44:また刀岐のベッドで朝を迎えてしまった……
結局。
刀岐に押し切られ……。
また刀岐のベッドで朝を迎えてしまった……。
でも、刀岐がちゃんと寝ているのは事実で。
……私も普段より眠りが深くなった気がする……。
それに。
朝目覚め、この寝顔を見られるのは……悪くなかった。
少し長めの前髪が、閉じられた瞼にかかっていた。
眉毛は左右対称にきちんと揃えられている。
瞼から伸びる睫毛は長く、鼻筋はすうっと通っていた。
ほりの深い整った顔立ち……。
悔しいが刀岐はイケメンで、目の保養になった。
「澪……」
ゆっくり目を開けると。
澄んだ瞳で私を見た。
「おはようございます、王子様。今朝の目覚めはいかがですか?」
私の言葉に刀岐が吹き出した。
「なんだよ、澪、その挨拶は」
「もし今が中世のヨーロッパだったらこんな挨拶してそう」
「ふうーん。じゃあ俺もちゃんと挨拶しないとな」
刀岐はそう言うと上半身を起こし、私の左手をとった。
「姫君、目覚めましたか。今朝も一段とお美しいですね」
上目遣いで私を見る刀岐は、直視するのが困難なぐらい、眉目秀麗だった。
……ヤバイ。普通にかっこよすぎる。
多分、顔、赤くなっている。
私はベッドから慌てて起き上がった。
「朝食の準備しなきゃ」
「よし。俺も手伝う」
キッチンに行くと陽がコーヒーを用意していた。
「おはよう、澪、伊織くん」
「おはよう、陽」
お互いに挨拶をして朝食の準備を始めた。
◇
朝食を摂り、片づけを終えると、陽が刀岐と私に声をかけた。
「三十分後に鎮守府に行くのでいいかな?」
「分かった。澪、それで大丈夫か?」
「うん。着替えるだけだから大丈夫」
私は部屋に戻り着替えをしていた。
「澪、スマホ、電話」
鈴に言われ、私は慌ててスカートを履くと、ベッドに置いていたスマホをとった。
悠からだった。
「はい、澪です」
「澪ちゃん、おはよう。もう起きていた……よね?」
「はい。これから鎮守府に行くので丁度着替えていたところです」
「あ、邪魔しちゃったかな?」
「大丈夫ですよ。悠は今日、仕事は……?」
「僕は大事をとって今日は休みになっている。昨日検査をしてそのまま病院で一泊して今、自宅に帰ってきたんだ」
「体は大丈夫ですか?」
「うん。検査結果も問題なし。でもメンタル的にはちょっとキツいかな」
「え、そうなんですか……」
「前回に続きまた妖の生霊に憑依されたからね……」
「! 犬神は生霊だったんですか⁉」
「うん。昨晩、祓おうとしたら生霊であることが分かって、すぐ本体の捜索が始まった。星那が現場にいたわけだから、そう遠くにいないだろうと思ったら案の定すぐ近くで発見されてね。一旦、犬神の体に生霊を戻してから調伏となったよ」
「無事、調伏できたのですか?」
「うん。伊織くんが、犬神の力をかなり弱めておいてくれていたから、抵抗することなく調伏されたよ」
「そうなんですね。それは良かったです。……犬神にどうやって憑依されたのか、覚えているんですか?」
「うん……。僕としては忘れたいけど」
「?」
「澪ちゃんたちが制服や荷物を取りに校内へ入っていっただろう。僕は星崎参事官と車で帰りを待っていた。そうしたら突然、星崎参事官に……」
「琴音が悠に犬神を憑依させたんですか?」
「……そうではなく、星崎参事官は突然僕にキスをして、そうしながら僕の天柱封じのペンダントを外していたんだ。僕は迂闊にも驚いてそれに気づかなくて。星崎参事官から解放された時に犬神が僕に憑依したんだよ……」
「それは……。キツイですね……。でも星崎参事官も百目鬼に憑依されていたから、もう事故だと思って忘れた方がいいですよ」
「澪ちゃんにそう言ってもらえると、少し楽になった」
「良かった!」
「……でもそれ以上に、澪ちゃんを傷つけかねない状況になっていたと思うと……」
……!
まさか星那が犬神に命じて私に嫌がらせをしようとしたこと、悠は知っている⁉
「悠はあの時の状況、分かっていたんですか……?」
「生霊の犬神はとても強くて、僕はまったく身動きがとれない状態だったけど、意識はかろうじて残っていた。それでも少しでも気を抜くと意識が遠のいて……。だから断片的ではあったけど、星那が澪ちゃんにヒドイことを言って、そして僕を使い、それを実行しようとしていることは分かった……」
星那の身勝手な言動は、悠の心も傷つけていたんだ。
そう思うと、星那に対して無性に腹が立った。
「悠、でも結局何もなかったから大丈夫ですよ。“If”で考えて心配しないでください」
「……澪ちゃん」
「悠も星那の被害者なんです。だから自分を責めたりせず、何事もなくて良かったって、安心してください」
「……ありがとう、澪ちゃん」
「今度ゆっくり公園を散歩しましょう。この前はほんのちょっとだけ歩いただけだったから」
「うん。そうしよう。……澪ちゃん、早く卒業して鎮守府に来てね」
「え、急にどうしたんですか⁉ 私、卒業までまだまだですよ(笑)」
「そうだったね。……とりあえず澪ちゃんと話せてとても元気になれた。ありがとう」
「良かった~。じゃあ、そろそろ私は鎮守府に行きますね」
「気を付けて」
「はい」
私はスマホを切った。
「悠、真面目だよな~。でも真面目過ぎて、大切な一歩が踏み出せないんだろな~」
「鈴、何言っているの?」
「いや。悠の気持ちの代弁。……でも澪が卒業したら悠はきっと……」
「だから何なの、鈴?」
「なんでもない。それより鎮守府行くんだろう」
鈴が肩にジャンプしてきた。
「うん。行くよ」
私は部屋を出た。




