第39話 〜エルフの里〜
「………はぁ………」
家を出て数十年。
久しぶりに戻った家ではまだセノンの部屋は残っていた。
ベッドの上で1人膝を抱えていた。
ーーあたしは逃げたんだ。
あの日、エリシアが戻ってきた時、とても嬉しかった。
この気持ちは嘘じゃない。
でも、エリシアの気持ちを知ってしまった。
エリシアがいなくなった時のレオンは…見ていられなかった。
近くにいて、癒やしたいと思ったし、支えたいと思った。
たとえ、そこに愛が無くても、レオンの支えになれるなら………
あたしは…エリシアが羨ましかった。
本当にレオンが望んでいたのはエリシアだってわかっちゃったから……
あたしは…エリシアが好き。
守ってあげたい妹みたいな存在だった。
戻ってきてくれて、本当に嬉しかったのに……
あたしは…レオンが…レオンを愛してしまった……エリシアと結ばれた……あの子が戻ってこなければと考えてしまった……
ーー
「…あたしは……最低だ………」
抱えた膝に顔を埋める。
「……こんな感情……知りたくなかったのに……」
ーーーーーーーー
「ここか…?」
レオンたちはエルフの里入り口にいた。
「罠とかはなさそうですね」
手を伸ばすと、見えない壁のようなものがある。
強く押すと沼に沈むような感覚で中に入れた。
光る森の中に一際神秘的で大きな樹が生えている。
樹を守るように街が広がっていた。
「…きれい…」
頬を撫ぜる風がエリシアの髪をなびかせる。
景色の綺麗さとエリシアの美しさがよく似合っていた。
「止まりなさい!ここはハーフエルフが来ていいところではない!!」
突然、敵意剥き出しの殺意を向けられ、視線を街の入り口へと向けた。
槍を構えたエルフが数名、ものすごい剣幕で寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達は仲間を探しに来ただけなんだ!」
「仲間だと!?ハーフエルフを仲間にするような愚かなものはこの里にはおらん!!早急に出ていけ!!」
聞く耳を持たないエルフたちに堪忍袋の緒が切れる。
「なんぞ!!ハーフエルフ、ハーフエルフと!!!カインがおんしらになんぞ悪さをしたんかいの!!!?」
ガイダルの巨体がエルフたちに迫り、威圧する。
気圧され、数歩下がるエルフたちの後ろから声がかかった。
「ここは、ハーフエルフ禁制の里なのだ。非礼は詫びよう。だが、ハーフエルフがもたらした厄災を忘れられては困るな。この森にどれだけの血が流れたか………コチラの掟にもしたがっていただきたいものだ。」
「族長!!」
族長と呼ばれた男はスラリと背が高く、銀色の髪を腰まで伸ばした40歳程の外見だった。
「あなたが族長ですか。知らなかったとは言え、掟を破ってしまった事、お詫びいたしますわ」
ガイダルを下がらせエリシアが前に出る。
このパーティの中では、エリシアが一番育ちというか、作法を知っている。
「ほぅ、して何用ですかな?できるなら早めにお引き取り願いたい」
「私達は、打倒魔王を心に決めた勇者一行です。レオン様の腰にある聖剣が何よりの証拠。そして、大魔導師セノン様を探すためこの地へ来ました。どうか、里へ入ることをお許しいただきたいのです」
「セノンが??大魔導師?? ははははは!!勇者一行は冗談がお好きなようだ!!セノンが大魔導師などとは!!あの娘は魔術も禄に使えない、唯の役立たずですよ」
「なっ!!?ど、どういう事ですか!?セノンは魔王四天王を下した豪傑です!役立たずなどと!……あの人がどれだけ努力をしてきたのか……知っていて言っているんですか!!」
族長の言葉に反射的に反論してしまったエリシア。
レオンやガイダル達も拳を握りしめていた。
「セノンは私の娘だ。親が子をなんと言おうと構わないでしょう。まぁ連れていきたいなら好きにすればいい。それが事実ならばな……1日だけ滞在を許す」
「族長!!」
エルフたちが驚嘆するが、族長はそのまま踵を返した。
「くっ!!…族長の許可が降りた。里への立ち入りを許可する。たが、ハーフエルフはいかなる施設も使えない。心することだ」
エルフの渋々と言った開門にレオンたちはセノンを求めて街に入った。
この地に迫る悪意に気付くことなく。




