表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/43

第37話 〜それぞれの思い〜

その日の夜は大騒ぎとなった。


深淵の支配者を撃破した後、宿に戻った。


祝勝会とエリシアが戻った事を祝おうと、飲めや歌えやの大宴会となったのだ。


普段は飲まないセノンですら煽るようにワインを飲んでいた。


飲み過ぎじゃないかと思うくらいに。


セノンが酔いつぶれ解散となったあと、エリシアは一人宿の屋根に座り、星を眺めていた。


頬を撫ぜる風が心地良い。


「何してるんだ?」


「…レオン様」


隣、良いか?と聞いてきたレオンに頷くと、また視線を上げるエリシア。


「…星を見ていたんです」


そんなエリシアの横顔が美しかった。


「キレイだ…」


「はい。この綺麗な星がまた見れるなんて……思ってもいませんでした」


「え?あ、あぁ!星がキレイだよなぁ…はっはっはっ!」


「レオン様??」


レオンの態度に違和感を覚えたエリシアが小首を傾げる。


そんな仕草も愛おしいと感じてしまう。


「いや、なんでもないよ……なぁエリシア、そのレオン「様」って言うのやめないか?」


「え!?で、でも勇者様をそんな…」


「俺はさ、今でも自分の事を勇者だなんて思ってないんだ。たまたま聖剣に…エヴァンに選ばれた、商人の息子さ」


「………」


エリシアは真剣にレオンの横顔を見ていた。


「世界を救う為とか、見知らぬ苦しんでる人を守るとか、そんな事は出来ないよ。ただ、目の前の人を…大切な人を守れる力があればそれで良い!俺は自分が感じる、自分の世界を守りたい!!そして…絶対に離さない。」


エリシアの目を見ながら強く言うレオン。


「誰が言ったか忘れちまったけど…正義の勇者なんてならなくて良い。ただの人でありたいんだ…だからさ、仲間としても一緒に生きてく者としても「様」なんていらないさ」


エリシアの目尻に涙が浮かぶ。


「はい。「レオン」」


ーーーーー


どれくらいそうしていただろうか、肩を並べ星を見上げていた。


ふわりと風に乗り、エリシアの仄かな甘い香りがレオンの鼻をくすぐる。


エリシアが頭をレオンの肩に乗せ寄りかかっていた。


「…風が出てきましたね…」


「…あぁ…そうだな」


「…少し…寒くなって…きました」


頬を赤らめながら言うエリシアにレオンも全身が紅潮していく。


「そろそろ戻ろうか…」


レオンの一言で夜の天体観測は終了した。


宿に戻りそれぞれの部屋の前で


「おやすみなさい」


とだけ言うエリシア。


「な、なあ!エリシア!」


扉のノブに手を掛けたエリシアは動きを止め、レオンの顔をみる。


困ったような表情。


レオンの中で大きな葛藤が巡る。


セノンとエリシア。


それでも、失った時の喪失感がレオンを突き動かす。


「も、もう少しだけ一緒にいないか?…その……今は、お前を離したくない…」


レオンの真剣な瞳がエリシアを射す。


エリシアの顔が真っ赤に染まる。


レオンの誘いがどういう事なのか、理解している。


さっきは自分でも露骨過ぎたかと思うくらい恥ずかしかった。


でもレオンは「戻ろう」としか言わなかった。


女性として魅力がないのかとも思った。


まして、レオンはセノンと……


これは裏切りになるのだろう。


それでも自分は求めてしまった。


レオンを……


レオンと結ばれたい。


後ろ髪を惹かれる。


それでも今は……


「……はい」


絞り出すように一言だけ。


また、セノンの笑顔が頭をよぎる。


それでも今は……今だけはレオンを選びたかった、


そしてレオンの部屋に誘われた。


その日、勇者と神託の巫女は一つとなった。


その幸せな時間は二人にとって永遠のように感じられた。


罪悪感とともに。


ーーーーー


翌朝


眠い頭を掻きながら食堂に降りたレオン。


頭を抱えて突っ伏しているセノンを見つけた。


「大丈夫か?」


「うぅ、お酒なんて飲むもんじゃないわね…頭が割れる様に痛いわ…」


すっかり青ざめたセノンがぼやく。


「まだまだじゃのう!酒に飲まれるなぞ修行が足らんぞい!!がーはははは!!」


「嬢ちゃんもしっかり修行するこったなぁ」


「いいわよ…当分お酒なんて飲まないから…」


自分にリカバーをかけながら悪態を付くが二日酔いには効かないようだった。


なんてこと無い朝の一幕が微笑ましく思う。


勿論、この瞬間はエリシアの存在がとても大きいのだ。


後ろから階段を降りてくる足音が聞こえた。


「皆さん、おはようございます」


「「おぅ!!」」


「レオン、今日はどうしますか??」


「そうだな、セノンもあんな感じだし、今日は装備を整えたり、休息に充てよう」


そう、なんてことの無い会話。


しかし、その二人の変化にセノンだけが気付いていた。


エリシアの立つ位置がいつも以上にレオンに近い。微笑みかける顔と交わる視線に特別な物を感じさせる。昨日までとは全てが変わっている。


そして…これまで絶対に「様」を外さなかった呼び名…エリシアの呼び名は新愛の証だ。


誰にでも敬称を付ける。


本当に気を許した相手だけが呼び捨てになる。


「……まさか……」


その時、セノンは心がザワつく正体を知ってしまったーーーそれは、セノンが知る初めての感情……嫉妬だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