第40話 〜告白〜
「何なんですか!!自分の娘だからってセノンの何を知っていると言うのですか!!」
怒りの収まらないエリシアがドスドスと言う音を立てるように地面を踏みしめながら歩いていた。
「まぁまぁ、エルフにはエルフの色々があるんだろ」
誰かが怒っていると、不思議と周りは冷静になるものだ。
「だからって!!レオンは悔しくないのですか!?セノンはアルフェンの迷宮封印を解いて、神魔融合魔法を使い、転送魔法陣を使わずにテレボートを成し遂げた人ですよ!」
「そ、そう聞くとすごいな…」
「そうです!偉大な、天才魔道士で…」
エリシアは唇を噛みしめる。
「…ただの女の子なんですよ」
ーー私は知っている。
ずっと見てきたから。
レオンに惹かれていったセノンを間近で見ていたから。
初めての夜をセノンが望んだことも、受け入れられて喜びが溢れる姿を見ていたから。
そう、私がセノンを傷つけたんだ。
私がレオンを好きになってしまったから。
私がレオンを失いたくなかった……一度は消えかけた命、レオンが繋ぎとめて受け入れてくれた。
嬉しくて…嬉しくて……求めてしまったから。
こんな形で終わりになんてできない!
セノンとちゃんと話さなきゃ。
だって、私はセノンが大好きだからーー
「絶対、取り戻すんです! 私の親友を…」
ーーーーーー
「…殲…滅…」
黒いペガサスに乗った暗黒騎士がエルフの里に向かっていた。
黒い瘴気を纏い、通った跡の道を屍の地に変えながら。
一つの黒い流星となって翔ぶのだった。
ーーーーーー
「ここですね」
レオンたち一行はエルフ族長の家の前にいた。
玄関をノックすると、メイドのエルフが案内をしてくれた。
レオンが「メイド!?」と何か反応していたがエリシアの肘が鳩尾に入った。
家の中では何枚かの絵が壁に掛けられていた。
先程の族長とセノンとよく似た女性。
そして幼い頃のセノンだろうか。
内慎ましい様子が描かれていた。
そしてセノンによく似た女性だけの絵が1枚棚に置かれていた。
「………」
「こちらでございます」
メイドに導かれて部屋の前に立った。
「セノン!なんで出て行ったんだ!?俺達仲間じゃないか!?あんな書き置き残して消えたりすんなよ!!俺達はお前と一緒がいいんだよ!」
ーー聞きたかったレオンの声。
心のどこかで考えていた。
きっと探しに来てくれるだろう、迎えに来てくれるだろうという願い。
みんなの魔力が近づいて来ているのは分かった。
あたしを見つけてくれた嬉しさが弾けそうになった。
でも……あたしの欲しい言葉じゃなかった。
「仲間」……それ以上でも、それ以下でもない。
「俺達は」……違う……達じゃないよ。あたしが欲しいのは……レオンのーー
「出てって!!……」
「セノン………」
「レオン、ここは私に任せてくれませんか」
エリシアの真剣な目にレオンは1歩下がり、エリシアが扉の前に立つ。
「…セノン……私は貴方とちゃんと話しをしなければなりませんでした。キチンと向き合うべきだったんです……私が求めたばかりに貴方を傷つけてしまいました………だから」
ドドドドドドド!!!
大きな地震と魔力の奔流が里全体を襲った。
「!!!!?……父様…?」
セノンはこれまで感じていた父の魔力が急激に小さくなっているのを感じた。
バアァンン!!
扉を勢い良く開け走り出すセノン。
何が何だか分からないまま後を追う一行。
どうやらセノンが向かった先は神樹の様だが、家を出た瞬間にテレポートしてしまった。
ーーーーーーー
ヴヴゥーン
「!!!!?」
空気を裂くように現れたセノンが見たものは、神樹に磔にされた父の姿だった。
「いやああぁぁあああーーー!」
セノンの声に振り向く、黒いペガサスに乗った漆黒の騎士。
「お、おまえか!?おまえがーー!!」
セノンから放たれた火球が暗黒騎士を襲うが、刀の一閃で霧散した。
「……えるふノ里ヲ殲滅スル」
「な、に?…コイツ……」
「ワレハ魔王近衛騎士団長ノばいすダ」
まるで人形のように掴みどころが無い敵に困惑するセノン。
炎がだめならと紫電、氷結、嵐と様々な魔術を行使するが全てを無力化されてしまう。
「う、うぅ…セノン……にげなさい」
「父様!!」
辛うじて急所を外れていたようだ。
瀕死の父の言葉が聞こえた。
「セノン!!」
そこへレオンたちが到着した。
「…勇者カ…魔王様ニ仇名ス者ニ死ヲ!!」
暗黒騎士が一瞬ブレたように感じた。
次の瞬間、レオンの目の前に現れ、刀を振り下ろしていた。
ガキィィン!
