第33話 〜カイン〜
『俺』はカイン。
知っているのは、名前だけだ。
『俺』は自分が何者なのか知らない。
気付いた時にはもう『カイン』だった。
父も母も故郷すら『俺』は知らないんだ。
どのくらい旅をしただろうか。
どうやら『俺』はハーフエルフという種族らしい。
どの町に行っても蔑まれた。
何をする訳でもないのに石を投げられた事もあった。
『俺』は不思議な力があったんだ。
自分の影を自由に動かせた。
形を変え、剣を持たせれば、その影から本物の剣が出てくるのだ。
影を2つに割って、二人にすれば、『俺』がもう一人。
魔力が尽きれば消えてしまうが、寂しさは消すことができた。
腹が減った。
どうしようもない空腹感。
定住せず、根無し草の『俺』は森の動物や木の実で食べ繋いだ。
金が必要な時は、盗んだ。
捕まり、血反吐を吐くほどリンチに会うこともあった。
ギルドでもハーフエルフへのあたりは厳しいものだった。
そんな時だった。
レオンたちと出会ったのは。
『俺』を『俺』として見て接してくれる。
ハーフエルフだとか盗みを働いていた事などで偏見を待たずに関わってくれる。
何か懐かしい感じがするんだ。
ーーーーーー
「なぁ、カイン」
「なんだぁ?」
サンクチュアリに向かう最中、レオンが声をかけてきた。
「あんまり聞いたことなかったけど、カインってどこの出身なんだ?」
「さぁなぁ? お前たちと出会う前の事は何も覚えてねぇんだ」
「そうなのか!?……なんか悪かったな…」
レオンは急に気まずそうにしていたが、カインはどこ吹く風だ。
「なぁに、気にするこたぁねぇさ。覚えてなくて困ることもねぇ」
そんな会話をしながら忘却の花園を目指すのだった。
2週間が過ぎ、深い森まで進んだ。
「サンクチュアリの麓と言えばこの森全体だけど、入り口をどう探すか…ね」
「闇雲に探してもどうにもならねぇよな」
「待ってな、斥候を出す。」
カインの影が伸び、その影から数人のカインが出てくる。
「いけ!」
影から生まれたカインたちは方々に散った。
「これでしばらくは様子見だなぁ」
「便利じゃのう」
「まぁ何はともあれ、飯だ。腹が減ってはなんとやらだぜぇ」
これまでの長い間ともに旅をしていた。
その中で、自然と役割が決まって行った。
旅の方針決定は勇者であるレオン
解読や魔法的な罠などの解除がセノン
荷物やデカイものの運搬はガイダル
そして旅における生活を守るのはカイン。
生活力が一番高いのはカインだった。
おそらく、このパーティにカインがいなければ、すでに野垂れ死んでいたかもしれない。
生命線はカインが守っていたのだ。
肉を焼き、スープを作って食事を囲んだ。
ピクッ!
何かに気付いたようにカインが顔を上げる。
「どうした?」
「…みつけたぜぇ。忘却の花園の入り口…」
影カインの一人が発見したのだった




