50:エピローグ
鎮守府を出て、公園を抜けたところに悠がいた。
「悠、どうしたの⁉」
悠は私を見てほっこりするような優しい笑顔を見せた。
「陽と僕は引き続き伊織くんのところで任務に就くことになったから、戻ってきたよ」
「悠、体は大丈夫なのか?」
陽の問いかけに悠は「大丈夫だよ」と頷いた。
私たちが立ち止まっていると
「おい、部屋に戻るぞ」
刀岐に言われ、私たちはマンションに向かって再び歩き出した。
「これからの任務、星那、百目鬼、犬神の監視なんでしょ。悠は……大丈夫? 星那や百目鬼と顔を合わせるの」
並んで歩く悠に尋ねると
「……まあ、慣れるには時間がかかるだろうね。でも颯斗から聞いた話だと、星那も百目鬼も調伏された上に小笠原久光の術の縛りがあるから、僕達が知っている彼らとは別人らしい。だから大丈夫かな。……それにこの任務に就いていればまた澪ちゃんにも会えるしね」
……!
思いがけない一言に私の胸がキュンとした。
「僕より、澪ちゃんは大丈夫? 星那は記憶がない……と聞いているけど、アイツと澪ちゃんが一つ屋根の下で暮らすと思うと……僕はちょっと心配だよ」
「……それは。でも一つ屋根の下とはいえ、刀岐も悠も陽もいるし、久光の縛りがあればさすがに大丈夫かなと思っています」
「……久光って呼び方、もしかして澪ちゃん、小笠原久光に会ったの⁉」
「はい。今日、鎮守府で会いました!」
「そうなんだね」
「おーい、悠、澪、エレベーター来たから、早く!」
陽に呼ばれ、悠と私は小走りでエレベーターに乗り込んだ。
そして。
刀岐の部屋のドアの前に到着した。
すると。
「……何か、いるな」
刀岐の眼光が鋭くなった。
その気配に、悠と陽の顔つきが変わった。
……刀岐の部屋はとんでもない強い結界で守られているんじゃないの⁉
鈴が私の肩で身構えていた。
「澪は一番後ろに下がっていろ」
刀岐に言われ、私はエレベーターのドアの前で立ち止まった。
「……開けるぞ」
刀岐の言葉に悠と陽が頷いた。
ゆっくり、刀岐が扉を開けた。
えっ……⁉
廊下の上がり框に、三人の人物が正座し、頭を下げ、三つ指を揃えていた。
「お帰りなさいませ」
三人の揃った声に聞き覚えがあった。
真ん中の人物、銀色の髪の持ち主がゆっくり頭を上げた。
サラサラの長めの銀色の髪、濃いアメジスト色の瞳。
透き通るような白い肌。
星那だ……!
続いて左右の人物がゆっくり顔を上げた。
右側の人物はちょっと長めの黒髪のショートヘアだった。
み、耳がついている! 犬みたいな耳が!
パッチリとした大きな瞳で、健康的に日焼けした肌をしていた。
しかも小柄なのになんか着物の胸元が窮屈そうだ……つまり胸が大きい。
さらによく見ると太股のそばに尻尾が見えていた。
まさか、この少女が犬神⁉ お、女だったの⁉
女だったのに、悠に憑依して私のことを襲おうとしていたの⁉
軽くパニックになりながら、左側の人物を見た。
ということは、この可憐な女性が百目鬼⁉
長い緑がかった黒髪を一本に結わき、下げ髪にした、線の細い女性だった。
肌の色は白く、瞳は髪と同じ緑がかった黒目で、とても控えめな感じだ。
「小笠原久光さまの命で、伊織さまにお仕えするよう言われ、こちらに参りました。わたくしは星那と申します。この子は犬千代、この子は七瞳です。どうか、これからよろしくお願いいたします」
三人は再び頭を下げた。
「早速ですが、お昼を用意しましたので、どうぞお入りくださいませ」
星那はそう言うとゆっくり立ち上がり、犬神――犬千代、百目鬼――七瞳もそれに習い、立ち上がった。
「……予想外なんだが、悠、お前、犬神と百目鬼が女性だって、気づいていたか?」
刀岐の言葉に悠は首を振った。
「生霊は生命パワーが強すぎて、その姿は光の輝きのようにしか視認できない……。気配でも女性とは気づけなかった……」
悠は驚愕していた。
陽は
「ビックリした。犬神……犬千代、可愛いかも……」
「おい、陽、何言っているんだよ」
悠が陽の頭をはたいた。
「とりあえず、中に入るぞ」
刀岐の言葉に悠と陽が続いた。
犬神と百目鬼はまさかの女の子で。
星那はなんだか行儀が良く、別人になっていて。
悠と陽も引き続きここに滞在する。
人数が増え、これからさらに賑やかになりそうだ。
「おい、澪、何しているんだ?」
一度家に入った刀岐が玄関に戻ってきて、私の腕をつかみ抱き寄せた。
「澪、お前は俺の大切なデュオなんだ。どこにも行くなよ」
刀岐は相変わらずで。
これから七人でどんな生活を送るのだろう?
「どこにも行かないよ。前にも言ったでしょ。ここに私の家財道具一式があるんだから」
私はそう言って微笑んだ。
(完:明日から第2巻スタート)
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