第51話 ~正義の勇者の最後~
「ほぅ、私の反射術式を見抜くとはな…優秀なブレーンがいるようだな……ならば分かるはずだ。諦めろ。如何足掻いたところで私は倒せん。今の平和な世界で過ごして行けばいい」
「何を…言っている??平和だって??」
「そうだ!!今、この世界は平和なのだよ。人間同士の争いが無く、手を取り合い、命を繋ごうとしている。弱肉糧食の中で生きることが生物として最高の幸せで平和なのだ」
「……ふ、ふざけるな!!!弱肉強食の中で生きる幸せだって!?ただ徒らに人の命を弄び、多くの命が日々の生活に恐怖を持って過ごしている今が幸せだって言うのか!!?」
「そうだ!人が種として生き延びようとしているではないか!?これほどの幸せが他にあるものか!私は必要な事をしているのだよ!!」
「……本当の心からの笑顔がない幸せは、幸せではありません!!」
エリシアの言葉が響いた。
「あなたは解っていません。人の心が、表面の笑顔の裏に隠された計り知れない恐怖と戦い続けている人々の心が…恐怖に覆われたこの世界は、決して幸せではありません!!」
エリシアの背中に光の羽が開いた。
「光輪乱舞!!」
エリシアの体から放たれた光の輪が四方八方からゼノスを襲う。
一つ一つを舞うように軽やかに交わしていく魔王ゼノス。奇を狙って影から行った攻撃も身を翻し、全てを捌ききっていた。
「え?」
「……ローズバインド」
避けながら放たれた言葉を引き金にメンバーの足元に魔法陣が浮かび上がった。
茨のツルがレオン一行を縛り上げる。
茨の棘による縛りで体中が傷ついて行く一行。
「…な、なんだと!!」
「むぅ!こんなもの!!……!!??」
カインとガイダルは束縛を解こうとスキルを開放しようとしたが、力が入らなかった。
「無駄だ。私のローズバインドはただの束縛ではない。茨の棘から体内の魔力を撹乱するようになっている」
ゼノスの右手に黒い炎が宿っていく。
「さらばだ。ブラックファング•インフェルノ」
ゼノスの手に宿った炎が燃え上がり大きな牙となって一行を襲った。
レオンの聖剣が強く輝き、全員を包む盾となったのを魔王は見ていた。
「エヴァンか…余計なことを……」
聖剣の力に守られた一行だが、すべてを焼き尽くす黒い炎に満身創痍となっていた。
バインドは外れたものの、立ち上がることすらままならなかった。
「…そう、そうよね……ふふ」
額から血を流すセノンの不敵な笑い。
「反射術式をそうなんども出せるはずがないわ」
「ほう、そんな状態でどうするというのだ。貴様達にはもう、戦う力も残っていまい」
歯を食いしばる一行
「私の崇高な思いを邪魔するな。…私は、世界のために蹂躙し続ける!そして、私の考えに反旗を翻した、くだらないエルフどももな」
セノンを見下しながら言う魔王。
「……くだらない??……長い間、貴方の無言の弾圧に耐え続け、平和を願ったエルフをくだらないですって…!??」
父の顔、里の仲間の顔が走馬灯のようにかけめぐる。
(ムッ?魔力が跳ね上がる??)
膝をついていた仲間が、セノンの気配に目を見開く。
「……光が……あんなにも怒りと悲しみを帯びているなんて……」
「……セノン……お前、そんな力を……!」
耐え忍び続けた家族の事を愚弄された怒りが叡智の杖を介して、魔力を増大させていく。
「誇り高きエルフを!! 愚弄するな!!!! 」
空に幾重もの魔法陣が浮かび上がり、空全体を覆った。白い光が魔法陣を中心に集まってくる。物凄い力の本流だった。
ゼノスは最初は嘲笑しながら見ていたが、光の槍が無数に顕現した瞬間、初めて顔色を変える。
「……な、何だと……!? この魔力……神罰の域だと……!」
「インフィニタ•ジャッジメント!!!!」
無数の光の槍が魔王を襲い、焼き貫いていく。
「う、うわぁ、えげつねぇ………もう二度とセノンは怒らせないようにしよう……」
固く、レオンは誓うのだった。
インフィニタ・ジャッジメントの余波で戦場が光に焼かれ、瓦礫と灰が舞う中。
セノンは杖を握りしめ、肩で息をしながら呟いた。
「……これで……終わらせるのよ、レオン……!」
セノンの攻撃とともに再び光の羽根を開くエリシア。
「神よ……勇者と仲間に力を……」
その瞬間、全員の体を光が包み、疲労と傷が癒えていく。
力を振り絞り、強く地面を蹴って魔王に迫るレオン。
「人間風情があぁぁ!!!」
ゼノスは魔力の奔流を放つが、レオンの前に躍り出たガイダルが咆哮と共に巨大な光の盾、”剛神の盾”で受け止める。
「この盾は……仲間を守るためにあるんじゃぁぁ!!!」
「な、何だこれは!?」
影に飲まれながら、魔王が驚愕の叫びをあげた。
「これは……幻影ではない!? 馬鹿な!!」
「俺は……何度でも姿を変えるさ。だが、この仲間の絆だけは変えられねぇ!」
カインの分身が魔王の影から飛び出し拘束したのだった。
仲間全員の力を受け、聖剣が白銀の光を帯びる。
「これが……俺たちの――正義だぁぁぁ!!!グラン•ブレイク•レイ!!」
一閃。
白銀の光が闇を断ち、魔王の絶叫が掻き消される。
「…はぁ…はぁ…はぁ」
血反吐を吐き、袈裟懸けに切られた傷が修復しない。
「……また、世界は……地獄に落ちる…」
「——ならねぇよ」
消え入る言葉はレオンに否定された。
「アンタはデカイ物を持ちすぎた。一人の肩に世界なんて重すぎる」
「………」
「俺は……勇者でも何でもないただの商人の息子だ!……見える範囲しか幸せにできねぇ……けど、それでいい。
……みんなが両手の幸せを守れば、世界は――救われる!!」
「………あまいな……だが……それが希望か」
「”正義の勇者ゼノス”、ゆっくり休め……後は…俺が引き継ぐ……魔王でも勇者でもない俺がな」
聖剣が静かに振り抜かれた。
その刃は、迷いなくゼノスの心臓を貫いた。
「……ありがとう…」
ドサッ
正義の勇者ゼノスの最後だった。
ーーーーーー
『…クックック……完成した……器が……』
ゴゴゴゴゴゴ!!!
黒い瘴気がレオンの足元から溢れ出る。
聖剣のサファイアが黒く染まっていく。
「な、なんだ!?………がああぁぁああぁぁ!!」
『7つの勇者の魂、血と憎悪、正義の瞳を持つ偽りの勇者……』
何処から聞こえるのか、腹の底から押し上げるような声。
『反転する………正義は暗黒と破壊に……』
レオンの瞳が赤黒く染まっていく。
「うわあああぁぁぁああ!!」
瘴気がレオンを包み込み、異形の形へと変化していく。
『……クっクックッ…ついに……身体を手に入れた!!……吾はノクス邪神ダノス!!…この世を蹂躙するものなり!!』




