第49話 ~3人の思い~
その夜。
レオンたちはロキに泊まる事にした。
エリシアたちも居る為、宿屋を取った。
夜風が頬を撫ぜる。洗いざらしの髪がひんやりとして気持ちがいい。
「何をしているんだ??」
エリシアが屋根の上で星を見ているとレオンがやってきた。
「…星を見ていました」
レオンが「隣いいか?」と聞き、エリシアは小さく頷く。
「……なんか懐かしいな…」
少し顔を紅くするエリシア。
「……そう……ですね……」
「………何か…悩んでるのか?」
その一言にエリシアがぽつりぽつりと話し始めた。
「……レオン、私は教会に育てられました……」
空を見上げながら語り始める。
「……両親の事は…知りません……真意は解りません。でも赤ちゃんの時に教会の入り口に捨てられていたそうです……」
「…………」
レオンは黙ってエリシアを見つめていた。
「……私の瞳……蒼と翠の虹彩異色です……」
——遥か昔、女神ルミナスと邪神ダノスは世界を作った。
ダノスは魔王を生み出し、人々を混沌へと陥れた。
それに嘆いたルミナスは勇者を遣わし、魔王を討つ聖剣を与えた。
勇者は魔王を打ち倒した。
魔王は復活する。
また、ルミナスは勇者を遣わすだろう。
「……この創世記は知ってますよね……」
「あぁ」
「…実は続きがあるんです……」
——人の心を見つめる蒼い瞳、
正義の心を宿した翠の瞳を持った者、勇者。
聖剣の力を振るい、魔王を討つ。
「…そ、それって」
「………私は勇者になるべく教会に育てられたんです……」
膝を強く抱きしめる。
「…でも、聖剣は私に答えてくれませんでした……」
うつむきながら顔を膝に埋める。
「……教会の中でも、私の居場所がなくなる……いつも不安の中で過ごしていました……」
ゆっくりと顔を上げながらレオンの顔を見る。
「……そんな時、女神ルミナスの声が聞こえるようになったんです……神託を伝える度、いろんな感情の渦がこの瞳に写りました……とても…怖かったんです………」
溢れる涙をレオンは見つめることしかできなかった。
「……そんな時、勇者の神託が降りたんです……レオンは……とても真っ直ぐで……純粋で……自分に正直で………こんな人がいるんだって………とても……嬉しかったんです……」
レオンの胸にゆっくりと身体を委ねた。
「……だから…怖いんです……うぅ……レオンと同じ時間を過ごせなくなる……ひっく……私の…身勝手………ごめんなさい………うぅ……」
大粒の涙がレオンの胸を濡らしていった。
「……エリシア…俺こそ……ごめんな。俺の自己満足に付き合わせちまう……俺も怖いさ……だけど………ゼノスは…アイツだけは……」
強くエリシアを抱きしめる。
「——救ってやりたい!」
「…はい………ゼノスの瞳……私と同じ虹彩異色です………きっと、色んな物を見てきたんだと思います………」
エリシアは絞り出すように声を出す。
「………お願い………助けてあげて……」
「——任せろ……」
その決意を胸に、しばらくそうしていた。
ーーーーーー
部屋に戻り、しばらく経った。
明日はガイダル、カインと合流する日だった。
トントン
扉が叩かれる音が響いた。
「どうぞ」
内側から招き入れる声。
ガチャ
「どうしたんだ?エリシア…」
部屋の主レオンは突然の尋ね人に動揺することもなく、椅子を勧めて水を渡すと訊ねた。
「その…不躾なのは分かっているんです!レオン、もう一度私を抱いてください!!」
ブブッ!!
飲みかけた水を一気に吹いた。
「な、なんだよ突然!?」
「私…やっぱり不安…なんです。レオンは私のこともセノンのこともお嫁さんと言ってくれて、大事な二人と言ってくれました…」
「………」
「それでも、大事な時にレオンの力になれるのはセノンで…私ではきっと役には立てないです」
「………」
「………」
「そんな私が二人の隣に立ってて良いのかって…とても、不安なんです」
エリシアの独白を静かに聞いていたレオンが立ち上がる。
「なるほどなぁ」
ゆっくりとクローゼットの方へ進み、扉を開けた。
「だそうだ。セノン」
中にはセノンがいた。
「セ、セノン!?どうして?」
「エリシアと同じ理由さ。不安だって聞いてるときにエリシアの気配がして、隠れたんだよ」
「あの…あたしは、やっぱりエリシアがレオンを支えてると思って…あたしは気も強いし、安らぎは与えられないだろうし…」
珍しくモジモジとしながら話すセノン。
「…お互いに不安だったんですね」
セノンとエリシアが互いに歩み寄り、笑顔を交わした。
「「きゃ!!」」
その横からレオンが二人に抱きつき、ベッドへ押し倒した。
「ちよっ!何すんのよレオン!?んんっ!!?」
文句を言うセノンに口づけをして黙らせるレオン。
「え?え??ん!んんっ!?」
あたふたしているエリシアにも口づけをする。
「何って——」
少しだけ、真顔になるレオン。
「二人とも、不安なんだろ」
そのまま、優しく二人の頬に触れる。
「だったら、証明してやるよ」
「お前らが、ここにいていいってこと」
ニッと笑う。
「——全部まとめて、俺のもんだ!」
「だからって…流れとか情緒ってもんが…」
「そ、そうですよ…それに、こ、心の準備が…」
「二人の可愛い嫁さんを前にして、何もしないなんて無理だぜ。それに…誘われて断る気なんてサラサラないぜ」
「もう…レオンてば…」
「…ばか……」
こうして夜は更けていった。
そして夜明け。
長い旅路の果てに待つ、決戦の時を告げる光が、静かに三人を照らし始めていた。
笑い合い、互いを確かめ合った心の温もりを胸に、彼らはついに――魔王との戦いへと歩み出す。
——それぞれの想いを胸に、彼らは歩き出した。
避けられぬ運命と、決着をつけるために。




