41:自分で……自分にキスしたの?
「なんで幽体離脱なんてしたの⁉」
「仕方ないだろう。天の鎖で縛られていたんだ。星崎が解除しないと俺は動けなかった」
「でも幽体離脱なんて危険だよね⁉ それこそ憑依じゃなく、霊が乗り移っちゃうかもしれないのに……」
「天の鎖に縛られているんだ。霊や妖は俺の体には近づけない」
「でもなんて無茶してんの⁉」
「俺としては好都合だったけどな。自由に動けるから。幽体離脱した魂は生霊と同じで生命力に溢れ強いからな」
幽体離脱、それは右側の天柱から自身の魂を体外へ出すことだった。
物理的にやり方を知っていても、やる人は少なかった。
幽体離脱するにはとても力を使うし、魂が離れた状態の体が無防備になるからだ。
「確かに自由に動けるし、強いとしても、ものすごい力を使うのに……」
「だから他に手段はなかった。それとも澪は俺がそのまま星崎にキスされていればよかったと思うのか?」
「⁉ そ、それは……」
「ともかく幽体離脱した俺は、すぐさま星崎のペンダントを外した。で、星崎の天柱からアイツの中に入った。星崎は、悠が生霊に憑依された、あれと同じ状態になった。星崎の力は強い。でも生命力の強い俺が勝ち、星崎は体を動かし話す権利を俺に認めた」
「じゃあ、『どう、起こせば満足する?』って言ったのは……」
「俺だ」
「自分で……自分にキスしたの?」
「だから、星崎とはキスしてねーから。キスするフリをしたんだ。澪たちからは星崎の後頭部しか見えなかっただろう?」
なるほど。そういうことだったのか。
「琴音の中にいた百目鬼はどうなったの⁉」
「最初はそのまま祓おうと思ったが、百目鬼の気配が消えたら星那に俺が動いていることがバレる。だから祓わずに極限まで力を奪い、追い出した。少し離れた場所でかなり弱った百目鬼が発見されただろう?」
私は頷いた。
「星崎の体で自由に動けるようになったから、どう片付ていくかを考えた。まずは星那を天の鎖で縛ろうと思ったが、アイツが突然おしゃべりを始めた。天の鎖で拘束しても星那はすぐに口を割るか分からなかったし、真実を語らない可能性もあった。
だが澪、お前を目の前にした星那はえらく饒舌だった。澪のこと、ホント、気に入っていたんだろうな。自分の名前まで明かしているし。俺もいろいろ知りたいことがあった。だからそのおしゃべりに付き合うことにした」
その結果、刀岐は第三の妖が誰であるかも掴んだ。
星那――それが百鬼夜行を引き起こした犯人であり、あの日、刀岐の前に現れ、姉に憑依した悪霊の正体だと知った。そして星那が姉に憑依し、何をしたのかも知った。
そして自分に対し復讐をしようとしていること。そのために私を利用しようとしていることも。
「……おしゃべりに付き合う、ね……。でもおかげで私はとんでもない目に遭いそうになったんだけど」
「分かっている。怖い思いをさせてすまなかった」
突然私の肩に腕を回し抱き寄せた。
「……! き、急に抱き寄せないでよ‼」
「ごめん。これからは予告するよ」
「そーゆう問題じゃないから‼」
刀岐の腕の中から逃れ、乱れた髪を整えながら尋ねた。
「それであの時は何をしたの?」
犬神――悠を利用し、星那が私を苦しめようとしていると分かった刀岐は、琴音に告げた。
「お前がやったことは間違っていたが、まだこっちへ戻れる。お前が懸命に築いた居場所を捨てるな。悠が澪に体を預けるように倒れたら、星那を天の鎖で拘束し、俺の鎖を解除しろ」と。
そして刀岐は琴音の体を抜け出し、悠の天柱から中に入り、そこにいた犬神を制御した。
さらに自身の力を使い、私の体と声を縛る術を強制的に解除した。
その後は悠の体を出て、すぐ自分の体へ戻った。
以後起きたこと、それは私が目にした通りだった。
つまりあの時、私のそばに跪き、キスをしようと顔を近づけたのは……。
「澪、どうした……?」
すべてを聞き終えて無言の私に、心配そうに声をかけた。
あの時の涙を見られたと思うと、恥ずかしさと怒りが入り混じった複雑な気持ちになった。
でもどんな文句を刀岐にぶつければいいのか分からなかった。
「なんでもない。……幽体離脱を終えて、天柱封じのペンダントはどうしたの?」
「ちゃんとつけているよ」
刀岐は自分の首元を見せた。
「天の鎖の縛りから解かれた後、すぐにつけた」
「……琴音のペンダントは?」
「ああ、星崎のペンダントは地面に堕ちず、谷間に留まっていたからすぐに着けなおしていたよ、本人が」
……そんなに谷間あるんだ……。
「さて、到着したよ。伊織くん、澪ちゃん」
陽の声に刀岐と私は立ち上がった。




