第21話 〜烈火の支配者〜
サラマンダーの骸が地に落ち、焦げた匂いが漂う。
全員が肩で息をしながらも無事を確かめ合っていた。
その時――
「へぇ〜、中々やるじゃねぇか」
乾いた声が、火口の淵から響いた。
視線を向けると、赤髪を燃やすように靡かせ、背に黒翼を広げた異形が立っていた。
「なっ……誰だ!?」
レオンが剣を構える。
『自己紹介はしておくか。魔王軍、四天王が一人、烈火の支配者、バルギアス……魔王ゼノス様よりお前らを潰すよう仰せつかった者だ』
牙を覗かせ、嗤うバルギアス。
「てめぇ……サラマンダーを放ったのはおめぇか!?」
カインが低く唸る。
『試金石ってやつだな。勇者とやらがどの程度のもんか、軽く覗かせてもらった。――フン、五百年ぶりに選ばれただけはある』
その声音には、侮蔑と同時に僅かな賞賛が混じっていた。
「フンッ、舐めるなよ……!」
ガイダルが戦斧を構えるが、バルギアスは動かない。
「バルギアスって…まさかっ!?アルフェンを廃墟にした……」
『アルフェン?……あぁ、そういやぁそんな町が昔あったかなぁ?潰しまくってるから忘れてたぜぇ』
セノンの言葉に下卑た笑いを見せるバルギアス。
『ん?おまえら何処かで会ったか?』
それは遠い記憶。
500年前の勇者一行、魔術師のセイリンと僧侶のエレン。
この二人に酷似した、セノンとエリシアが重なったのだった。
『なぁんか、嫌な感じだな…手っ取り早く始末するとするか…』
急に雰囲気の変わるバルギアスに戦闘態勢を取る一行。
「アルフェンの資料によれば炎攻撃を得意とする魔族よ。氷結系の魔法で翻弄して、油断してる間に畳み掛けるのがベストね!純粋な魔族みたいだし、人間を見下しているなら挑発に乗って、こっちのペースに引き込めるかもしれないわ」
「…油断も慢心もなく、最大火力で攻められたら?」
セノンの提案に疑問を口にするレオン。
「あら、察しがいいわね…ジ•エンド、骨も残らず焼失ね…魔力量が違いすぎるわ」
額から汗を垂らしながら答えるセノン。
色々ギリギリなのだった。
「逃げる…選択肢は無いんですね」
「逃げ切れる自信ある?」
「……ありません」
「そう言う事」
より安全を取りたいエリシアだが、今はセノンの案に乗るしかないのだった。
『さぁ、作戦は決まったかぁ?小手調べと行くぜ』
バルギアスが笑みを消すと同時に、火口全体が揺れた。
ゴウ!
空気を裂く音。
灼熱の炎槍が瞬時に放たれ、一行は咄嗟に散開する。
「速いっ……!」
レオンが叫ぶより早く、セノンの目前に炎が奔った。
氷結魔法で迎撃しようとした瞬間、炎と氷が激突し、爆ぜる。
熱波で視界が歪み、耳をつんざく轟音に身体が吹き飛ぶ。
「がっ……はぁっ……!」
セノンの防御魔法は破られ、腕に焼け跡が広がる。
『ハハハ!その程度かよ?さっきまでサラマンダーに勝って調子に乗ってたんじゃねぇのか?』
バルギアスの嘲笑が轟く。
「セノン!」
駆け寄ろうとするエリシアを、バルギアスの炎壁が遮る。
『お前だ……どこかで見た顔だなぁ。五百年前のあの小娘……クク、そうか、似てやがるのか…』
燃え盛る視線がセノンを射抜く。
炎の奔流が一点に集中し、セノンは回避も結界も追いつかない。
「――っ!」
咄嗟に構えた氷の障壁が、轟音と共に粉砕された。
炎が迫り、皮膚を焼き尽くさんとする。
「――《アイスランス》ッ!」
セノンの掌から氷の槍が放たれ、一直線にバルギアスの胸を貫こうとする。
しかし、突き刺さった瞬間――
ジュゥゥッ
乾いた音を立てて霧散した。
氷は一瞬で蒸発し、水滴すら残らない。
「なっ……!」
思わず後ずさるセノン。
『フハハハ!氷だと? 火の王たるこの俺に通じると思ったのかァ!?』
大地を揺るがす咆哮と共に、バルギアスの周囲に灼熱のオーラが立ち上る。
近づくことすら困難な熱量。
「《フローズン・コフィン》!」
全力の呪文を叩き込む。
瞬間、氷の棺がバルギアスを覆った。
ように見えた。
だが次の瞬間、轟音と共に内部から炎が炸裂する。
氷は粉々に砕け散り、辺りに熱風が吹き荒れた。
『効かねぇ効かねぇ! 氷結魔法なんぞ、俺の焔の前では塵芥同然よォ!』
「くっ……!」
セノンの頬を汗が流れる。
これまで培った技術も、魔力も、まるで通じない。
そして――バルギアスの指先に炎が集まり、槍のように尖り始める。
先ほどよりもさらに濃縮された殺意が、その一撃に込められていた。
『さぁ、氷の小娘……次は避けられるかァ?《ファイヤーランス》』
バルギアスから放たれた炎の槍がセノンを襲のだった。




