第25話 〜帰還〜
第5章〜白銀の左腕〜
ーー魔王城
『バルギアスが敗れるとはな…あの魔道士…やはりセイリンの…クフフフ、そこまで運命を巡らせるのか……”貴様ら”の好きにはさせんぞ』
窓の外を眺め、苦虫を噛んだような顔でボソリと言うゼノス。
『ライオス』
『は!』
紫電を纏い現れた、ライオスと呼ばれた男。
黒い甲冑に身を包んでいる。
『バルギアスがやられた』
『なんと!?破壊の暴君であるやつを倒すとは』
『貴様の「力」でねじ伏せてみろ』
『は!身心のままに……』
そう言って、ライオスは闇に消えた。
ーーーーーーーー
「すまん!!!」
ドゴン!!
頭をテーブルに叩き付けレオンに謝罪をするガイダル。テーブルには大きな穴が開いた。
「な!!?どうしたんだよ突然!?」
「わしは、取り返しのつかない事をした!お前さんの左腕は…もう…戻らん…」
「それは、ガイダルのせいじゃない!それに腕を切るのを頼んだのは俺だ…あのままだったら全身火達磨で、もう生きていねえよ」
「しかし…」と食い下がるガイダルに「しつこい!」とチョップをする。
「不自由が無いわけじゃねえが、戦える!試してみるか?」
ニカッと笑うレオンは聖剣に手をかける。
そして、この町のギルド訓練場へ向かう。
「いつでもいいぜ!」
「懐かしいのぉ、思えば1年前も手合わせをしたぞい」
「もうあの頃の俺じゃねいからな!」
「手加減はできんぞい」
「させるつもりもねえよ」
腰ではなく、背中に持ち替えた聖剣をスラリと抜くレオン。右手だけと言う割に構えが様になっている。
「……隙がないぞい…」
ガイダルは右手に戦斧、左手に盾を作り出している。
力強い踏み込みから、盾を前にして突進する。
レオンはサイドステップを使いながら身体を右へずらし、聖剣を上段に構える。
振り下ろす瞬間ガイダルが右足で体重を支えながら身体を撚る。左下から戦斧がレオンを襲う。
(左腕がない状態では防げんぞい)
レオンは聖剣を右下に振りながら、その勢いで身体を回す。
ガキイィィン
襲い掛かってきた戦斧と聖剣がぶつかり合う。
「なにっ!!?」
レオンの身のこなしに驚くガイダル。
「まだだぜ!」
ふっとレオンの姿がガイダルの前から消える。
「なに!?」
ゾクッ
背後に殺気を感じ身を翻す。
その先には、聖剣を袈裟懸けに振り抜いたレオンがいた。
「良く気付いたな」
レオンは体勢を急に低くして、ガイダルの視界から消えると、素早く背後に回ったのだった。
「ぬぅ…」
「これで終いだ。ちゃんと守れよ?」
レオンの聖剣が光り輝く。
「光刀衝!」
上段から放った光刀波に追いつく勢いで踏み込む。
「なに!??」
淡く光る聖剣を横に薙ぐ。
「サザンクロス!!」
放った光刀波と直接斬りつける光刀波が十字に重なり、大威力の斬撃となってガイダルを襲った。
最大出力にした盾にヒビが入るほどの威力でガイダルは10mほど飛ばされていた。
「流石に硬えな!」
ガイダルは戦慄を覚えた。
先のバルギアス戦より洗練された体捌きに、新しい技。
長い間片腕で戦ってきたのではないかと言う反応速度。
「おぬし……本当にレオンか?」
「おいおい!どういう事だよ!!」
「片腕をなくして4日とは思えん!」
「あぁ、寝てる間にエヴァンのおっさんと3ヶ月位戦い続けてたからな」
「!!おぬし、またあの空間に行ったのか!?」
驚愕とともに何かを考え込む。
「右腕だけでも強くなったおぬしには、やはり左腕も必要だぞい」
「無い物ねだりはできねえよ」
「…作れるとしたらどうじゃい?」
「!!……できるのか?」
「うぬ、ドワーフの国、グラストヘイムならばの」
ーーーーーーー
「グラストヘイムへ行こうと思う」
「いぃじゃねぇかぁ?」
「はい」
「………アンタはいいのね」
「……」
その日の夕食後、食堂で今後の行動について話し合うこととなった。
その皮切りにレオンが話し、カインとエリシアは了承したのだ。セノンは思うことがあったのか、ガイダルに話を振った。
「知っとったのか?」
「あたしも流れものだしね。何となくよ」
「なんの事だ」
「わしは…グラストヘイムを捨てた男ぞい」
「どういう事だよ?」
「グラストヘイム…ドワーフの国は鍛冶職人の国ぞい。わしは巨人族とのハーフでな、昔っからどうも不器用で鍛冶も細工もできん。身体もデカくなり過ぎた…それで国を出た」
