42:できればスルーして欲しかった
刀岐と私を送り届けると海斗は鎮守府へ戻ってしまった。
「多分、明日以降、おれも悠も伊織くんと澪の護衛の任は解かれると思うんだ。百目鬼……というか二人を襲撃していた主犯の星那は拘束されたわけだしね」
陽の言葉に私は「そうなんだ」と頷きつつ、ということは私も自宅へ帰っていいと連絡が来るのかと考えていた。
「とりあえず今日、おれはもう鎮守府に戻らないでいいから、ご飯にしようよ、澪」
「分かった。ご飯にしては随分遅い時間になっちゃったね。陽は何食べたい?」
「うーん、おれは勤務が遅くなった時は鎮守府の食堂でラーメン食べていたな」
「夜食のラーメンね。刀岐は何食べたい?」
振り返ると刀岐は元気のない顔をしていた。
「大丈夫? さすがに疲れた?」
私の言葉に刀岐はハッとした顔になったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「お、俺もラーメンでいいよ。ちゃちゃっと作っちゃおうぜ」
そう言うとキッチンへ向かった。
野菜たっぷりの味噌ラーメンを作り三人で食べ、後片付けをして少し休憩すると、刀岐は「泳いでくる」とジムに併設されたプールに向かった。
ジムは二十四時間で開いていた。
陽は念のため護衛でついていくか刀岐に尋ねたが「大丈夫。陽も疲れたと思うから風呂に入って先に休んでいいよ」と一人出ていった。
「お言葉に甘えて風呂にでも入って、部屋の片づけを少ししておこうかな」
陽は座っていたソファから立ち上がった。
私もソファを立ち、自室へ戻った。
なんだかんだでここでみんなと過ごし時間は楽しかった。この日々はまだまだ続くのかと思ったけど、あっという間に終わってしまった。
私は猫足のバスタブにお湯をはり、ほとんど減っていないバスソルトの瓶を持ち上げた。
こんなオシャレな入浴剤、自宅じゃ使わないよね……。
綺麗なアクアマリン色のバスソルトを湯船に入れた。
一瞬でお湯は綺麗な色に変わった。
そっと足をいれ、私は湯船につかった。
浴槽の淵に両腕をのせ、私はそこに顔をのせ目をつむった。
分析力や推理力を鍛えるってどうすればいいんだろう。
分析……いろいろなデータや出来事から何か法則性や規則性を見つければいいんでしょ。
推理力は……推理小説を読むとかじゃないよね。
そんなことを考えながらお風呂を終え、ベッドで寛いでいるとドアがノックされた。
ベッドに転がっていた鈴も顔を上げた。
ドアを開けると刀岐がいた。
プールから戻ったばかりなのか、刀岐の髪はまだ少し濡れていて、いつもと雰囲気が違っていた。
「……澪、今、大丈夫か?」
「うん」
「部屋、入っていいか?」
「いいよ」
刀岐は部屋に入ると机の椅子に腰を降ろした。
私はさっきまで座っていたベッドに腰をおろした。
鈴は刀岐と分かると再び丸くなった。
「で、どうしたの?」
私の問いに刀岐は少し頬を赤らめた。
え、何……⁉
「澪にお礼を伝えたくて」
「……? なんの?」
「俺の力、回復してくれたの、八咫兵衛じゃないだろう」
……。そ、その件……。
できればスルーして欲しかったのだけど……。
「あ、うん。八咫兵衛は鎮守府に応援を呼びに行っていたから違う」
「……澪、なんだろう? 回復してくれたの」
「……まあ、あの場ではその、鈴とすばるは悠を回復していたし。あと琴音と私しかいなかったし。私は刀岐のデュオだし……」
思い出すなと脳に命じたが、頭にはハッキリとあの時の様子が浮かんでいた。
頬が熱くなっているのを感じた。
「助けてもらえて嬉しかった。ありがとう澪」
「ま、まあ、デュオとして当然のことをしたまでよ」
「……澪、ハグしていいか?」
予告してきた⁉
「……い、いいよ」
この流れは感謝の気持ちを表したいわけでしょ。
ノーと言えるわけがないよね……。
刀岐は私のそばに来ると、ベッドに座ったままの私を抱きしめ
「本当に助かった。澪、感謝している。ありがとう」
いつも通り刀岐からは清涼感のあるミントの香りがした。
これだけ感謝を表明されたら「離してよ」なんて言えないな。
私は刀岐の背をポンポンと軽く叩いた。




