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完結●伊織くんは愛されたい!~問題児と才女の初心(うぶ)な恋~  作者: 一番星キラリ


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36/50

36:悠、やめて! 刀岐、助けて!

「でも、少年の痕跡はどこにも残っていなかった。ここはね、澪、少年がかつて住んでいた家の跡地だ。この場所は呪われていると噂になって、廃墟となり、誰も近づかない場所になってしまった。そしてここに住んでいた者たちも忽然と姿を消してしまったんだ」


星那は悲しそうな顔をした。


「少年を探していたら、あのユリのような美しい少女に面影が似た女性を見つけた。でも健全な人間の天柱は閉じられている。この女性の天柱を開くために、百目鬼(どうめき)にね、彼女の心が追い詰められるよう画策するよう命じた。


百目鬼(どうめき)はうまいことやってくれて、彼女の天柱が開いた。


私が彼女に憑依したまさにその瞬間に、周囲に突然結界が展開された。沢山の理の守り手の気配も感じられた。でも私は生霊として彼女に憑依していたから問題なかった。生霊は霊体の中でダントツで強いからね。生命パワーに満ちているから。


でも百目鬼(どうめき)は違う。だからとりあえず百目鬼(どうめき)も一緒に彼女に憑依して様子を見ることにした。そうしたら澪、君が私を見つけてくれた。しかも、彼の体に憑依するよう導いてくれた」


星那の視線は私の左側に立つ悠に注がれたが、すぐに私に視線を戻した。


「澪、君を見た時は驚いたよ。君はあの少女によく似ていた。しかも同じ制服を着ていた。思わず興奮してしまったよ。あの少女の時のように、君を押さえつけ、その細い手首を掴み、征服したい……そう思ったら……」


星那の目が細められ、濃いアメジスト色の瞳に怒りがにじんだ。


「伊織(いおり)が現れた。いきなり私たちの首を掴むから、百目鬼(どうめき)はすっかり怯えてしまった。仕方ないからあの場は退散した。でもこの時、私はまだ伊織が誰であるか分からなかった」


星那は再び左肘をつき、頬杖をついた。


「誰であるかは分からなかったがとても興味を惹かれた。その行動にも言動にも。だから再び会いに行くことにした。すると二人とも、桜那が協力する学園にいた。二人に会いに行くことは、桜那の気を引くことにもなると分かったら俄然やる気が沸いたよ。ちょうど面白い地縛霊にも出会えたからね。彼女を連れ、会いに行ったのさ。そして私は伊織が誰であるか確信した。あの時の少年だと」


やはり百鬼夜行で星那が出会った少年は刀岐(ときの)だったんだ。


微笑を浮かべ、星那は私を見た。


「伊織が誰であるか、伊織の弱点が何であるか、それも分かったわけだ」


星那は立ち上がり、私に近づいた。


「そろそろ伊織は起きるだろう。……私はね、澪、百目鬼(どうめき)が八年かけて集めた沢山の悪霊や怨霊を、再びの百鬼夜行を、伊織が一人で全部制圧したことに、相当頭にきていたんだ。まさかそこまでの力を持っているとは思わなかったから。


だから、伊織が目覚めたら、天の鎖で体が引き裂かれるのがいいか、虚無空間に落ちるのがいいか、問いかけるつもりだった。でも澪、君と話せてよかったよ。私はいい感じでクールダウンができた」


星那があの抗いがたい笑みを浮かべた。


「澪、君は伊織の弱点だ。そして私は君のことが気に入っている。伊織の目の前で君に口づけしたら、彼はどんな気持ちになるかな?」


星那は甘く優しい声で恐ろしい言葉を口にしていた。


「でも……私は伊織にとって敵だ。当然、私を憎いと思い、怒るだけ、か……。それではつまらないよね。彼だったらどうだろう? 仲間、なんだろう? 彼が澪に口づけしたら、伊織は苦しみそうだね。憎いや怒りだけの感情では収まらないだろう」


星那は悠の腕を掴み微笑んだ。


なんて残酷なことを、こんなに美しい笑顔で、甘く囁くことができるの……?


私は絶望的な気持ちで星那を睨むことしかできなかった。


「犬神、澪のことを可愛がってあげて。私が止(や)めろと言うまで」


……!


星那が視界から消え、刀岐の姿が見えた。


まだ刀岐は首(こうべ)を垂(た)れ、目覚めていなかった。


悠が私のそばに跪(ひざまず)き、顔を近づけた。


右目には近づく悠の顔が見えた。

でも左目には刀岐の姿が見えていた。


体は動かない。声も出せない。


悠、やめて! 刀岐、助けて!


私は心の中で叫んだ。涙がこぼれ落ちた。


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