全員ガイダルの身の上に口を閉ざした。
そして…
「ガイダル、辛い事があるなら無理に行く必要はない。右腕だけでも問題「だめじゃ!!!」ない…」
レオンの言葉を遮ってガイダルが叫ぶ。
「おぬしの左腕を切り落としたのはわしじゃい。必ず、使える腕を作るぞい」
ガイダルの瞳には反論を許さない、強固な意志が写っていた。
こうして、グラストヘイム行きが決定した。
グラストヘイムへは徒歩でおよそ1ヶ月の行程だ。
途中、行商人の護衛任務を行いながら向かう事となった。
ーーーーー
「私達まで乗せていただいてすみません。」
「いやいや、良いんだよ」
幌から顔を出して礼を言うエリシアに馬車を扱う行商人が笑顔で答えた。
「俺らも載せてくれよな…」
馬の前を歩くレオンのボヤキが聞こえた。
「……男は乗せん……」
ポツリと聞こえる行商人の声に苦い顔をするのだった。
「クソッただの女好きかよ」
「おめぇと同じだろぉがよぉ」
最もなカインの言葉にぐうの音も出ないレオンだった。
ーー
「護衛は3人か……」
「頭ぁデケぇのもいますぜぇ」
「な〜に、コッチは20人だ囲めば投降するさ」
崖上の草むらで何やら不穏な話をしている面々。
街道に出没する盗賊だった。
「!?……レオン」
小さな声でカインがレオンに話しかける。
「どうした?」
「賊だ……右の崖上に10人、左に10人だ」
「そりゃまた大人数だな…セノンに頼むか?…いや、燃やし尽くしちまうな」
街道の盗賊などはギルドに引き渡すと懸賞金が出る。
生捕りがセオリーだ。
「レオン。探査魔法に反応があるわ」
「悪意の色が左右に広がっています」
幌から顔だけ覗かせて話しかけるセノンとエリシア。
「うちは索敵が有能ですね……さて諸君、敵さんに気づかれずに無力化したいんだが、何か良い案はあるかね?」
「……そういうキャラは似合わないわよ……」
「うるせーよ」
「俺の影の分身は5体出せる。左の連中なら影縛りも使ってすぐだな」
「じゃぁ、右はあたしが燃やそうかしら」
「いやいやいや!!燃やしたら駄目だろ、ギルドに引き渡すんだからよ」
「じゃあ、窒息で昏倒ならどうかしら?」
「そんなことできるのか?」
「風魔法のアレンジよ」
「よし、それで行こう」
プランが決まり、行動を開始する。
カインの足元から影が伸び、崖上に向かっていく。
セノンは幌の中で詠唱を始めた。
「うわ!な、何だこいつら!?どっから現れた!?」
「く、苦しい……!」
左右の崖から悶絶する声が聞こえた。
魔王軍を相手にするレオンたちに盗賊ごとき、敵ではなかった。
ロープで縛り上げた盗賊団を率いて街を目指した。
護衛任務や賊の引き渡しで、路銀稼ぎをしながらグラストヘイムを目指した。
馬車に乗せてもらえたこともあり、3週間でグラストヘイムに到着することができた。
そこは大きな洞窟、大空洞に家が立ち並ぶ街だった。
陽の光は入らない代わりに、ヒカリゴケが洞窟内を照らしていた。
「……!!ガイダルか!??」
入り口付近に居たドワーフの男が声をかけてきた。
「おぉ!叔父貴、元気だったか?」
「オメェそれはこっちのセリフだ!!」
「誰だ?」
ドワーフと話すガイダルに後ろから声をかけるレオン。
「おぉ、すまんのう。ワシの叔父貴のゴイスじゃい」
「なんでぇ、仲間もいたんかい」
ゴイスと紹介されたドワーフ。
ガイダルに比べるとかなり小柄だ。
エリシアと同じくらいの身長だが、恰幅が良い。
如何にも職人を思わせる様な装いだ。
「今一緒に旅をしとる勇者のレオンとその一行じゃい。あとで紹介するぞ」
「勇者だって?」
驚嘆の表情でレオンを見るゴイス。
「……あんまり強そうじないの?」
そんな言葉に失笑するしかないレオンたち。
「まぁ、なんじゃ…叔父貴、親父はいるかの?」
「……家にいるはずじゃい…」
それ聞き、
「こっちじゃい」
と小さく呟き、案内するガイダル。
街を歩く間、何人ものドワーフがガイダルに話しかけていた。
街の奥に建つ家の前で一度立ち止まり、意を決したように、家に入るガイダル。
「……帰ったぞい……」
「!!!?」
ダダダダダ!
家の奥から走ってくる音が聞こえた。
バギィ!
「今更、何しに帰ってきやがった!!」
走ってきたドワーフはガイダルの顔面を思いっきり殴ったのだった。




