「………」


「だがこの力の開放で邪神に一瞬の隙ができるかもしれん。ほとんど賭けみたいなものだが…な」


「エヴァン、俺は勇者なんかじゃないって前に言っただろ?俺はただの商人の息子だ。それは変わらねえよ。これまでも、これからもな…どんな力があっても俺は変わらない!!最強の一般人になってやるよ!!」


「……フフフ…ハ、ハハハハ!!レオン、貴様はいつ何時でもレオンなのだな……ならば、私も覚悟を決めよう!さぁ呼ぶがいい!私の真名!!魔剣へと至る名を!」


「あぁ!いくぞ!!相棒!!」


聖剣を強く握り込むと、世界が輝いた。

そして、聖剣を空高く突き上げた。


「目覚めよ!!エヴァン・ルシファー!!!」


ーーーーーー


ゴウ!!!


エリシアとセノンのスターライト・ジャッジメントがダオスに直撃した瞬間、聖剣を握る左腕の義手を中心にレオンの魔力が膨れ上がった。


『な、なんだと!?』


外と内から受ける衝撃に一瞬慄くダオス。

本当に一瞬の出来事だった。


瞬きほどの隙が生じた。


「!!!? 今!!」


セノンの掛け声で出力を上げるエリシアたち。


顕現したダノスがレオンから引き剥がされていく。


『こ、こんな事で……』


ダオスは力で押さえ込もうとした。

しかし、一度入ったヒビは広がっていく。


「「はああぁぁぁああ!!!」」


スターライト・ジャッジメントの出力が最大値まで引き上げられる。

エリシアもセノンも魔力増幅の影響で体に傷が増えていく。


そして………


ついに、レオンとダオスは分離した。


「レオン!!?」


エリシアの、セノンの、ガイダルの、カインの声が響いた。


「はぁ、はぁ、はぁ………よぅ」


レオンは辛そうに片手を上げて声を出す


『こんな事が……あってたまるかぁ!!』


媒体をなくしたダオスはまるで蜃気楼のように揺らめいている。

顕現した余波魔力でどうにか現世に留まっている状況だった。


「ここまでね!観念しなさい!」


レオンが戻った事で、セノンの啖呵にも力が入る。


『……カカッ! クカカカカ! 観念しろだと?吾にもまだ勝機があるぞ。カカカッ!そうら、破壊の権化が目覚める。世界は恐怖へ落ちるのだ!』


「な、何を言って…??」


「ぐっ!ぐぁ……ぐああぁぁぁあああ!!!!」


レオンの叫びとともに魔力が膨れ上がる。

澄んだ青い瞳は赤黒く、光を飲み込むような色に変化していく。光を帯びていた聖剣もまた、すべての光を吸収するかのように黒く、闇の色へと変化していく。


『最強の魔王の誕生だ!!カカッ!!世界の恐怖をいただくとしよう!高みの見物をしながらな!!』


「俺は…エヴァンと……約束…したんだ!!」


『なに!?』


「「「レオン!?」」」


「魔王に…なんか……ならねえ!!……勇者…でもない………俺は…俺は………最強の一般人だ!!!」


『破壊衝動を気合で押さえ込んだだと!?そんな事が!?できるはずがない!!たかが勇者にそんな真似がぁ!!!』


「勇者なんかじゃねぇ!!俺は、しがない商人の息子!レオンだ!!それ以下でもそれ以上でもないんだよ!!」


魔剣と変わったはずの聖剣エヴァンが金色の光を纏っていた。

そして、レオンの瞳も金色に輝いていた。


「熱っ!? こ、これは?? ……まさか……太陽??」


驚愕するエリシア。


かつて文献で読んだことがある。


‒‒瞳の色と力の根源。


サファイア 正義

エメラルド 慈愛

ルピー 勇気

アメジスト 叡智

オパール 自由

そして…黄金 太陽


全てを照らし続ける存在。神に愛されし者の証。


それが今、レオンに……


そしてこう綴られていた。

すべての力が集いし時、母なる神ルミナスが世界を救うであろう。


『太陽だと!?莫迦な!?ぐぅ!ゼウスめ!戯れに世界を救おうというのか!!』


「皆さん!女神ルミナスを顕現します!私に魔力を向けてください!」


「主よ――

万象を照らす太陽よ、

理を司る叡智よ、

折れぬ心たる勇気よ、

魂を癒す慈愛よ、

そして――すべてを解き放つ自由の意志よ――


今ここに集い、正義を持って

我が願いに応え給え。」


エリシアの祈りに呼応するように瞳と同じ色の光の柱が空へ伸びていく。

太陽のレオン、叡智のセノン、勇気のガイダル、慈愛のエリシア、自由のカイン。

五芒星の光が空を照らした時、正義の青い光となって膨大な魔力が溢れる。


「顕現せよ――

ルミナース!!」


エリシアの祈りに応えるように空間が歪み、光り輝く女性が現れる。

純白のドレスに身を包み、美しい白い羽が目を引く。美しく装飾されたティアラが気品を高めている。


『…女神ルミナスの顕現…媒体もなしにだと』


驚愕するダノス。

ワナワナと震えているようにも見える。


『ノクス神ダノスよ、ここまでお前をのさばらせてしまったのは私の失態でした。この光の世界から消え去りなさい。』


女神ルミナスの両手から溢れる光がドームを形成しダオスを包み込む。


そしてその存在を維持できなくなり、消えていった。


『カカッ……祈りの力か…祈りが神をも顕現する……ならば作ろう……‒‒新たな伝説を……カカッ…クカカカカ』


消えゆくダオスの言葉は誰の耳にも聞こえていなかった。



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