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完結●伊織くんは愛されたい!~問題児と才女の初心(うぶ)な恋~  作者: 一番星キラリ


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34/50

34:抗いがたい美貌の持ち主

目覚めたのは、自分の体がぐらぐらと揺れていることに気づいた時だった。


力強い腕の力で自分の体が持ち上げられていると分かり、私はゆっくり目を開けた。


悠の端正な顔がすぐそばにあった。


……?


私は悠に抱きかかえられていることにようやく気付いた。


もしかして私がぐっすり眠ってしまったので、部屋まで運んでくれている⁉


悠。


私は声を出したつもりだったが、声は出ていなかった。

手を動かそうとしたが、まったく動かなかった。


声も体も動かせないほど、私、疲れていたの……?


私はなんとか動く目で悠の姿を見たが、悠は私が目覚めていることに気づいていなかった。


……鈴、鈴はどこ⁉


事情聴取されている間、鈴木は霊体化していた。


会議室を出た時、一度元の姿に戻ったが、私が学校に制服を取りに行った時にまた霊体化していたはずだ。


鈴のことも気になったが、今、どこに向かっているのかも気になった。


最初はマンションのエントランスに車を停めて、建物に向かっているのかと思った。でもさっきから目に入るのは夜空に伸びる木々だった。


悠が立ち止まった。

ゆっくりと私の体が降ろされた。


……ベンチ?


私は背もたれの上の部分に頭をのせ、両足はベンチに乗せられていた。


私をベンチにおろした悠はベンチの手すりの横の方に移動した。


悠がいなくなり、私は目の前の景色が見えた。


え……。


目の前に見えているものが信じられなかった。


十メートルぐらい離れた場所に、両手をあげ、膝をつく刀岐(ときの)の姿が目に飛び込んできた。


両手は天の鎖につながられていた。


地中から伸びた天の鎖に足首がつながれているのも見えた。


刀岐は意識がないのか、首(こうべ)を垂(た)れている状態だった。


何が起きているのか、さっぱり分からなかった。


「こんなに上手くいくとは。君の協力を得ることができてラッキーだったよ」


見知らぬ男性の声がした。

とても甘く優しく落ち着きのある声だった。


「さて。みんな揃ったようだし、起きてもらおうか」


カサカサと草を踏み分ける音がして白いシャツ、白いズボンが視界に入り、刀岐の姿が見えなくなった。


「あれ、澪、もう起きていたんだ?」


……!


目が釘付けになった。そして呼吸することを忘れそうになった。


なんて抗いがたい美貌……。


サラサラの長めの銀色の髪。

濃いアメジスト色の瞳。

透き通るような白い肌。


誰?


「その探るような瞳。会ったことがあるんだね。私の姉に」


もし私の体が動く状態だったら、この笑みを見て、全身の力が抜けたことだろう。


それぐらい見ている者の心を溶かすような笑みだった。


甘く優しい声とこの笑みで、落ちない人間がいるのだろうか?


……いや、今はこの美貌に魅了されている場合じゃない。


会ったことがある、と言った。

姉、に?

私は思考を巡らせる。


と同時に刀岐(ときの)を天の鎖につなぎ、私の動きを封じる人物がいるとしたら誰かと考え、一つの答えに思い至る。


……百目鬼(どうめき)。


人間の宿主の体をついに手に入れた、ということ……?


「百目鬼(どうめき)、澪は起きている。伊織(いおり)のこと、起こしてくれるかな?」


え……⁉


右側からゆっくり琴音の姿が現れた。


琴音は裸足で芝を踏みしめ、刀岐の方へゆっくり歩んでいった。


百目鬼(どうめき)が琴音に化けている?

それとも琴音に憑依している⁇


「百目鬼(どうめき)、そんな強引に頭を掴んで起こすようなやり方はやめてくれよ。君は今、とんでもない美女に憑依しているんだよ。もっとエレガントに起こしてくれないと」


琴音は……百目鬼(どうめき)に憑依されている……。


じゃあ今話しているこの美貌の青年は誰なの⁉


青年は私の右側に移動したので、刀岐とそのそばに立つ琴音……百目鬼(どうめき)の姿が見えた。


「百目鬼(どうめき)、何、突っ立っているんだい?」


百目鬼(どうめき)……琴音はビクッと一瞬体を震わせ、青年の方を見た。


「どう、起こせば満足する?」


「そうだね。眠りから目覚めさせる方法と言えば、口づけだろうね」


……⁉


すると琴音は表情を変えず、両手で刀岐の顔を持ち上げた。


刀岐(ときの)は目を閉じたままだ。

次の瞬間、琴音が刀岐(ときの)に顔を近づけた。


やだ……。

刀岐と琴音がキスする姿なんて見たくない……。


そう思ったが目を閉じることができなかった。


だが、見えたのは琴音の後頭部だった。


琴音がこちらを振り返った。

ぷっくりした唇を自身の舌でゆっくり舐めた。


……。


琴音が手を離すと、刀岐の頭はまた下を向いた。


この状況下で刀岐に全く反応がないということは、薬で眠らされている……?


「うん? まだ起きないのか? ……伊織は催眠系の術に弱いのかな?」


琴音はゆっくりこちらへ戻ってきている。


「……でも澪は起きているから……。あと十分も経てば術の効果は切れるだろう」


青年は独り言のように呟き


「じゃあ、澪、少しおしゃべりをしようか」


そう言うと再び青年が私の視界に現れた。


「よいしょ」


青年はそう言うと、見えない椅子に腰をかけた。


つまり、宙で長い脚を組み、まるでそこに肘掛けがあるかのように左腕をおき、頬杖をついた。


そして少し首を傾げた姿勢で私を見た。


「澪、私が誰であるか、分かったかい?」


あの心を溶かすような笑みで私を見た。


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