47:あの時のことは忘れろ
今回の聴取も颯斗と海斗が担当だった。
二人は私たちに会う前に久光に会っていて、星那たちの受け渡しも取り仕切っていた。
「星那は明け方まで天の鎖につながれ、もう力は完全につきかけていたわ。その状態で桜那がね、記憶を消す術をかけたの。そうしたらなんというか、とても穏やかな表情になったのよ。
ほら、星那って、ものすごい美貌でしょう。声も甘くて優しい。でも、そこには狂気を秘めていた。あたしは目の当たりにしたわけじゃないけど。ただその狂気が抜けちゃったら、そこに残るのはただの美青年。
鎮守府に連行されてからは女性職員が軒並みメロメロになっちゃって、男性職員が急遽対応することになったのよ。まあ、それであたしが呼ばれたわけだけど……。あたしだってねえ、クラっと来たわよ。あの美貌と声には」
颯斗はうっとりした表情で宙を眺めた。
「それで記憶を失う前の星那に話は聞けたのか?」
刀岐の問いに颯斗は首を振った。
「ダメ。ずっとだんまりだった。自分自身に術をかけていたのよ。残りの力をほぼ全部使って。何も話さないように。まあ、だから二人を呼んだわけで。悠によると伊織くんと澪ちゃんは意識があったのでしょう?」
颯斗の言葉に刀岐と私は頷いた。
「……星崎はどうしているんだ?」
刀岐の問いに颯斗は机の上に置いたノートを開きながら答えた。
「……! 星崎参事官は百目鬼に憑依されていたんでしょ。まさか参事官が憑依されていたなんて驚きよね。しかも生霊の百目鬼よ。未明まで星那の尋問に立ち会っていたけど、その後鎮守府に戻って、病院で検査を受けていたわ。今は休んでいるんじゃないかしら」
「じゃあ星崎参事官から聴取はしていないのか?」
「そう。まあ、でも生霊に憑依されていたなら、ほとんど意識を保てなかっただろうし、聴取と言っても参事官の部屋で軽くヒアリングぐらいじゃないかしら。それじゃなくても忙しい方だから」
「なるほど。で、何から話せばいい?」
この言葉を合図に聴取が始まった。
聴取はとてもスムーズに進んだ。
久光が颯斗に考察を話したと言っていたが、その考察はまるでその場にいたのではないかというほど適切なものだった。
だから……。
「あ、それで伊織くんは幽体離脱したのよね? 小笠原久光が天の鎖の縛りから逃れるにはそれぐらいしか方法がないって言っていたから」
そんな感じで颯斗が先回りできたので、順調に進めることができたのだ。
ただし、一か所をのぞき。
それは星那が犬神――悠に命じて私に嫌がらせをしようとした時のことだ。
刀岐はその時の様子を具体的に話したがらなかった。
私が話そうとすると、「澪は話さなくていい。あの時のことは忘れろ」と制した。
颯斗は困り切っていたが、「悠に確認するからこの部分は一旦飛ばしましょう」と海斗に耳打ちしていた。
そしてこの聴取で刀岐は一つだけ嘘をついた。
琴音が自ら進んで星那に協力していた件、それについては話さなかった。
代わりに、琴音はあくまで星那と百目鬼に操られ、刀岐を天の鎖に縛ったと颯斗に伝えていた。
「二人とも、協力してくれてありがとう。予定より早く終わったのも二人のおかげね」
颯斗が微笑んだ。
すべてが順調に終わったのは、間違いなく久光のおかげだった。
会議室を出ると、廊下に置かれた長椅子に陽が座っていた。
陽は私たちと入れ替えで会議室に向かった。
多分、式神となった星那たちを、久光が刀岐のマンションに預けることになった一件を報告するのだろう。
「二人とも、屋上に行くか、食堂に行くかして待っていてもらえるかな? 終わったら連絡いれるから」
陽は会議室に入る直前にそう言って手を振った。




