49:ああ、大好きだよ
「陽からはまだ連絡来ていないよな。屋上、行ってみるか」
刀岐と私は鎮守府に戻り、その足で屋上へ向かった。
鎮守府の建物の屋上は、半分がヘリポートで、残り半分に小さな鳥居があり、庭園が広がっていた。
今の季節は桜も終わり、新緑が目に眩しかった。
「あ、マンションも見えるし、公園も見えるね」
私は金網越しに広がる景色に目を奪われた。
「公園、広いなぁ……」
私の呟きに、刀岐は「どれどれ」と言って、私の後ろに立つと金網を左手で掴んだ。
そして覗きむように前かがみになった。
刀岐の顔がすぐ近くにあると認識した瞬間、緊張し、頬が赤くなっていると感じた。
「澪、あれ、富士山じゃないか?」
清涼感のあるミントの香りがして、刀岐の息が耳にかかった。
……近い。刀岐ってパーソナルスペース狭すぎじゃない⁉
私は近すぎる刀岐から離れようと
「そこにベンチがあるからちょっと休憩しようよ」
刀岐は私の言葉に頷き、ベンチのそばの自動販売機でお茶を買って渡してくれた。
「そう言えば久光に会った時、信長がどうとか話していたよね?」
私はベンチに腰を降ろして尋ねた。
鈴はいつの間にか霊体化を解き、私の頭に乗っていた。
「ああ、信長の呪魂のことだろう」
「その、じゅこん、って何なの?」
「澪は歌詠みのことは知っている?」
「うん。穢れの祓いを専門とする私設組織でしょ」
「そう。歌詠みはさ、人の負の感情から生まれる穢れを言霊の力で祓うんだけど……あ、言霊の力って祓詞のことな。穢れを祓うための言葉だ。で、その祓い以外にもう一つやっていることがあるんだ。道鏡って、歴史で習っただろう?」
「うん。皇位を狙った怪僧だよね」
「ま、簡単に言うとそんな感じの奴。で、この道鏡、死んだ後も隠世、つまり死者の世界から、現世、俺たちが生きる世界に暗殺者を送り込んで、この世界の転覆を目論んでいるんだ」
「えええ、そうなの⁉」
「うん。しかも千年前からずっと。歌詠みたちはその道鏡が送り込む、呪魂と戦っている。呪魂は、道鏡が現世に恨みを持つ魂に呪いをかけたもので、この呪いにかかると、負の感情が強化される。元々持っている負の感情が強いほど、それは増幅される。
だから信長の呪魂は相当強かったと思う。
で、この呪魂を使ってターゲットの暗殺を試みる。歴史上の偉人、武田信玄、徳川家康、坂本龍馬とか、いろいろ狙ったらしい。で、その暗殺は成功したものもあるし、失敗したものもある。失敗したもの……それを阻止したのが歌詠みたちなんだ」
「な、そうなの⁉ すごい……」
「ちなみに俺が展開する結界のいくつかは、この歌詠みが使うものなんだ」
「それは薄々気づいていた。授業では習わないよう結界をよく使っているもんね。……刀岐は、理の守り手以外のこともいろいろ知っているし、勉強しているんだね……」
「久光の影響かな。久光は何でも知っているから、俺もそれに負けじと頑張った、かな」
「なるほど……。刀岐は久光のこと大好きだもんね」
「ああ、大好きだよ」
刀岐は無邪気な笑顔を見せた。
その言葉と笑顔が私の心の琴線に触れ、キュンと胸が躍った。
「あ、陽から連絡来たぞ」
スマホを取り出すと刀岐は快活な声で応じた。
◇
「ごめん、ごめん! 思いのほか長引いちゃったよ。いや~、いろいろあったけど、とりあえず部屋に送るよ」
「陽、今日もまだ私たちの護衛なの?」
私の問いに前を歩いていた陽が速度を落とし、私の横に並んだ。
「うん。護衛というか……」
陽はそこで言葉をきり、私を見た。
「小笠原久光の言っていた通りになったよ」
「ということは……」
「引き続き、伊織くんのところにお世話になりながら、除霊や浄化をやりつつ、星那たちの監視をおれと悠で担当することになった」
その言葉に刀岐を見ると……。
「まー、仕方ないな。面倒みてやるよ」
言葉とは裏腹に顔は笑顔だった。
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完結済『歌詠みと言霊使いのラブ&バトル』
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バトルパートでは激しい戦闘もあればコミカルな戦いもあり
恋愛パートは思春期の男子らしいHな描写もあれば、甘く切ない展開もあります。
仲間との友情も描かれています。
全67話、通勤通学昼休みでさくっと1ページずつ楽しめると思います。




