43:澪もやってみる?
ハグを終えた刀岐は、そのまま私の横に腰を降ろした。
「澪は誰かに力の回復してもらったこと、ないよな?」
「鈴には回復してもらっているけど、他はない」
「……理の守り手による回復は、神使による回復とは全然違うんだ……。送られてきた力が全身を巡ると、疲れ切った体にまさにパワーがみなぎるって感じで。すごく元気が出るというか……。とにかく一度こんな回復をされたら、神使による回復では物足りなくなりそうな……」
な、なんでそこで顔を赤くする‼
私まで恥ずかしくなるじゃない。
思わず視線を逸らし、棒読みで答えていた。
「へえー、そうなんだ。とりあえず役に立てて良かったわ」
すると両腕を掴まれ、体ごと刀岐の方に向けられた。
「澪もやってみる?」
「え……」
「何事も経験だろう? じゃないと分からないだろう、俺が言っていることが」
「い、いや、いい。分かっているから。すごく回復するんでしょ」
「分かってない、絶対」
「分かっているってば! また必要な時があればちゃんと刀岐のこと、回復するから」
「そうしてもらえると助かる……。じゃなくて、澪も経験してみるべきだ!」
「いいって。いや……うん、私がスタミナ切れになったらその時にお願い」
「澪がスタミナ切れになる……ないと思う。俺といる限り、澪にそんなに力を使わせることにならない」
……‼ どこからくる、その自信⁉
まあ……でもそうなんだろうな。
「そ、そーだよね。じゃあ私は安心だわ。っていうかそろそろ寝ないと。明日は鎮守府に行かなきゃならないし」
「……澪の勉強にもなると思ったんだけどな……。何事も経験だし。澪は勉強熱心だから、理の守り手同士の回復がどんなものか知りたいと思っている……と思ったのに。それにどれぐらいの量をどんなタイミングで送ればいいか、なんて、自分も経験しないと分からないと思ったのだけど。まあ、仕方ないな」
「……!」
絶対に私を煽っていると分かるけど、そこまで言われると……。
「何事も経験というなら、じゃあ刀岐、回復、してみてよ。……全然、力不足していないけど」
刀岐が笑顔で頷いた。
「じゃあ、ベッドに横になって」
「え、横になる⁉ 別にこのままでいいよ」
「……横になっておいた方がいいと思うけど」
……横になんかなったら余計に緊張しそうじゃない‼
「い、いい。このままで」
「分かった」
刀岐はそう言うと私の顎を持ち上げた。
え、いきなり⁉
心の準備もないままにいきなり力を送り込まれた。
「……!」
な、なに、この感覚。
刀岐は既に力を送り終え、私からゆっくり顔を離していた。
体が震えた。
鈴が力を回復してくれる時と全然違う。
力が全身を巡るのをはっきり感じる。
痺れるような、くすぐったいような、不思議な感覚。
あ……ダメだ。
全身から力が抜けた。
私は刀岐の胸の中に倒れこんだ。
全身がぽかぽかと暖かく感じた。
「ほら。横になった方が良かっただろう?」
そう言いながら私の体をベッドに横たえた。
鈴がやれやれという顔で私を見ていた。
「今は一気に力を送り込んだ。でも一呼吸分だけだ。それでも、分かるだろう? 神使の回復の時と全然違う。ゆっくり、十五秒ぐらいかけて一呼吸分の力を送り込むと、丁度いいのかもしれないな」
とても冷静に刀岐は分析しているけど、私は頭がぼーっとして何も考えられなかった。
さらに何か話続けたが私は上の空だった。
その状態で数分経ち、送り込まれた力が体に馴染んだ感じがした。
これは……ある意味ちゃんと経験しておいてよかった。
理の守り手同士の力の回復がどんなものかよく分かった。
私はゆっくり体を起こした。
「さっき言っていた方法でもう一度試してみるか?」
とても真剣な表情で私に尋ねた。
……変に意識した私がバカみたいだ。
私のことを真面目だと言うけど、刀岐だって同じだよ、と思いながら。
「……それはまた今度で。でもさっき言っていた15秒ぐらいで一呼吸分の力を送り込む、っていうのはよく分かった。次に回復をやる時はちゃんと調整する」
「分かった」
刀岐はそう返事をしてから、改まった表情で私を見た。
今度は何……?
私がその目を見返すと。
「……陽がさ、護衛の任を解かれると思うって言っていたよな」
「うん」
「プールから戻って洗面所で陽に会ったら、もう荷物を片付け始めているって言っていたんだ……」
「うん、お風呂から出たら片付けるって言っていた」
刀岐の視線がフローリングの床に落ちた。
「俺は……澪にはここにまだいてほしいんだけど」
……多分、言われると思っていた。
悠、陽、私。
急に人が増えて、みんなで食事をして、話して、団らんの日々を過ごしてしまった。
それでいきなり一人に戻るのは……。
刀岐じゃなくても辛いことだろう。
サトリは……桜那は「あなたは刀岐 伊織に唯一、安らぎを与えられる存在。彼のことを支えてあげてください」そう言っていた。
「うん。引き続きここにいていいか、確認してみるよ」
私の言葉に刀岐は笑顔になった。
その笑顔は、見ていると一番元気をもらえる気がした。
「良し。俺から澪に伝えたかったことは全部言えた。ありがとう、澪」
「うん。私も勉強になった」
「じゃあ、寝るか」
「うん。おや……」
刀岐が私を抱き上げた。
「な、何⁉」
「寝るんだろう?」
「寝るけど、まさか……」
「澪のベッドでもいいけど、俺のベッドの方が広いぞ」
「だから、そーゆう問題じゃないの‼」
「?」
私のことを刀岐が抱き枕にする問題、これ、解決しないと絶対にヤバいよ……。
私は頭を抱えた。




