46:全て見透かされている……?
「え⁉」
さすがに刀岐の表情が硬くなった。
「三体ともぼくの術で何重にも縛りをかけているから悪さはできない。というか、悪さをしようという気持ちがそもそも起きない。だから安心しろ」
そう言って久光が刀岐を見た。
すると……。
「久光がそう言うなら間違いないな。分かった」
……はあ⁉ 嘘でしょ、信じられない。何快諾してんのよ、刀岐‼
星那が私に何をしようとしたのか、忘れたの⁉
私の表情の変化を見逃さなかった久光はこう告げた。
「澪、安心しろ。星那の記憶は一つしか残されていない。自分の双子の姉、桜那のことしか覚えていない。お前に対する感情も消された。それに犬神や百目鬼のことはただの妖仲間としか思っていない。
もちろん犬神や百目鬼は星那の記憶を蘇らせるような言葉を口にできない縛りをかけてある。これは絶対的な縛りだ。あと妖は綺麗好きが多い。掃除・洗濯は喜んでやるだろう。いい家政婦になるぞ」
星那が私に好意を抱いていたことは鎮守府の職員に聞いたのかもしれない。
でもなんで私が掃除や洗濯が苦手って分かったの……⁉
……なんだろう、久光には全て見透かされているような気がする……。
「陽、そういうことだから、さっき預かった三体の式神は刀岐の所に置かせてもらうことにしたよ。颯斗に伝えておいてくれ。まあ、ぼくの式神だから悪さはしないと保証できるけど、鎮守府としては気になるよな。二人ぐらい、刀岐の家に鎮守府から人を派遣しておいてもいいかもしれん」
……やっぱり! 久光は気づいているんだ。
「とき坊、お前、今、すごくイイ顔している。夜ぐっすり眠ることができているんだな。お前はさ、まだ高校生だ。ちゃんと毎日学校に行って、よく学び、恋をして、青春を謳歌するんだ。鎮守府の仕事なんて卒業してからやりゃいいんだよ。それに飯はな、一人で食うな。ぼくでさえ、一人で飯は食わん。一人になるぐらいなら岡田と飯を食うぐらいだ。まあ、澪がいるなら大丈夫だと思うが」
久光は……刀岐があの要塞のようなマンションでずっと一人でいたことを知っているんだ。
学校にも行かず、一人で食事をして、除霊して、気絶したように眠っていた刀岐のことを知った上で、三人の式神を預けることにしたんだ。
ただの式神じゃない。
星那と百目鬼と犬神だ。
いくら小笠原久光の式神と言っても鎮守府は放置できないはずだ。
……陽と悠は継続して刀岐の部屋で警戒任務に就く可能性が高い。いや、鎮守府が人を派遣しないなら派遣するように、小笠原久光なら鎮守府を動かすことができる……。
「じゃあ、ぼくは行くぞ。とき坊、お前もこれからみっちり缶詰だろう?」
「そうなんだ。これから聴取を受ける」
「まあ、何が起きたかの推察はあらかたつく。ぼくからも颯斗にその考察は話しておいたから聴取もスムーズに進むだろう。じゃあな、とき坊」
「待ってください!」
私は思わず久光を呼び止めていた。
「……どうして、分かったんですか?」
陽が「み、澪、どうしたの、急に。小笠原久光は多忙なんだよ。そんな急に呼び止めちゃ……」そう言って顔を青ざめて私の腕を掴んだ。
「構わんよ、本波の末っ子。で、澪、何が知りたい?」
「どうすればすべてを見通すことができるんですか? それが陰陽師の力なんですか?」
すると久光はくっくっと笑った。
「澪、面白いことを言うな。陰陽師と言っても万能ではない。ただ、人より物事をよく観察しているだけだ。ヒントをやろう。例えば陽のそのスーツ」
陽は突然、自分のスーツを指さされ、「えっ⁉」と震えあがった。
「スーツと言っても鎮守府の支給品で言わば制服だ。鎮守府の管理官と言えば、現場仕事が多い。つまり国民相手の仕事が多い。だから清潔感を求められる。当然、スーツに皺や汚れは許されない。
だが今日の陽のスーツはクリーニングに出したものには見えない。となると、予期せぬ事態でクリーニングに出したスーツを受け取れず、前日に着ていたスーツの汚れを払い、消臭剤をかけたものを着用したのだろう。
自宅にはスーツの予備があるはずだ。でもそれがないということは外泊をした可能性が高い。
そして澪、お前たちと陽は現れた。サトリや犬神、そして百目鬼は、とき坊とお前を狙って襲撃を行っていた。となるといくら要塞に住んでいるとはいえ、鎮守府としては護衛つける。
じゃあその護衛についているのは誰だ? 陽だ。しかも通いじゃない。マンションに常駐させている。でもサトリたちはもうぼくの式神になった。となると、陽たちはお役目御免となる。だろう?」
だから星那たちを預けることを思いついた。
刀岐が一人にならないように……。
「……よく理解できました。ありがとうございます。分析して推理する。私が伸ばしたい能力だったのですが、物事をよく観察する、そして何より前提となる知識を頭に入れておく、それが大切なのですね」
「そういうことだ、澪。知識と情報を常に仕入れろ。とても重要なことだ」
久光はそう言うと
「よし。予定通りだ。行くぞ、岡田」
執事のような装いの岡田と呼ばれた長身の男性が恭しく礼をすると、久光と並んで歩き出した。
「またな、久光!」
刀岐が手を振り、久光は振り返らず、手だけ振った。
その次の瞬間、久光と岡田はもちろん、その後ろを歩いていたスーツ姿の男女が一瞬にして消えた。
……消えた。どうやって?
でも久光ならこーゆうこともできるんだ、としか思わなかった。
悟りを開いたかも、私。
「うわ~、怖かった。スーツ、クリーニングしていないからって怒られるかと思った」
陽は涙目だった。
「陽にとって久光って恐ろしい人なの?」
私の問いに陽は
「だってあの小笠原久光だよ。泣く子も黙る切れ者の陰陽師。鎮守府長官にブチ切れた外部の人間って小笠原久光ぐらいだし、今となっては長官も彼の信奉者だし……」
そんなにすごい人なんだ……。
「というか陽、時間、大丈夫か?」
刀岐の言葉に陽は「‼」となり、叫んだ。
「聴取開始まであと五分だ。二人とも、行くよ!」
陽の言葉に頷き、刀岐と私はエレベーターへ向かった。




