第26話 ~剛神の盾~
街の奥に建つ家の前で一度立ち止まり、意を決したように、家に入るガイダル。
「……帰ったぞい……」
「!!!?」
ダダダダダ!
家の奥から走ってくる音が聞こえた。
バギィ!
「今更、何しに帰ってきやがった!!」
走ってきたドワーフはガイダルの顔面を思いっきり殴ったのだった。
「勝手に出ていきやがった奴がどの面下げて帰ってきたでぇ!!」
それから暫く、親子の攻防が続いた。
「それで、俺に何しろってんだ?」
全員で二人の間に入り、なんとか場を沈め、これまでの経緯を話すまでに至った。
「レオンの義手を作って欲しいんじゃ!」
「………勇者ねぇ………無理だな。」
「なっ!?」
父の言葉に狼狽えるガイダル。
「元の腕以上に自在に動く義手なんぞ作れるかよ。」
「そこをなんとか!頼めるのは親父だけなんじゃ!!」
その言葉にガイダルを睨み返すゴメス。
「特に気に食わねぇのは、お前だ!ガイダル!」
立ち上がり指を指すゴメス。
「お前なんのためにこのパーティにいるんだ?守るだ何だと言っちゃいるが、守れてたらこんな事になってねえ!お嬢ちゃんが危険な目に会うことも、勇者さんの腕が無くなることも無かったんだ!!中途半端な奴がいっちょ前なこと言うんじゃねえ!!………出て行け」
「おっさん!そんな言い方は!」
「いいんじゃ!…本当のことじゃい…」
レオンを制止し、外へ走り出すガイダル。
慌てて追いかけるレオン、セノン、カインの3人。
エリシアだけがこの場へと残った。
「なぜ…嘘をつくのですか?」
「なんだと!?何が嘘だって……んだ?」
真剣に見据える目に一瞬怯むゴメス。
「あ、アンタ…その眼は………まさか、見えてるのか?」
「ご存知でしたの」
「……文献でな…青い瞳には心が映るってな」
「…はい。貴方はガイダルさんを本当に大切に思っている。なのになぜ突き放すのですか」
「………アンタには隠し事は出来そうにないな……アイツはな…母親を亡くしてんのさ。6つの頃、目の前で殺されてな」
広場にて。
「ガイダル!!」
家を飛び出したガイダルを追い、レオンたちがやってきた。
「すまん……親父の言うとおりじゃい」
ズゴン!
壁を殴りつけるガイダル。
「ワシは何にも守れておらん……今も…昔も…」
ーーーーーー
25年前
ガイダルの母、ゾフィーは旅をしていた。
巨人族の戦士長だったゾフィーは傭兵もしており、暫くグラストヘイムの警護をしていた。
その中でドワーフのゴメスと恋に落ち、子どもを授かった。
それがガイダルだった。
任期が終わり、一度ガイダルを連れて里へ戻ろうとしていた。
「巨人族戦士長ゾフィー殿とお見受けする。お手合わせ願いたい」
雷鳴が轟、現れた男。
「今は休暇中でね…またにしちゃもらえないかね?」
ひと粒の汗が頬を伝う。
「我は魔王軍四天王、雷光の支配者ライオス。こちらも任務なのでな。否応でもお手合わせ願おう」
「ちっ!ガイダル、そこの影に隠れていな…絶対出てくるんじゃないよ」
激しい攻防。
ライオスの音速を超える正拳。雷を伴った攻撃が、身体強化したゾフィーの身体を傷付けていく。
ガイダルは岩場の影で震えて見ている事しかできなかった。
ゾフィーの反撃も、力と力の押し合いでライオスが勝っていた。
「トールハンマー!!」
「豪雷砲!!」
お互いに最後の一撃。
ゾフィーは胸を貫かれていた。
「良き戦いであった。武人ゾフィーに敬意を。」
そして、ライオスは雷鳴と共に消えていった。
「母様!!」
幼き日のガイダルがゾフィーへと駆け寄る。
泣きじゃくる顔。
「……ガイ…ダル…」
ゾフィーの手がガイダルの頬をなでる。
「…強く…生きるんだ……」
頬から肩へ手が落ちる。
ゴフッ
ゾフィーの口から血が溢れる。
「……守っ…て…」
落ちる手をガイダルが両手で握る。
「母様!!いやだ!!」
「…ゴメンな……」
そして、ゾフィーは息を引き取った。
ーーーーーー
ゴメスの家にて
「アイツは、ずっと母親を守れなかった自分を攻めていやがるのよ。」
「そういう事だったんですね」
「こんな時代だ…それでも生きて行かなきゃならねえ、母親の分まで生きてて欲しいんだよ」
その頃広場では、
「ワシは母上を守れんかった。ワシは巨人族でもドワーフ族でもない中途半端なやつなんじゃい!ドワーフのように精霊を使役できる訳でもなければ、巨人族ほど力があるわけでもない!」
「 それは違ぇよ!お前はすごい奴だ!ドワーフの力と巨人族の力を同時に使えるんだろ」
空に雷雲が集まり、空を暗くしていく。
ゴロゴロゴロ
ピシャーーン!