これまでの戦闘で磨き上げられた反射神経で暗黒騎士の一太刀を防いだレオン。
「ぐっ…!!…セノン!!ここは任せろ!親父さんを!!」
レオンたちが鍔迫り合いをしている中、セノンは神樹に向かって走り、父を磔にしていた槍を引き抜いた。
『フルエイド!』
上級神聖魔法で治療を開始するセノン。
傷は塞がって行く物の瘴気の侵食が止まらない。
「……セノン……逃げなさい……」
「父様!!」
「…ふぅ…はぁ…あの者は…この里を…壊滅させに来た魔王の…手先だ……条約違反の……粛清だ」
「な、何を言っているの!今は喋っては駄目よ!!」
「……この里は…魔王と…不可侵条約を結んでいた……敵対しない…人と深く関わらない…事を条件に…な…」
ギキィン、ガン、ガギン
暗黒騎士ベイルの攻撃をガイダルが霊盾剛壁で防ぎ、カインが分身で攻撃総攻撃するが、全て捌かれる。
『殲滅スル!』
更には追い打ちをレオンに行う。
攻守で3対1にも関わらず、防ぐ事がやっとのレオンたち。エリシアの補助魔法でスピードを上げるも追いつく事がやっとだ。
「………お前は逃げなさい」
「そんな事できないわよ!!父様をこのままになんてできない!!」
「…お前は…本当に母に…セイリンによく似ている……そんな所まで…そっくりだよ……」
ーー300年前ーー
「あたしは、魔王の脅威から世界を守りたい」
「そうだな。父は不可侵条約を交わしてしまったが、私も諦めないよ」
「えぇ、あたし、アルフェンに行って魔王に対抗する力を研究してくるわ!」
「分かった。私は君の支えとなる杖を作ろう」
「シルビア…」
「セイリン…」
ーー100年前ーー
「セイリン!無事だったのか!!」
「あぁ、シルビア…やっと消滅魔法を構築できそうだったよ…なのに」
「諦めるには早いさ、杖はもうすぐ完成する」
「そうね。研究を終わらせる訳にはいかないわ」
ーー80年前ーー
「セノンはどうしている?」
「さっき眠ったわ……この理論式が1条の光になるわ」
「杖も完成だ。神樹の幹から作り上げた。魔力を36乗まで増幅できる。杖自体の強度も折り紙付きだ」
「ついに、アルカナ•インフィニタの発動試験ね」
ーー現在ーー
「そして…お前の母は……魔力暴走で…亡くなった…お前には…生きて…欲しかった…」
「………あたしは…あたしは!!母様の思いも!父様の願いも!無駄にしたくない!!」
「…これを……『叡智の杖』だ……はぁ、はぉ……お前なら…きっとお前なら……」
ギュッ!!
託された杖を持ち立ち上がるセノン。
ゴァ!!
暗黒騎士の瘴気が衝撃波となってレオンたちを吹き飛ばした。
「ぐはっ!!」
後転、跳躍して距離を取ったレオンたちはセノンの近くに集まった。
「セノン!!」
エリシアは族長シルビアの治療をセノンから引き継ぎ行う。
「セノン…ごめんなさい。私…」
「エリシア!それで何を言いたいの!?あたしのためにレオンを諦めるなんて言ったら…絶対許さない!!」
「!!?」
エリシアは目を見開き、セノンを見る。
「お、おい!いま戦闘中だぞ!?」
レオンは戦いとは関係ない掛け合いに大きく動揺した。
「でも……私はセノンを傷つけて」
「あたしは!!…エリシアが大好きよ!親友だもの!!あんたが悲しむ顔なんて見たくないわ!!」
「わ、私だってセノンが大好きです!親友です!一番大切なんですよ!」
そんな言い合いをしながらも魔法の連射や斬撃の攻防は続いている。
グランリカバーでシルビアの瘴気は既に取り除かれている。
馬鹿でかいアイスコフィンをセノンが放つ。
『効カヌゾ』
魔法を剣で叩き切るベイル。
「じゃぁ、恨みっこなしよ。あたしは…レオンが好きよ!!愛してるわ!!絶対に離さない!!」
セノンのファイヤーランスがベイルを強襲する。
「マリオネットカーニバル!!」
剣で弾いた隙にカインの分身がベイルを斬りつける。
「ず、ズルいです!!私の方がレオンを愛してますよ!!黄泉から舞い戻るくらいに!!」
ホーリー•ジャッジメントが空から襲う。
『何ダト!!?』
既のところで身を躱す。
「よぉ、色男ぉ女にあんな事まで言わせてぇ、何も言わないのは男がすたるぜぇ?」
ベイルの斬撃を交わしつつカインの声が聞こえる。
レオンも顔を真っ赤にしながら反撃をしている。
「だああぁぁああーーー!!!!わかったよ!!
セノン!俺はお前が好きだ!!初めて会った時から好きだったんだよ!!絶対離さねぇ!!」
セノンの顔が一気に赤くなる。
初めてあった時に星を見ようとか言っていたが…本気だったのだ。
「エリシア!!全てを支えてくれるお前が好きだ!!二度と失いたくない!!絶対離さない!!」
エリシアの顔が茹でダコのように赤くなる。
「二人とも俺の嫁だ!!どっちも諦めねぇ!!俺は!!」
光刃波を放ちながら高らかに宣言する。
「俺の夢はハーレムだからな!!」
「な、なによそれ!!悩んでたあたしが馬鹿みたいじゃない!!」
セノンが作り出した宙に浮かぶ岩のドリルが暗黒騎士を襲うがすべてを弾かれるがその隙をガイダルが突進し、暗黒騎士を吹き飛ばす。
「ふ、ふふふ…レオンらしいです!」
「しょうがないわね!そんな男を好きになったのはあたしなんだから…もう、一気に決めるわ!!」
「うおおぉぉおお!トールハンマー!!」
『ナニ!?威力ガ上ガッテイル??』
ガイダルの攻撃で体勢を崩したベイルを囲むように6つの魔法陣が浮かび上がる。
「喰らいなさい!!『スターライト•インフィニティ!!』」
魔法陣から6つのアルカナ•インフィニタが暗黒騎士を貫いた。
『オオォォオオオォ!!…ぜのす様…申シ訳アリマセン…』
光の奔流が闇を飲み込む。
抗う剣は砕け、漆黒の甲冑はひび割れ、砕け散る。
声はない。
呻きもない。
ただ散る——まるで人形のように。
残滓さえも光の粒となり、虚空へ溶けていった。




