39:刀岐は純粋で真っ直ぐ過ぎる
「なんで刀岐が謝るの⁉ ちゃんとその時にできる最善を尽くしていたじゃない。それでかろうじて意識を保ち、どこかへ到着するのを待っていたの?」
「……ああ。どこへ向かっているのか、まったく見当がつかなかった。ただ、上空には八咫兵衛がいて、車を追跡していた。何かあれば鎮守府へ報告するよう、星崎がワゴン車に乗った時から指示を出していた。自宅に戻らなければ、八咫兵衛は何かあったと気付くはずだった」
「そうだったんだ……」
「あと、一度だけ、悠と星崎が会話する声が聞こえた。小さな声だったので聞き取れない部分もあった。『……様は、現地で合流……そうだ』そう、星崎が言っていた。その時点で星崎は俺が感知できない形で憑依されているのだと思った。そして車内で展開されている催眠の術は俺たちには作用するが、憑依されている悠と星崎には作用しないのだと分かった」
「琴音は強い理の守り手なんでしょ。その琴音でも……憑依されちゃうんだね」
「……まあ、その件はこの後話すよ。それでその会話から分かったことがもう一つある。車が向かう目的地、そこに誰かがやってくるということだ。しかもその相手は、星崎と悠に憑依している者たちより、上位にあるものだと」
「星那のことね」
「ああ、今回の黒幕にサトリが……桜那の双子の弟が絡んでいるなんて、想像できなかった。完全に百目鬼が主犯だと思ってしまった。俺は……アイツが言う通り力は強いが、分析や推理は向いていなんだろうな」
刀岐が腕組みをしてため息をついた。
「でも全部間違っていたわけじゃないよ。オフィスビルに現れた星那は確かに私を狙ったわけだし。それにみんな百目鬼が主犯だと思っていたよ」
「……そうだな」
「それに星那に気づかなかったのは刀岐だけじゃないよ。鎮守府だって分からなかったんだし」
「澪、お前、優しいな」
刀岐はそう言って笑うと、私の頭に手を載せた。
不意に触れられ、私は思わずドキッとしてしまった。
それを誤魔化すように尋ねた。
「……、と、刀岐に、力は強いけど推理はダメなんて言った奴は誰なの⁉」
「俺と鎮守府の結界を一緒に展開した陰陽師だよ」
「陰陽師⁉ 陰陽師なんて私設組織じゃない。そんな奴に……」
「小笠原久光、アイツは別格だよ」
「……そうなの?」
「ああ。力は俺の方がダントツで強い。でもアイツは物事をよく見て観察して最善の選択をするし、いつも先を見て動いている。無駄がないし、判断を誤らない。尊敬に値する男だよ」
「そんなスゴイ人なんだ……」
突然刀岐が私の腕を掴んだ。
「澪、久光の方がいいとかって言い出すなよ。そもそもアイツは陰陽師なんだし、俺たちとは畑違いだ。デュオにはなれない。それに……」
「刀岐、何をどう推理したらそーゆう発言につながるわけ⁉ ……確かに刀岐は分析が向いていないのかも……」
「……。澪にそんな風に言われるとものすごく凹む」
多分、刀岐は純粋で真っ直ぐ過ぎるんだ(それを天然と言うのかもしれないけど)。
言葉を全部額面通りに受け止める。そしてそれに分かりやすく一喜一憂している。
きっと、うがった見方とか、なにか裏があるんじゃないかと疑うことをしないんだろうな……。
それは人として好ましい点ではあったが、危険と隣り合わせになる理の守り手としては克服しておきたい弱点に思えた。
でも。
それなら。
理の守り手はデュオで動くのが基本だ。
刀岐が圧倒的に強いなら、私が分析や推理ができるようになればいいんじゃないの。
「刀岐、大丈夫だよ。分析や推理、私ならできそうな気がする。これからこの二つを伸ばしていくから。そうすれば最強のデュオになれるでしょう」
「澪……!」
刀岐が両手を広げ、抱きつきそうになるのを制止した。
感情が高ぶるとハグをする。これも刀岐ならではの行動だった。
「ストーップ! 現地に星那がくることが分かって、その後はどうしたの?」
刀岐は私の言葉に動きを止め、残念そうな顔をした。
が、すぐに真面目な顔に戻った。
「悠と星崎が会話して、それからしばらくするとワゴン車は止まった。薄目で周囲を見たが、暗かったし、木々が生い茂っている様子しか見えなくて、そこがどこなのかは分からなかった。ただ、漠然と何か感じるものはあった……」
百鬼夜行で刀岐が戦い、お姉さんが憑依された現場だ。
八年経っても、一度穢れた地には淀んだ空気が残っていたのだろう……。
「この時点で俺はこの場所に誰が現れ、何をするつもりなのか、まったく見当がつかなかった。だから動くのをやめ、様子を見ることにした。催眠の術の影響は最小限で済んだが、様子を見ながら新鮮な空気を吸い、術が抜けていくのを待ちたかった、というのもある」
刀岐によると、車が止まると悠がそばにきて、刀岐の体を担ぎ、車から降りた。
悠は刀岐を担いだまま、しばらく歩いていたが、突然地面に降ろされた。
その瞬間。
「東西南北より伸びたる天の鎖よ、理の守り手・刀岐 伊織を、この地へつなぎ留めよ」
そう告げたのは琴音だったという。