グラストヘイムの近くに雷が落ちた。
大空洞を揺るがすほどの大雷。
「!!!?な、なんだ!?」
雷と共に物凄い威圧感を感じるレオンたち。
「みなさん!!」
エリシアも合流し、グラストヘイムの入り口へと急ぐ。
大空洞を出た所にその男はいた。
「!!!? お、お前は……!!」
悠然と歩いてくる戦士風の男に、苦虫を噛み締めた様な顔で睨みつけるガイダル。
「勇者一行だな?お手合わせ願おうか」
獣の耳を持つ人と言うのが率直な見た目だが、でかく引き締まった肉体が強さの象徴のように思えた。
「我は魔王軍四天王が一人、雷光の支配者ライオス」
「アンタが…ライオス!」
レオンが剣を構える。
「ほう、我を知っているのか」
「忘れるわけがないじゃろうがぁ!!母上の仇!!」
身震いしながら斧を片手にガイダルが叫ぶ。
「仇だと?」
「巨人族戦士長ゾフィーじゃ!!」
「ほう、あの時の童か。…ゾフィー殿は素晴らしい戦士であったよ」
天を仰ぐように空を見上げるライオス。
一度目を瞑り、過去へ思いを馳せる。
「お喋りはここまでだ。参る!!」
拳を握り構えを取るライオス。
身体中に紫電が走る。
「雷光拳!」
ゴゴゴゴ•ドガシャーーン!!
ドォン、ドガン、ドドン、バゴォン
ガイダルの横を雷鳴が通り、直後に後方で爆発音がした。
「軟弱だな」
「な、なんじゃと!!?」
一瞬消えたかと思ったライオスがまた現れた時、後ろでは吹き飛ばされ、意識を失ったレオンたちがいた。
「!!? おヌシ…何をした?」
「見えぬとはな…興醒めだ。終わらせよう」
再度、ライオスが構えを取る。
「雷撃衝!」
足元に紫電が走る。
高く跳躍すると雷といっしょに全身の力と落下の威力を合わせたかかと落としがガイダルを襲う。
ガガァーーン!
轟音と共に繰り出された攻撃に血を吐くガイダル。
「がはぁ!!」
ズゥウウゥン!
巨体が倒れる。
「な、なんちゅう……威力じゃ……」
辛うじて意識を保ってはいるが、ギリギリだった。
「ほう、たいした精神力だ。せめて力に特化していればいい勝負ができなかもしれんがな」
「わ、ワシは…」
中途半端と嘆いた自分。
巨人族のパワーを出し切れない。
さらには精霊の声を聞くドワーフの力も弱い。
自分に価値など無いと心が落ちていく。
「……そんな事はないさ……ガイダルは強えよ」
先程、意識を飛ばしていたレオンが立ち上がる。
「ガイダルさんの盾は……何より強いんです!」
膝が笑う。
しかし、しっかりと大地に立つエリシア。
「…ダンナのパワーは…こんなもんじゃねぇ」
岩に凭れながらも身体を起こすカイン。
「……アンタなんか…屁でもないわよ…!」
額から血が出ているが、意識をはっきりとさせるセノン。
「ガイダルは…巨人とドワーフの力を併せ持つ最強の戦士だ!!」
仲間たちの言葉、声、行動が再びガイダルに勇気を与える。
今度こそ守りたい!
守り切る覚悟をその胸にガイダルは立ち上がる。
瞳が紅く、ルビーのように輝く。
それは、勇気の色だ。
「うおおおおぉぉぉおおぉぉーーー!!!!」
ガイダルの身体から気合のオーラが立ち昇る。
「ワシは、仲間を守る戦士じゃい!!もう、誰も傷つけさせん!!」
(母上!……今度こそ!ワシは!!)
いつもより、精霊たちの声が鮮明に聞こえる。
今ならもっと強い盾を作るとこができる。
霊盾剛壁より強い盾。
手に集まる力を凝縮する。
身体強化を盾に付与していく。
精霊たちの力が集まり、ガイダルの力と融合しながら、一つの形を作り上げていく。
大地が軋み。
大気が震える。
精霊たちが歓喜する。
「剛神の盾!!」
大きく、その存在感を放つ。
真っ赤な盾は凄まじいオーラを放ちながらハッキリとその姿を表した。
「面白い!!いくぞ!!」
ライオスも好敵手になると歓喜するのだった。




